市場規模781億円の「グミ」がヒット商品を続々生み出せる5つのヒント「消費者の声から“大ヒット”は生まれない」理由とは
集英社オンライン / 2024年5月15日 17時0分
いつの間にかガムに代わる人気ジャンルになったグミ。そのすさまじいヒットぶりには実は明確な理由があった。グミから学ぶ「ヒット商品を生み出す秘訣」とは?
『グミがわかればヒットの法則がわかる』を上梓した流通科学大学の白鳥和生さんに聞いた。
グミがガムを抜いた理由は「コミュニケーションツールになったから」
――近年、さまざまなグミがコンビニやスーパーの棚をにぎわせています。2021年には、長らくトップだったチューインガムの売上規模を上回ったそうですが、その理由は何だったのでしょうか。
白鳥(以下同) 2021年にグミの売上がガムを上回ったのは、コロナ禍を経てグミがコミュニケーションツールになったことが大きいです。
コロナ禍ではみなさん行動を自粛していたため、友人にまったく会えなかったり、新しい友人ができなかったりなど、他者との関わりが希薄化しました。そのため自粛が緩和されて以降は、再度コミュニケーションを取ろうとする動きが多かったように思います。
元々、グミは持ち運びしやすい「外で食べる用」のお菓子でした。ところがコロナ禍以降、特に若者の間で、たまたま会った友人や初めて会った人にグミをあげたら喜ばれたり、グミをきっかけに話が盛り上がったりする様子が見られるように。
こうしてグミがコミュニケーションツールとして活用されるようになった結果、グミ市場は伸び続けて、2022年は前年比23%増の781億円規模にまで成長しました。
――グミが人気になった理由は他にもあるのでしょうか。
ひとつは、オフィスワークからリモートワークに切り替わった人が多かったことです。
元々オフィスワークのお供はガムでした。ガムをかんで集中力を高めたり、気になる口臭をガムによって打ち消したりする効果があったからです。しかしオフィスワークが減ったことで、対面で人に会う機会も減少し、ガムは市場を縮小しました。
しかし、口寂しさや集中したいというニーズは残るため、それをグミがうまく拾いました。ガムの代替品としてヒットしたのが、かみ応えのあるハードグミ。カバヤ食品の「タフグミ」などです。
それから、コロナ禍で“おうち時間”を充実させるようになった結果、外で食べるものだったグミが家でも楽しまれるようになりました。家で食べるというニーズがアドオンされ、純粋な市場拡大につながっています。
このほか、グミが昔から親しまれていて、祖父母が孫に買い与えるなど“世代をつなげる”お菓子であることや、原材料が砂糖とゼラチンで原価率が低く、商品が売れなくても企業ダメージが比較的少ないことなども、グミ人気の背景にあります。
グミから学ぶ「ヒット商品を生み出すヒント」
――今や大人気のグミをお手本にヒット商品を作るなら、どのような点が応用できそうでしょうか。
グミに関して、私は5つの視点があると考えています。
1「幸せ感」につながる小腹満たし・気分転換ニーズ
2「コスパやタイパ」につながる代替ニーズを満たす
3「楽しさ」につながるバラエティーの豊かさ
4「期待感」が高まる相次ぐ新商品の登場
5「つながっていることを実感」できるコミュニケーションツール
グミはその食感や形、香りなどを通じて人間の五感に訴えやすいお菓子です。加えて、チョコのようにべとつかず、ガムのようにゴミが出ず、安価で購入できます。これらの特徴が「幸せ感」や「コスパ・タイパ」に影響しています。
そして原材料の安さや、製造時に金型を使わなくてよいという作りやすさが、思い切った商品を発売しやすい環境につながり、「楽しさ」や「期待感」を生んでいます。そしてコミュニケーションツールとしての役割が「つながり」を感じさせるのです。
こうした5つの視点は、商品の意外性や期待を上回ったことでの「驚き」、コストパフォーマンス(コスパ)やタイムパフォーマンス(タイパ)を含めた「納得感」を生み、その驚きや納得感を「人に伝えたくなる」という行動につながります。
これらの5つの視点を応用し、そこから「驚き」「納得感」「人に伝えたくなる」という価値を生めば、商品のヒットにつながるのではないでしょうか。
――加えて、近年は「イノベーションを起こすこと」が課題になっている企業も多いと思います。グミの成長から学べることはありますか?
イノベーションを起こすのは、実は日本人の得意分野だと思うんですよね。イノベーション理論を提唱したシュンペーターは、イノベーションを“New Combination”、「新しい結合」だと言っています。
昔から日本人は「和洋折衷」など、何かを組み合わせることが得意です。昔の松下電器(現・パナソニック)はよく「マネした電器」って言われていましたし。
日本はここ30年ほどグローバルスタンダードに翻弄されましたが、海外からイノベーションのシーズ(種)を取ってきて、日本で花開かせるという技術を持っているはずです。
その点では、グミはとても日本的だと思います。グミは約100年前にドイツのボンで生まれた「ハリボー」が起源ですが、今日本で発売されているグミはどれも日本で生まれた商品ばかりです。
今はなんとなく「日本はもうだめだ」と日本を卑下する風潮がありますが、ガラパゴスケータイが唯一無二のオリジナリティを持っていたように、「ガラパゴスでもいいじゃない」と、根拠のない自信をもつことが大事ではないでしょうか。
“根拠のない自信”を持って商品を生み出す
――グミメーカーのようにオリジナリティあふれる商品を自信を持って出すために、どういった工夫ができますか?
日本では1980年代から「マーケットイン」、つまり消費者の声を聞いて商品を作るという手法が流行しましたが、大ホームランを狙うなら「プロダクトアウト(作り手の理論や計画を優先させて商品を開発すること)」ですよね。消費者アンケートでは真の潜在的なインサイトが出てこないからです。
今回多くのグミメーカーを取材してみて、商品の担当者がとても楽しそうに仕事をしていたのが印象的でした。会社で自由にやらせてもらっているんだなあと。
現在グミの主流になっているハードグミも、元はニッチな商品でした。でもニッチな商品を支えているのはたいていコアなファンなので、その発信力が味方した結果、主力商品へと成長したわけです。
日本にただよう停滞感なんて気にせず、まずは根拠のない自信を持って商品作りができるような環境を目指してはどうでしょうか。
取材・文/金指 歩 画像/shutterstock
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