〈漫画あり〉サウナ漫画を描くきっかけになった妻との死別…ポケモンのコミカライズ作者が67歳にして初のオリジナル漫画に挑戦した理由「なにかを始めるのに遅すぎることはないから」
集英社オンライン / 2024年5月28日 11時0分
〈〈漫画あり〉Xで1100万回表示超え『サウナウォーズ』、漫画家歴40年の大ベテランの「消しゴム6個分、8時間かかった下書き消し」経験から生まれたデスゲーム脱出法とは〉から続く
「月刊コロコロコミック」(小学館)でコミカライズ作品を連載してきた穴久保幸作先生が御年67歳を迎える。キャリア40年以上にも及ぶコミカライズ、ギャグ漫画の御大が、初のストーリー漫画『サウナウォーズ』を連載し、大バズり中となっている。還暦を超えてなぜ全く新しい挑戦を志そうとしたのか、その心中について聞いた。
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「物書きとしては、多くの人に読んでもらえるだけでうれしいんですよ」
――1990年にTVアニメ『からくり剣豪伝ムサシロード』(日本テレビ系)のコミカライズで初連載。1991年から『おれは男だ! くにおくん』、1996年から『ポケットモンスター』を連載され、キャリアの大半をコミカライズ作品に捧げられました。67歳で『サウナウォーズ』のようなオリジナル漫画にチャレンジしようとしたきっかけはあったのでしょうか?
穴久保幸作先生(以下同) 結論から言うと、人の“死”が身近になったからですかね。
この歳になると、どうしても周りの人間もどんどん亡くなっていって、葬式で骨を拾うことのほうが増えてきました。実は5年前に妻も亡くしているんです。
僕自身も老いを実感してきて、思うように漫画を描けなくなってきましたし、いつ死ぬかわからなくなってきている。
先がないな、と考え始めてから、ふとずっと夢見ていたストーリー漫画を描きたくなったんですよ。僕は18歳で上京してそのまま10年ぐらいはアシスタント生活だったのですが、そのころからストーリー漫画の連載を持つことにはすごく憧れを抱いていましたので。
――当初はギャグ漫画ではなく、ストーリー漫画志向だったんですね!
ギャグ漫画自体にも興味はあって、若いころは『がきデカ』(山上たつひこ)や『すすめ!!パイレーツ』(江口寿史)が好きで読んでいました。おまけにギャグ漫画ってページ数も少ないし、誌面にも載りやすい。そんななか、コロコロから声がかかったこともあって、そのままギャグ漫画家として活動し始めました。
でも、やっぱりストーリー漫画を描きたい意思はずっとあったんですよ。ただ『ポケットモンスター』の連載が続いていましたし、子どももいて生活費を稼ぐのに必死で、なかなかオリジナルを描こうという機会がなかったというワケです。
――コミカライズの仕事が続いた一方、ストーリー漫画の巡り合わせにはご縁がなかったんですね。月日が経って2019年には23年に及ぶ長期連載が続いていた『ポケットモンスター』も「月刊コロコロコミック」で連載が終了。現在もコロコロオンラインで「アニキ編」を連載中ですが、本誌連載が終わったことで一区切り付いた実感はあるのでしょうか?
たしかにポケモンが終わった分、漫画に対して向き合う時間は確実に増えましたね。ギャグ漫画って1話あたり15ページが基本で1話1話にかけている時間はそれほどありませんが、『サウナウォーズ』はページ数を多く使える。
加えて、コミカライズじゃないので表現の制限がなく、自分のアイデアを活かしやすい。まあ今までストーリー漫画をやってこなかった分、話を一から考えるのが大変なんですけどね(笑)。
あとは読者に読んでもらえることって幸せだなと再認識しました。昔は締め切りに追われるばかりで読者のことをあまり意識できていなかったのですが、SNSなどの力もあって感想がダイレクトに来るようになった。やっぱり物書きとしては、多くの人に読んでもらえるだけでうれしいんですよ。それが今の原動力になっていますね。
「昔はとにかく細かく小さく、今は大きく見やすく!」
――ストーリー漫画はもちろんですが、コミカライズは原作となる版元との打ち合わせなどもあり、違った意味で制作が一段と大変そうです。くにおくん、ポケットモンスターのときはどのような制作環境だったのでしょうか?
くにおくんに関しては、自由に描かせてもらったんですが、ポケモンはやっぱり年々キャラ数が増えていくので覚えるのが大変。ポケモンの描き方も正確に再現しなければなりません。
1996年のゲーム開発当時からコンテンツとしての規模も大きくなり、歳のせいか物忘れが増えてきたこともあって本当に大変です(笑)。
――穴久保先生はウェブでの連載作品が増えてきましたが、雑誌と比べて原稿の描き方などは変わってきたのでしょうか?
私はずっと制作環境がアナログなのですが、ウェブになってからはコマ割がかなり変化しました。
当時の雑誌はコマ数と描き込みを増やすようにするのが主流でした。大きいコマを作ると「贅沢だ!」と編集部からドヤされることがあって。同じくコロコロで『スーパーマリオくん』を描いている沢田ユキオ先生も、とにかく内容を詰めろとおっしゃっていました。時間をかけてじっくりと読んでもらえる時代でしたので、そういった方針だったでしょうね。
ただウェブとなるとスマホで読んでもらうことがメインになるので、とにかく見やすい原稿を作らなくてはいけません。だから必然的に1コマを拡張して、大きなコマ割を意識する必要があるんです。『サウナウォーズ』もウェブ連載だから、大ゴマを意識して描くようにしています。
個人的には内容を細かく詰めて描きたいんですが、今は娯楽があふれていますから、読んでもらえるように配慮するのは仕方ない気もします。このご時世、読者がいるだけでありがたいですからね。
「できれば机の上で死にたいですね(笑)」
――『サウナウォーズ』で漫画家として新境地を迎えられるなか、ひたむきにペンを握り続ける姿に感銘を受ける読者も多いです。いまだにモチベーションと熱意を持ち続けられる秘訣について教えてください。
とりあえずやめようと思ったことはないですね。漫画家として一花咲かせてやるという気持ちもありましたし、何より世間知らずだったから漫画に専念することができた。東京にはいろいろな遊びの誘惑がありますが、基本的に部屋の中で漫画を描くだけの生活になっていたので、やはりそうした辛くも楽しかった日々が僕をいまだに漫画家として成り立たせているのかもしれません。
ただ僕には漫画家仲間が何人もいるんですが、やめて地元に帰った人間も多いです。熱意だけではどうにもならない問題もあるので、自分としては漫画家を続けようと思える環境、読んでもらえる読者がいることが幸いでしたね。
――人間、精神的に成熟していくと失敗を恐れて新しいことに挑戦しようとしない傾向になっていくと思われますが、穴久保先生は最後まで漫画家としてあり続ける、と。
究極のことを言ってしまえば、机の上で死にたいですね(笑)。まあこれは大げさですが、自分は人生の楽しみを仕事に落とし込めているので、今でも続けられるんだと思います。
だから余力のあるうちに『サウナウォーズ』を描くことができて本当によかった。身体は着々と限界を迎えつつあるのですが、そのときが来る前になるべく自分のやりたいことをやったほうがいい。何かを始めるのに遅すぎることなんてないですからね。
だから、僕はこの『サウナウォーズ』をもっと描きたいので、みなさんコミックスを買ってください!
取材・文/中田椋/A4studio
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