高橋洋一が語る「新聞、とくに日経新聞が絶対に書けない話」報道しない自由を行使!日銀と大手銀が組んで「最高益」のカラクリとは
集英社オンライン / 2024年5月16日 8時0分
〈2026年にはトヨタの新車の2割が電気自動車になる?「化石燃料をガンガン燃やしてEVを作っている」世界の自動車市場の矛盾〉から続く
2023年4〜9月期の三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行、りそな銀行、三井住友トラスト銀行の実質業務純益は合計1兆7754億円で、これは過去最高益だという。
書籍『髙橋洋一のファクトチェック 2024年版』(WAC BUNKO)より一部を抜粋・再構成し、行員以外には腹立たしい、儲けのカラクリを解説する。
30年もかかった株価最高値で大騒ぎする方がおかしい
──日経平均株価がバブル期以来の3万5000円回復。株価が絶好調なんですが。
バブル期以来って、これ30年ぶりぐらいの話でしょ。それをすごいって言うより、30年間ずっとそれ以下だったほうがおかしいんだよ。
──30年前にやっと戻ったということですか。
ひどい話だよ。30年間何も進歩がなかったということだから。喜ぶような話じゃない。この間の世界では、普通の政策をとっていれば株価は上がったんだから、日本が普通じゃなかったということですよ。
どうしてこんなひどいことになったかという話で言わせてもらうと、アメリカでいろんな国から集まってきた人たちとバブルの研究をしたことがあるんだけれど、日本の場合、明らかなのは、バブルは間違っていたからその後は引き締めをするのが正しいと思い込んだ。それが最大の失敗だった。
バブルなんて別に大した話じゃない。いろいろな国でいくらでもあったことだよ。日本のバブル期の経済パフォーマンスを見ると、失業率が低くて、インフレ率も2.9か3%くらいだったから全然悪くない。なぜこれくらいで引き締めるんですかといろんな国の人に聞かれてね、「いや、ちょっととち狂って、バブルは悪いとみんな思い込んじゃったんじゃないですか」としか答えようがなかったよ。
だから日本のバブルなんて世界的に見れば大したことはなかった。それなのに財政政策、金融政策ともに引き締めを猛烈にやりすぎてしまったのが失敗だった。
それで「財政状況もそんなに悪くないし、金融だって別に引き締めることはないのだから」というのでやったのがアベノミクスなんだよ。アベノミクスをやっている限り株価は上がると私は思っていた。現に上がったんだけれど、その後に民主党が決めていた消費増税がガツンときて、強烈パンチを食らった。
いくらかでもダメージを減らそうとして、安倍さんが実施時期を少しずらしたけれど、二度目の増税がある。たまらないよね。戦艦大和が魚雷を2発食らったようなものだからね、本当にヘトヘトになったけれど、なんとか持ちこたえて、これで大丈夫かなと思っていたら、今度はコロナ禍。魚雷を3発も食らってよく沈まなかったと思うよ。
でも、いまは何もないから普通にやっていれば株価は上がるんです。適切な政策を続ければもっと上がると私は見ています。
さっさと所得税減税をしておけば
──株価は上がっても生活が楽にならないという不満をよく耳にしますが。
株式市場だけが儲かって、株を持っている人はいいけど、持っていない人の懐は温かくならないという話ね。これはものごとには順番があるということですよ。株価が上がると次に少し遅れて雇用者所得が上がることがわかっている。
株価というのはどちらかというと資本家サイドの話だから、そちらが先に上がるだけ。就業者数とか雇用所得というのは後から上がる。それで待っていると、株価が上がって半年くらい良い状態が続くと、まず名目賃金が上がる。いまはインフレ率が高いけれど、そのうち名目賃金がインフレ率を追い越すから実質賃金が上がるようになって、失業率が2.5よりちょっと下くらいでずっと張り付く。こういう状況になるともう賃金はグーンと上がっていくよ。
だから、ものは順番で、株価上昇はその最初に出てくる現象なんだ。だからこれは悪いことでは全然ない。それを見て「俺の給料は上がっていない」なんて文句は言わないで、もう少し待って失業率が低位になって張り付く状況になれば、名目賃金は上がり始めるよ。株価はちょっと先に動くだけで、マクロ全体としては悪い話ではない。
──じゃあ落ちる時もそういう順番で落ちていくということですか。
資本家のほうが先に下がるのが一般的なんだよ。雇用労働者の賃金は下方硬直性があるのでけっこう保護される。資本家の配当所得とかはすぐ下がるけどね。
──給料というのはそう簡単に下げられませんからね。
そう。だから労働者は賃金が上がるのも遅いけれど、下がるのも遅い。一般的にはそういうことだよ。下がらなかったことを忘れて、俺の順番はまだか、上げる時は先にしろと言う人がけっこう多いんだよ。
資本家と労働者で言うと、資本家はリスクをとるから上がるのも早くて下がるのも早い。労働者のほうはリスクをとらないから上がるのが遅れるけど下がるのも遅い。
──なるほど。非常にわかりやすいです。だけど、上がるのを待っていたらお預けを食うこともあるのでは?
株価だけ上がって後の人はお預けというのがいちばんまずいパターンだね。そういうこともあるにはある。でも考えてみれば、自分はお預けでも日本経済全体としては儲かった人がいるのは悪いことじゃない。だから他人のことをあまりやっかまないほうがいいよ。
なにか「俺が俺が」とか「俺はまだか」という人が多いけれど、経済全体として潤ったのであれば、別に他の人が潤ったって、自分が損しなければいいじゃないかと私なんかは思うけどね。
──今後の見通しとしてはとりあえずこのまま行けそうですか。
タイミングを逃さないことだね。たとえばさっさと所得税減税をしておけば、2023年の年末調整でみんな心も懐も豊かになれたのに、6月までお預けを食らったからね。ああいうのはよくないんだよ。やることが決まっているのならタイミングを逃さずにズバッとやるのがいいに決まっているんだから。
あとから一言
2月22日、東京株式市場でバブル時代に記録した史上最高値(3万8957円44銭)を更新して3万9156円97銭に達した。史上最高値の更新は34年ぶり。(2024年1月19日)
日銀と組んで大儲け! 大手銀行最高収益のカラクリ
──大手銀行が最高益を出しているという記事を読みました。あんまり大きく報じられていないので気がつきにくいのですが。
儲かっている話はあんまり言いたくないからでしょうね。この間ある人に急にお礼を言われたから、「何のことですか?」って聞いたら、植田和男さんが日銀総裁になった時に私が「植田さんは国民経済よりどちらかと言うと金融機関に軸足を置いた政策をとりますよ」と講演で話したのを聞いてピンときて、銀行株をたくさん買ったんだそうです。
おかげで儲かりましたって感謝された。なんと答えたらいいのやら。
この5大銀行の2023年4〜9月期の実質業務純益というのを見ると、三菱UFJが7625億円で46%の増益。すごいよね。三井住友は4138億円、みずほ3524億円、りそな943億円、三井住友トラスト1521億円。合計で1兆7754億円。16%の増益です。
これはもうすべて金融政策の結果ですよ。植田さんはいまも金融緩和していますよとしきりに言いつつ、長期金利のタガを少し緩めたから、ちょっと金利は上がっている。設備投資をしようとすればすぐわかるけれど、銀行からの借り入れの長期固定の金利は少しずつ上がっている。そのぶんが収益増になっているんですよ。
金利が100倍になったとか言ったって、0.002%が0.2%になっただけだから、預金金利は全然上がっていないのと一緒でしょ。預金金利というのは短期の金利なんだけど、これはほとんど動かない。だけど長期固定の設備投資資金が上がっているから、そういうところが反映しているのですね。植田日銀が庶民より銀行のほうに軸足を置いた金融政策を行った結果で、私の予想は正しかったことになります。
本来なら預金金利も一緒にちょっと上げておくか、むしろ全然動かさなければどうということはないのだけれど、こういう銀行が儲かるようなオペレーションをしたということですね。岸田政権がボロボロだから、植田日銀がその仮面を脱いで銀行擁護者の正体をどんどん露わにしてきた気がしますね。
日経新聞では絶対に書けない
──でも、景気全体から見ればいいことではありませんか。
よくはないよ。金融機関のほうが儲かるというのはあまりいい話じゃない。逆に言うと国民はそのしわ寄せを受けていることになる。
銀行が儲かる仕組みをもうちょっとバラしちゃうとね、白川方明さんが日銀総裁だった時からやっている話で、一般企業や個人事業主は銀行に当座預金を持っているけれど、これは財布代わりだから、金利がつかない。でもその当座預金を銀行がそのまま日銀に預けると、これには金利がつくんです。0.1%くらいだけど、銀行ぜんぶ合わせると200兆円ぐらいあるから、それで2000億円まるまる頂きということになる。
さすがにこれはちょっと批判があるから、200兆円をちょっと超えると金利が少なくなってきて、さらにそれ以上になるとマイナス0.1%になる。そのいちばん高額のところのマイナス金利という話を強調するんだよ。だけどプラス金利のほうがでかいから、ほとんど関係ない。
──じゃあマイナスと騒いでいるわりには儲かっている?
マイナスになっているのは銀行が日銀に預けている巨額の当座預金のほんの一部だけで、ほとんどがプラス金利で丸儲けしているから銀行収益は底堅いんだよ。企業のほうは金利をもらっていないのに、それを預かってそのまま日本銀行に持って行くと銀行は金利をもらえるんだから。
これは白川日銀時代に導入された。それ以前は銀行から日銀への当座預金も金利ゼロでした。それが当たり前だよ。日銀はお札を刷って儲かっているから、その利益の一部を銀行に分け与えている。私はこれにずっと反対しているんだけどね。
──もうやめたということにはならないんですか。
日銀の中のルールで始めたことだから、それもできるはずなんだけどね。
──法律じゃありませんからね。
でも金融界の猛反対があってできない。一度もらったものはすべて頂きということでね。安倍政権の時でもできなかった。
──テレビとかではよく金融正常化とか言っているじゃないですか。
銀行は当座預金のプラス金利でもらいすぎているんだよ。それなのに自分のいただいたものは正常化したくない。
──本当の意味で正常化と言ったら金利ゼロにすることじゃありませんか。
白川日銀の前に戻すのが正常化だよね。
──これはマスコミも書けない?
マスコミがこれを書いたら金融機関の広告収入がなくなるからね。日経新聞では絶対に書けない。とにかく報道しない自由を駆使するわけです。
──なかなか腹立たしい話です。
普通の企業からすれば、当座預金で金利なんかもらったことはないのに、よく金融機関は平気でもらっているなと思うでしょう。本来であれば日銀納付金という形で国庫に入ってきたお金なのに、その一部を金融機関に還元しているということであります。
(2023年12月28日)
写真/shutterstock
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