「感情で動く」「自分が悪いとは思わない」「決して謝らない」…なぜ“職場を腐らせる社員たち”は自分を曲げないのか?
集英社オンライン / 2024年5月13日 8時0分
〈根底にあるのは喪失不安。パワハラや迷惑行為を繰り返すビジネスパーソンが自己を正当化する「とんでもない」メンタル〉から続く
「いくら迷惑をかけても、自分が悪いとは思わない。もちろん決して謝らない」。書籍『職場を腐らせる人たち』によると、組織をダメにする人たちの共通点に挙げられる特徴だという。
書籍より一部を抜粋・再構成し、迷惑をかけ続ける人たちの変わることがない精神状態を解説する。
変わることができない職場を腐らせる人たち
まず肝に銘じておかなければならないのは、職場を腐らせる人を変えるのは至難の業ということである。ほとんど不可能に近いといっても過言ではない。その理由として次の四つが挙げられる。
①たいてい自己保身がからんでいる
②根底に喪失不安が潜んでいる
③合理的思考ではなく感情に突き動かされている
④自分が悪いとは思わない
本記事では③と④をそれぞれ解説する。
③合理的思考ではなく感情に突き動かされている
自己保身のためなら何をしてもいいという思考回路は、自分の損得しか考えておらず、きわめて自己中心的だ。しかし、裏返せば「そんなことをすると、長い目で見ればあなたにとって損になりますよ」と説得したり、なるべく喪失不安を刺激しないように気をつけたりすれば、一連のふるまいを改めさせることができる可能性があるともいえる。
損得勘定が判断基準になっている利己的な人の根本にあるのは、「何が自分にとって得になるか」という現実原則なので、ある意味では合理的思考にもとづいている。だから、合理的な利己心に働きかければ、少なくとも実害を減らすことはできるはずだ。
ところが、職場を腐らせる人のなかには、必ずしも合理的思考にもとづいているわけではないタイプがいる。その典型が羨望や嫉妬に突き動かされている人である。
何にでもケチをつける人や事実無根の噂を平気で流す人、あるいは陰で足を引っ張る人の根底にはしばしば羨望が潜んでおり、ときには嫉妬もからんでいる。羨望は他人の幸福が我慢できない怒りであり、嫉妬は自分の幸福を奪われるのではないかという喪失不安だが、いずれも非常に陰湿な感情である。
このような陰湿な感情を自分が抱いているのは恥ずべきことであり、誰だって認めたくないだろう。だから、自身の感情からどうしても目をそむけがちである。厄介なことに、こうした感情は往々にして合理的思考を妨げるので、たとえ自分には何の得もなくても、ときには損する恐れがあっても、他人の幸福をぶち壊そうとする。
たとえば、邪魔者を蹴落とすために事実無根の悪い噂を流すのは、かなりリスクを伴う行為である。ターゲットにされた側は、自分が引きずりおろされないように犯人探しに躍起になるだろう。そして、自分をおとしいれようとした犯人の特定に至り、「あいつに嘘八百を言いふらされた」と吹聴する可能性も十分考えられる。
そうなれば、卑劣な手段で他人の足を引っ張ろうとした卑怯者として周囲から白い目で見られるかもしれない。最悪の場合、仕返しも覚悟しておかなければならない。
第一、邪魔者を蹴落としたからといって、必ずしもその後釜に自分が座れるとは限らない。羨望の対象だった他人の幸福を自分が手にできる保証もない。にもかかわらず、他人の幸福をぶち壊そうとするのは、陰湿な感情に突き動かされて、悪意の塊のようになっているからだろう。
悪意を「自分が得をするためではなく、相手が得をしないように他者の願いの邪魔をすること」と定義したのは、古代ギリシャの哲学者、アリストテレスである(『悪意の科学―意地悪な行動はなぜ進化し社会を動かしているのか?』)。
羨望や嫉妬のような陰湿な感情に突き動かされて職場を腐らせる人は、他者の欲望を満足させないためには何でもするし、それがうまくいくと快感を覚えるようにさえ見える。その胸中には、まさにアリストテレスが定義した悪意が潜んでいるとしか思えない。
このような悪意を秘めた人を相手にすると、理屈も駆け引きも通じない。合理的な利己心の持ち主は、自己保身しか考えておらず、損得ずくで動くとはいえ、そちらのほうが多少は話が通じるので、まだましと思えるほどである。
④ 自分が悪いとは思わない
職場を腐らせる人を変えるのが困難な一因として、自分が悪いとは思わないことが挙げられる。第1章で紹介した事例の多くは、周囲が注意しようが、辟易しようが、同じことを繰り返している。これは、受信器の感度が少々低いせいではないかと疑いたくなるが、それだけではないだろう。自分の落ち度を決して認めたくなくて、自己正当化のメカニズムが働くせいでもある。
自己正当化は嘘よりも厄介だ。なぜかといえば、嘘をついている人には、その自覚があるが、自己正当化は知らず知らずのうちに行われ、その自覚がないからだ。当然、自分が悪いとは思わないし、反省も後悔もしないので、同じことを繰り返す。
この傾向、つまり反復強迫は、自己正当化が功を奏して周囲から許容されたり黙認されたりした過去の成功体験が大きいほど強まるように見受けられる。
もっと厄介なのは、自分には「例外」を要求する権利があるという思いが確信にまで強まっているタイプであり、フロイトは〈例外者〉と名づけた(「精神分析の作業で確認された二、三の性格類型」)。〈例外者〉は、法律あるいは世間一般の常識では許されないようなことでも自分だけは許されると思い込みやすい。
もちろん、通常はそんな「例外」を認めてもらえるわけがない。そこで、自分だけが「例外」を要求することを正当化する理由が必要になる。それを何に求めるかというと、ほとんどの場合自分が味わった体験や苦悩である。
このような体験や苦悩の責任は自分にはないと〈例外者〉は考える。必然的に、自分には責任のないことで「もう十分に苦しんできたし、不自由な思いをしてきた」のだから、「不公正に不利益をこうむった」分、「特権が与えられてしかるべきだ」との認識を持ちやすい。
ここで重要なのは、本人が味わったと主張する体験や苦悩が、客観的に見てどうかはあまり意味がないことだ。〈例外者〉は、自分の体験や苦悩が耐えられないほどつらく、過酷だったので、自分だけは「例外」を要求しても許されると思い込んでいる。
だから、普通の人なら遠慮するようなことでも、自分だけは実行する権利があり、許されて当然と考える。あるいは、みなに課されている義務であっても、自分だけは免除してほしいと要求する。その結果、職場を腐らせることを繰り返し、いくら迷惑をかけても、自分が悪いとは思わない。もちろん、決して謝らない。
写真/shutterstock
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