『ちびまる子ちゃん』声優交代、松本人志不在のピンチヒッター…「代役・交代」をエンタメ化して消費してきたテレビ番組が直面する課題
集英社オンライン / 2024年4月21日 11時0分
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最近のテレビで話題となるのが、冠番組における主役不在の代役や交代劇。センターを務めるタレントのスキャンダル、体調不良、そして番組そのもののリニューアルなど、番組の存続を最優先にしたことから、制作側が出演者の入れ替えを下す判断だ。しかし、そこには視聴者側とのズレが垣間見える。テレビ番組に関する記事を多数執筆するライターの前川ヤスタカが、交代劇に伴うモヤモヤの正体を考察する。
活動休止中の松本人志レギュラー番組に代役はアリかナシか!?
松本人志が活動を休止してから3か月余りが過ぎた。
彼が出演していたレギュラーテレビ番組については、代役を立てたものもあれば、相方である浜田雅功をはじめ、もともといた他のレギュラーだけでつないでいるものもある。
代役を立てている場合も2パターンあり、『酒のツマミになる話』(フジテレビ系列)のように代役の千鳥・大悟が松本の役割を強く意識してMCをしているパターンと『だれかtoなかい』(フジテレビ系列)のように代役が「松本人志がその席にいた」ということをほとんど意識せずにやっているパターンである。
前者はあくまで一時的な代役なので番組としてもできるだけ色を変えないように同事務所のサブMCを据えたのだろうし、後者は中居正広とコンビを組むゲストMCにそれなりの人を持ってこられるなら別に色が変わっても構わないという判断だろう。
はっきりとした代役を立てていない番組は『水曜日のダウンタウン』(TBS系列)や『ダウンタウンDX』(日本テレビ系列)などだが、ここにおいては松本不在の影響は大きいと感じる。
『水曜日』も『DX』も番組のコアとなるのは「説」であり「芸能人のエピソードトーク」である。メインコンテンツそのものはダウンタウンの片方が不在であろうが変わらずおもしろいはずだし、実際におもしろさは変わっていない。
しかし、両番組ともなんだかふわふわしている気がするのだ。感覚的な物言いで申しわけないのだが、なんだか見ていて締まらない感じである。
「松本不在」というモヤモヤを感じる番組に必要なのは?
松本不在で改めて感じるのは句点の「。」をつける存在の重要性だ。オチをつけるというのともちょっと違う。その人が何か言うことで番組に「。」がつく。そういう存在である。
そういう人がいない番組は「。」のない文章のようになんだか落ち着かない状況になる。
『だれかtoなかい』は中居くん自体が「。」をつけられる存在なので、松本の代役はかならずしもそういう能力を持った人でなくともよかった。
一方、松本が今回の件以前に正式に降板している『ワイドナショー』(フジテレビ系列)が、いまだになんとなく松本不在を感じさせ続けているのは「。」をつける役回りの人がいないままだからである。
テレビで、代役を立てたり、交代したりするときは、その対象が番組にとってどのような存在であるかをよくよく考えなくてはならないのである。
代役や交代をエンタメ化してきたテレビの事情
近年テレビは、代役や交代をエンターテインメントとして消化してきた。
番組の歴史が長くなってくると、どうしても不動のレギュラーでは続けられなくなる。
ときにはレギュラー陣に突発的な事象が発生して一時的に代役を立てるケースもあるし、個人的な事情や番組の事情で交代を余儀なくされるケースもある。
そのときに発生する代役や交代というものは、ある種のイベントとして楽しむことが視聴者にとっても習慣化している。
もちろん『笑点』(日本テレビ系列)の大喜利出演者交代のように番組サイドがハナからイベントにする気満々のものもあれば、突発的に苦肉の策で代役や交代を急遽進めるケースもある。
とくにコロナ禍を境に「突然の体調不良で代役」は日常茶飯事であったし(代役の代役みたいなこともよく起こっていた)、不祥事で活動休止のパターンも頻繁に発生しているのはご存じの通りだ。
(それとこれとを同列に扱うなよと言われるかもしれないが)理由、緊急度合い、円満かそうでないかはどうあれ、「あの人の後任どうなるんだろうね」「代役立てるのかな」「あの人がいいな」「その人になったんだ。意外」「よくこんな状況であの人受けたな」「へー、裏ではこんな議論が……」といったことを、視聴者みんながガヤガヤ勝手に言うところまでが一連の流れとしてエンタメ化していると思うのだ。
視聴者を味方につけた『新婚さんいらっしゃい!』の交代劇
時にはこのガヤガヤが実際の人選に影響を与えるケースもある。
記憶に新しいところでは『新婚さんいらっしゃい!』(ABCテレビ・テレビ朝日系列)の桂文枝勇退後の後任として、ネットを中心に藤井隆を推す声が盛り上がり、結果的に本当に藤井隆が2代目司会となったこともあった。
また、正式に後任者を発表するまでの間、週替わりとか月替りでつなぐお楽しみ期間を設定するなんてこともある。
顕著な例で言えば『探偵!ナイトスクープ』(ABCテレビ)3代目秘書の松尾依里佳が降板してから4代目秘書の増田紗織アナが就任するまで実に2年近く、週替わりで異なる秘書が登場した期間があった。タレントやアナウンサーを中心に女性秘書がメインだったが、突然TOKIO(当時)の長瀬智也が秘書を務めるなど人選の意外さも相まって大変に盛り上がった。
こういった取り組みも「代役・交代のエンタメ化」の大きな流れの一つである。
代役も交代も楽しむと同時に温かく見守ることが本当のエンタテインメント
直近の突発的交代といえば、TARAKOさんの急逝に伴う『ちびまる子ちゃん』(フジテレビ系列)の声優交代であろう。
1990年から2024年まで初回からずっとまる子の声を担当していた彼女の急逝に、多くの人が深く悲しむとともに、果たして彼女の代わりをできる人などいるのだろうかとの思いを持った。
そもそも長寿アニメにとって声優交代はつきもので『サザエさん』(フジテレビ系列)も主人公のサザエ=加藤みどり以外、主要キャラはほぼ全員代わっている。
『ちびまる子ちゃん』もすでに多くの声優が交代しており、視聴者も交代慣れしているはずだが、それでも初回から34年間演じてきた主人公・まる子の声優が交代するというのは、とてつもなくインパクトの大きいことである。
しかし、そんな強いプレッシャーがかかることが見えている中、2代目まる子を引き受けた菊池こころさんを全面的に応援したいと思う。
当然、菊池さんの声は、TARAKOさんと全く同じではない。本人も「しばらくは耳慣れないと思いますが、温かく見守って」というように、違和感はゼロではないかもしれない。
だが、TARAKOさんの功績を称える気持ちがあるならば、2代目のチャレンジもまた称えるべきだ。TARAKOさんは素晴らしかった。彼女はまる子そのものだった。しかし菊池さんは菊池さんなりの方法でまる子になろうとしている。それだけで素晴らしいと思う。
先ほど書いたように交代や代役は、ある種エンタメ化している。
しかし、いくらエンタメ化していても、視聴者はその交代劇をさくっと消費して終わりにすべきではない。
交代の回だけ「なんぼのもんじゃい」的な態度で見て文句を言い、その後は見ないような視聴者のコメントなんて、ネットニュースをはじめメディアは取り上げるべきではないだろう。
本当にその番組を大切に思っている人なら、交代した後も番組の魅力が維持できるよう頑張る人たちのことをきっと応援するはずだから。
文/前川ヤスタカ イラスト/Rica 編集協力/萩原圭太
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