親の年収で子どもの体験に格差…水泳にピアノ、キャンプ…「友だちが行ってるから」では行かせてあげられない厳しい現実
集英社オンライン / 2024年5月5日 11時0分
〈習い事にレジャー…低所得家庭の子ども約3人に1人が「体験ゼロ」、年収別で2.6倍以上の差も…日本初の全国調査で判明した体験をあきらめさせる壁〉から続く
日本で初となる「子どもの体験格差に特化した全国調査」によるデータから、いまの子どもたちの「放課後」から何が奪われているのかを探る。またどのような「体験格差」の現実があり、解消するために何ができるのか。
『体験格差』(講談社現代新書)より、一部抜粋・再構成してお届けする。
「放課後」の体験はスポーツ系が高いが、年収による格差が…
今回の調査では、子どもたちの学校外での「体験」を、主に「放課後」に行うものと、「休日」に行うものに分けている。このパートでは、主にスポーツ系や文化系の習い事やクラブが含まれる「放課後」の体験についての調査結果を見ていこう。
ここで対象となる「体験」の多くは、野球のコーチや楽器の講師など「大人の指導者」がいて、かつ一度きりではなく「定期的な参加」が前提となっているものが多い。
世帯年収別にスポーツ系と文化系のそれぞれについての参加率を見ると(グラフ8)、どの年収でもスポーツ系のほうが文化系よりも高い参加率となっている。
また、スポーツ系でも文化系でも、世帯年収が高いほど参加率が高くなっている。まずスポーツ系を見ると、300万円未満の家庭では36.5%の参加率であるのに対し、600万円以上の家庭では59.8%となっている。1.6倍を超える格差だ。
同様に、文化系でも、300万円未満の家庭で17.6%、600万円以上の家庭で31.4%と、1.8倍近くの格差となっている。
結果として、スポーツ系であれ文化系であれ、「放課後」の体験の機会を一つ以上得ている割合は、世帯年収600万円以上の家庭であれば7割を超えているのに対し、300万円未満の家庭では半数に満たない。
要するに、300万円未満の家庭では子どもの半数以上が「放課後」の体験がゼロだということだ。
これら「放課後」の体験においても、最も大きな壁となるのはお金の問題だ。定期的な費用として数千円の月謝(数万円のものもある)がかかり、加えてことあるごとに用具や楽器、移動や宿泊などに関する費用もかかってくる。
なかには参加費がほとんどかからない場合もある。ボランティアが放課後に学校の体育館等で運営するクラブなどだ。しかし、それでも「送迎」や「当番」の問題は折り重なってくる。
スポーツ系は保護者の当番が必要だがそんな時間は仕事中なので当番も送り迎えも出来ない。ひとり親なので仕事をしなければお金が入らない。ひとり親家庭は金銭的にも時間的にもまったく何もさせられない。(鳥取県/小学4年生保護者)
お金という意味でも、時間という意味でも、様々なリソースが乏しい低所得家庭、そしてひとり親家庭の保護者にとって、子どもたちに「放課後」の体験をさせることにはいくつものハードルが存在している。
人気の水泳と音楽で生じる格差
数あるスポーツ系の「体験」の中で最も参加率が高いのが、実は水泳(スイミング)だ。サッカーや野球などを足し合わせた「球技」よりもさらに高い参加率となっている(グラフ9)。
そして、世帯年収による参加率の格差が最も大きく現れているのもまた水泳である。世帯年収600万円以上の家庭では子どものおよそ3人に1人(32.7%)が水泳に通っているのに対し、300万円未満の家庭では14.8%にとどまる。2.2倍もの格差だ。
今回の調査では、熊本県で3人の子どもを育てる女性の方から、こんな声も寄せられた。
友達が行っているから、という理由でスイミングに行きたいと言っていたが、入会金や月謝が高額で行かせてあげられなかった。
この女性はパート勤務で、夫の年収と合わせても世帯年収は300万円に届かないという。小学1年生の子どもがスイミングスクールに通うことを望んだが、経済的な理由で断念したそうだ。
文化系の「体験」では、音楽の参加率が最も高く、それに習字・書道が続く形となっている(グラフ10)。世帯年収間での参加率の格差は、習字・書道でよりも音楽でのほうが大きくなっているが、音楽のほうが様々な費用がかかりやすいことが影響しているかもしれない。
世帯年収600万円以上の家庭では17.5%が何らかの音楽の「体験」に参加しているのに対して、300万円未満の家庭では7.5%にとどまっている。2.3倍の格差だ。様々な音楽の「体験」の中で最もポピュラーなのがピアノ教室だろう。だがやはり、誰にでも手が届くわけではない。
パートで働きながら小学6年生の子どもを育てる北海道在住のシングルマザーの女性からは、教室の月謝が払えず、「ピアノを習いたい」という子どもの希望をあきらめさせるしかなかった、そんな声も届いている。
再びグラフ10に戻ると、「科学・プログラミング」は参加率の水準自体は高くないが、世帯年収での格差が強く出ている。世帯年収600万円以上の家庭で4.2%、300万円未満の家庭で1.2%と、3.5倍も違う。
プログラミングへの注目は高まり、子ども向けの教室も増えている。だが、月謝が数千円ではなく数万円の単位になることもあり、子どもが興味を持ったとしても簡単にはさせてあげられない、そんな低所得家庭の保護者も少なくないようだ。
子ども目線で「放課後」を考える
「放課後」の習い事やクラブ活動は、すべての子どもたちが「するべきもの」、「しなくてはならないもの」ではない。「最近の子どもは習い事が忙しすぎて、遊ぶ時間も十分にとることができずにかわいそうだ」といった声を聞くこともあるが、正当な懸念だろう。
先日、首都圏の私立高校に通う学生と話す機会があった。彼の友人は、親の意向で嫌いな習い事を渋々続けているそうだ。
やりたいことができるのは大事。だけど、やめたいと思ったときにやめられることもまた、大事だと思う。
そんな彼の言葉に賛同する。この社会には、望んでいない「体験」をさせられる子どもたちもいれば、やってみたい「体験」があるのにできない子どもたちもいるのだ(させてあげたいのにさせてあげられない親たちも)。
子どもたち一人ひとりに合った形で、一人ひとりが望む形で、放課後の時間を過ごすことができるべきだろう。友達と自由に遊ぶ時間。ぼーっと過ごす時間。習い事をする時間。
それらをどんなバランスで組み合わせたら、目の前にいる「この子ども」にとって良いと言えるだろうか。こうした問いに真摯に向き合い、大人の目線や都合から捉えるのではなく、その子ども自身の目線で、子どもの権利という観点を第一に、一緒に考えていくこと。それが子どもたちに対する、大人たちの責任であるだろう。
文/今井悠介 写真/shutterstock
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