〈ギャンブル依存症・9つのセルフチェック〉「やり続ければ勝てる」「いつか取り返す」…オンライン化で若年化するギャンブル依存症の危険な思考回路
集英社オンライン / 2024年4月19日 17時0分
メジャーリーグのロサンゼルス・ドジャースに所属する大谷翔平選手の元通訳・水原一平容疑者は、大谷選手の口座から約24億5000万円以上を不正送金したとして訴追された。自らギャンブル依存症だと大谷選手やチームメイトに告白した水原容疑者だが、なぜ人はギャンブル依存症に陥るのか? ギャンブル依存症の診断基準やその相談窓口など、独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センター精神科診療部長・松﨑尊信医師に解説いただいた。
20代でギャンブル依存症の相談にくる人が年々増えている
今回のような報道があると、当院でもギャンブル依存症に関する相談が一時的に増えるということはありますが、受診者が劇的に増えるということはなく、常に一定数の方が外来を受診しています。
受診者数より気になるのは、年々若年層の患者さんの受診が増えていることです。
これまでギャンブル依存症の患者は30代~40代の男性が多かったのですが、最近は20代での受診も増えてきています。
社会でギャンブル依存症が認知されてきたため、早めに受診しようという動機に繋がっているのか、あるいは、ギャンブル依存症の若年化が進んでいるのかもしれません。令和2年からの新型コロナウイルス感染症の流行により、移動制限や人同士の接触を避けるため、急速に社会のオンライン化が進みました。
日本では、ギャンブルの対象として、パチンコ、パチスロなどの遊技が最も多いのですが、競馬、競輪、競艇、オートレースの公営ギャンブルは、競技場だけでなくオンラインでも投票できるようになり、近年オンラインを利用したギャンブルが増えています。
中高年に比べると、一般的に若い人のほうがインターネットやスマホの操作に慣れていることもあり、気軽にオンラインでギャンブルを開始して次第にのめり込んでしまうのかもしれません。
ギャンブル依存症とは、ギャンブルによって日常生活にさまざまな問題が起こっているにも関わらず、ギャンブルを続けたいという衝動をコントロールできない病態をいいます。
自身のギャンブル行動や賭けた金額などについて周りの人に噓をつく、借金してまでギャンブルを続ける、といった特徴があります。金銭的な問題などで、本人のみならず家族や周りの人たちにも多大な影響を及ぼします。
ギャンブル依存症のメカニズムとして、脳内報酬系の機能異常が指摘されています。脳内報酬系とは、快感刺激によって脳内のドーパミンという神経伝達物質が放出され、喜びを感じたり、ワクワク感や気持ちよさを感じたりする神経系です。
ギャンブルをして勝つと快感・興奮を覚えますが、脳内ではドーパミンが脳内報酬系で大量に放出されます。ギャンブルを繰り返すと次第にその刺激に慣れてしまい、同じ刺激では満足できず、より強い刺激を求めてギャンブルがやめられなくなってしまいます。
ギャンブル依存症の発症には、生物学要因、性格、環境要因などが組み合わされていると考えられています。
疫学調査では、男性に多く、好発年齢層は20~40歳代です。若い頃のギャンブル体験や、本人の性格傾向として、思いついたまま行動してしまう、カッとなって大声を出すなど衝動性が強い人は、よりギャンブル依存症になりやすいとされています。
環境要因としては、ギャンブルへのアクセスしやすさがあります。遊技場や公営ギャンブル場が身近にあると、ギャンブルをやめようと思ってもなかなかやめづらいものです。また、最近はオンラインでギャンブルに手軽にアクセスできる環境となり、ますますやめにくくなっています。
ギャンブルを始めた頃に大勝した経験(いわゆるビギナーズラック)がある人や、日頃からストレスを抱えたり、退屈を感じたりして、それを紛らわせるためにギャンブルをしている人などは要注意です。
‶やり続ければ最終的に勝てる″など根拠のない思考はギャンブル依存症の危険が
自分がギャンブル依存症かどうか気になる人は、以下の診断基準をチェックしてみましょう。該当するものが4つ以上あると、ギャンブル依存症と診断されます。
◆ギャンブル依存症の診断基準
□興奮を得たいがために、掛け金の額を増やして賭博をする要求がある
□賭博をするのを中断したり、または中止したりすると落ち着かなくなる、またはいらだつ
□賭博をするのを制限する、減らす、または中止するなどの努力を繰り返し成功しなかったことがある
□しばしば賭博に心を奪われている (例 : 過去の賭博体験を再体験すること、ハンディをつけること、または次の賭けの計画を立てること、賭博をするための金銭を得る方法を考えること、を絶えず考えている)
□苦痛の気分 (例 : 無気力、罪悪感、不安、抑うつ) のときに、賭博をすることが多い
□賭博で金をすった後、別の日にそれを取り戻しに帰ってくることが多い (失った金を"深追いする")
□賭博へののめりこみを隠すために、嘘をつく
□賭博のために、重要な人間関係、仕事、教育、または職業上の機会を危険にさらし、または失ったことがある
□賭博によって引き起こされた絶望的な経済状況を逃れるために、他人に金を出してくれるよう頼む
出典/アメリカ精神医学会の精神疾患の診断基準「精神疾患の分類と診断の手引き」(DSM-V)
また、ギャンブル依存症の人は、ギャンブルに関して偏った考え、例えば、‶やり続ければ最終的に勝てる″ ‶こういうやり方をすれば必ず勝てる″といった考えを持っていることが多いです。
相談・受診は早めに
ギャンブル依存症と自覚したら、症状が悪化して借金が膨れ上がる前に、できるだけ早く依存症を専門とする医療機関を受診しましょう。どこを受診したらいいかわからない場合は、都道府県および政令指定都市の精神保健福祉センター(https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/yakubutsuranyou_taisaku/hoken_fukushi/index.html)
に相談すれば、最寄りの専門医療機関を紹介してくれます。また、独自に治療プログラムを提供するセンターもあります。
治療は、医療機関に通院しながら、精神科医の診察と、認知行動療法等の専門プログラムを実施します。
当院では、テキストを用いた全6回90分の認知行動療法を実施しています。このプログラムでは、臨床心理師と個別あるいはグループでミーティングを行ないながら、ギャンブルに対する偏った考えや行動パターンを自分自身で認識し、どうやって改めたらいいかを一緒に考えていきます。
治療はプログラムを受けて終了、ではなく、その後もギャンブルをやめ続けるための取り組みを継続していく必要があります。
なぜならギャンブル依存症は再発するリスクが高いからです。数年間やめていたとしても、何かのきっかけでまたギャンブルを再開するということもあるため、年単位でこの病気と向き合っていく必要があります。
完治というのは難しいのですが、1日1日ギャンブルから離れる生活を続けることによって、ギャンブル依存症から回復することは十分可能です。
ギャンブル依存症は、自分ではなかなか問題に気づきにくい。そのため、医療機関の受診まで結びつかず、気づいたときには金銭的に困窮し、生活も乱れていることがあります。
金銭的に余裕があるのにギャンブルにのめり込んで多額の借金を抱えてしまい、会社や顧客の金を横領して事件化するような深刻なケースさえあります。
しかし、ギャンブルの問題があっても、早めに医療機関に相談すれば、解決のための糸口を提供することができます。
ギャンブル依存症によって、自分自身や周りの人を傷つけているかもしれない。そのように感じたときは、専門医療機関に気軽にご相談ください。
取材・文/百田なつき
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