「お前らで客にハメろ」…バブル崩壊前夜! 野村證券の株式部長Kが持ってきた“腐れ玉”案件とは?
集英社オンライン / 2024年5月23日 8時0分
〈こりゃあ客はキレるわ…野村證券の”軍曹”が大損したアラブ王族に送った、たった2行の運用報告書…回転売買手数料でボッタくるだけでなく、はめ込んだ「腐れ玉」とは〉から続く
15万部を突破した書籍『わが投資術 市場は誰に微笑むか』。伝説のサラリーマン投資家・清原達郎氏が株式投資のすべてのノウハウを明かしていることで話題になっている。
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書籍より一部抜粋・再構成し、1980年代のバブル崩壊前夜、野村證券のNY支店で起きていたこと、清原氏がヘッジファンドとゴールドマンサックスに出会うまでを紹介する。
野村證券NY支店―「腐れ玉」の行方
1986年、スタンフォードビジネススクールを卒業した後、私は野村證券のNY支店に日本株の営業要員として配属になりました。時代は日本の株式市場がバブル入りする直前でした。野村證券の高速回転商い、相場の吊り上げもだんだんと勢いを増し、それは1990年1月のバブル崩壊まで続きました。
少し大げさな言い方になるかもしれませんが、当時の野村證券の株式営業はこういう仕組みで成り立っていました。
まず、「将来は役員間違いなし、ひょっとしたら社長になるかも」というA支店長が株式部とつるんで手掛ける銘柄を決めます。例えば、A支店で100円のX株を大量に仕込んで客にハメる(客に買ってもらう、客に買わせる)のですが、大量に買うので自然と株価は上がり110円まで行ったとしましょう。
すると次は、そのA支店長の子飼いのB支店長が客に上値を買わせます。X株はA支店の客からB支店の客に移動するわけです。さらに120円まで買い上がると今度はC支店が参戦してきます。その次はD支店が130円で参戦……と順繰りに回っていくのです(ペッキングオーダーということですね)。
最初のA支店の客はまず損をしないのでクレームは出ません。客は再び次の銘柄を買わされることになります。しかし、成績No.1の支店長から始まって成績のいい順番にX株が移っていくと、最後の支店は一番高値でX株を買うことになるので悲惨です(もちろん現実はもっと複雑ですが、ここではわざと単純化しています)。
こういうやり方で成績の良い支店長はますます成績が良くなり、成績の良い子分もいっぱいできて出世街道を突き進むことになります。A支店長が常務にでもなればB支店長やC支店長のような忠誠心の厚い子分も部長や役員に引き上げてもらえる確率が高くなるというわけです。
さて、最後に行き場をなくしてE支店でしこっているX株ですが(「腐れ玉」と言います)、そのままだとE支店の営業成績が落ちるので今度は海外支店でハメようとします。海外支店が腐れ玉の最終処分場というわけです。
でも、NYでは基本的に客は言うことを聞かないのでうまくいきません。そこで香港支店やロンドン支店に圧力がかかるのですが、現地の営業マンはかわいそうでしたねえ。
私は入社して1ヵ月でこの会社では出世できないと確信していましたから、腐れ玉のからむ営業は適当にごまかしながらやっていました。出世にはまったく興味がなかったし、外資系証券会社に移ることだけを考えていました。
私がNY支店に異動してしばらくし、日本株のバブルが頂点に近づくと、株価が割高になりすぎて、もう理屈で説明できる範囲を逸脱してきました。そこで、「土地の含み益」を純資産に加えてそれで時価総額を割った「Q Ratio」という指標がにわかに証券会社の応援旗の役割を果たすようになります。
しかし、これは土地の評価額がばかばかしく過大評価されているのでまったく意味がない概念でした。「K電鉄株は、株価1000円、一株当たり利益(EPS)10円でPER100倍。でも、土地の含み益が膨大でQ Ratioで見ると割安」なんて、米国の機関投資家には真顔で説明できませんよ。
この話を黙って聞いている米国人は、たいてい「EPSが100円」で「PERが10倍」だと勘違いしていました。しかもK電鉄の場合、土地の含み益と言っても線路が引いてある土地の話なのでまったく意味はないんですよ。電車の事業をやめるわけではありませんから。
転換社債・ワラント買い、株式空売りの裁定取引
当時は、日本全体の土地の値段が米国を上回るなんて言っていましたし、私も一応、超割高な野村推奨銘柄を客にプレゼンしていました。でも、客からはほとんど「悪魔扱い」でしたよ。帰るときは十字を切られているようなムードでした。
このようにNYでは無茶な営業はできないのに、バブルのピーク近くになると、わざわざ本社から株式部長がやってきました。無理な営業がたたって「腐れ玉だらけ」になってどうしようもなくなっていたのだと思います。
株式部長のK氏は腐れ玉の「関電工」を持ってきて、「お前らで客にハメろ」とわめいていました。
「日本の平均PERは40倍だ。でもそれは伸びる会社、左前になっていく会社のすべてを合わせた平均だからな。関電工は伸びる会社で40倍だから割安だろ?お前らそんな簡単なこともわからんか?これから日本は電線を地中に埋めていくから関電工は高成長企業だ」と言われてもねえ。米国人にはピンとこないよねえ。
株式部長は虚勢を張って偉そうにしていましたが、私は彼の表情から一抹の哀れさを感じ取りました。それがバブル崩壊の予兆だったのかもしれません。
バブルの頂点が近づくにつれ、米国の機関投資家は日本株をほぼすべて売却。もう一切興味を示さなくなりました。
こうして、NYでの日本株営業は、バブルがはじける1989年冬のかなり前からすでに行き詰まっていました。
この頃、私は「ヘッジファンドマネージャーが日本株をショートしている」という記事を見つけます。伝統的な機関投資家、例えば投資信託(mutual fund)や年金基金などは空売り(ショート)はしません。野村證券NYの客のリスト、あるいは見込み客のリストからは勃興するヘッジファンドがすっぽり抜け落ちていたのです。
そのヘッジファンドを訪ねると日本株のショートはほんのわずかで「自分たちが野村の客になるほど日本株に力を入れるとは思わない」と言われました。でも、私は面白いから深掘りしてみようと思いました。
調べてわかったのは、日本株の借株(ショート、つまり空売りのために、投資家が証券会社などから株を借りること)に膨大な需要があったことです。割高な日本株を空売りたいというニーズは実はあまり多くありませんでしたが、「転換社債・ワラント買い、株式空売り」の裁定取引のための借株需要は膨大でした。
転換社債もワラント債も株価が上がるとそれにつれ値上がりします。でも株価が下がった時には株式ほどは大きく損を出さないお得な商品です。
1980年代後半の日本株のバブル時代は「転換社債・ワラント債の歴史的大量発行の時代」でもありました。事業会社のCFO(最高財務責任者)は接待漬けで証券会社の言いなりで、幹事証券会社を通じて転換社債・ワラント債を大量に発行して資金調達をし、幹事証券会社は莫大な手数料を受け取ります。
一方の事業会社は必要以上の資金を調達しているので、今度は余った現金を日本株の運用資金として同じ証券会社に任せます(特金と呼ばれます)。まさに一石二鳥で証券会社にとっては夢のような時代でした。
日本の金融界の文化と歴史あるウォールストリートの文化
バブルが崩壊して株価が暴落するまで大量発行された転換社債・ワラント債は簡単に売りさばけるよう、理論価格に対してとんでもなく割安な値付けになっていました。
難しい話なのでこう考えてください。例えば、シャープの株価が1000円だったとします。新株を700円で発行しますが、この新株は5年後にしか売れません。当然、ヘッジファンド(裁定業者)はその割安な新株を買って、同じ株数の株券を借りてきて1000円で空売ります。
5年後に新株を借株の返済に充てれば300円の儲けになります。最初に買った新株を基準に考えればレバレッジ1倍で300/700=43%の儲けになります。年率で7.4%の儲けです(借株コストが年率1%なら6.4%の儲けとなります)。
これはほぼ確実に儲かるトレードなので、通常、裁定業者は借金をして大きいポジションを取ってリターンを上げます。自己資金100に対して借り入れ400で、500のポジションを取ればレバレッジ5倍です。金利を4%と置いても7.4%×5−4%×4=21.0%の年率リターンになります(借株コストが年率1%なら16.0%の年率リターンです)。
米国では、この転換社債と普通株式の裁定取引は以前より行われていました。しかし、あまりにも簡単な裁定取引のため儲けのチャンスがなくなっていました。そこに超割安な日本の転換社債・ワラント債という巨大な市場が忽然と姿を現したのです。裁定取引を得意とする米国のヘッジファンドはこのチャンスに飛びつきました。
ここで問題になるのが「借株」です。先ほどの例では、シャープの借株が適正な借株料金で5年間維持できなければ成功しません。そこで米国のヘッジファンドは、血眼で日本株の借株のソース探しを始めました。
しかし、海外での日本株の借株は困難を極めます。日本株がバブルになっていたおかげで外国人投資家の日本株保有比率が低下していたことも海外市場における借株を難しくしていました。
これさえ何とかすれば大きな商売につながるとわかった私は、本社の金融法人部と話を付け、生保の持っている株の一部を米国のヘッジファンドに貸し出すビジネスを始めました。裁定取引をやっているヘッジファンドを訪問すると当然のことながら大歓迎され、すぐに客になってくれます。
こうして数社のヘッジファンドと付き合い始めましたが、その中で忘れられない出来事があります。日本の転換社債・ワラント債の裁定取引が本業になっていたヘッジファンド「プリンストン・ニューポート・パートナーズ(以下PNP)」との出来事です。PNPは貸株を通じて野村NYの上顧客の一つとなっていました。
ところが、ある日FBIに踏み込まれ、幹部全員が逮捕されます。罪状は実質「引け値操作」でしたが、当時できたばかりの「RICO(犯罪組織のフロント企業の摘発のための法律)」が適用されました。
野村NYは貸している株の一括返済を問答無用で求めました。しかし、そんなことをすればPNPはロングの転換社債・ワラント債を投げ売って、普通株を買い戻さないといけなくなります。PNPのレバレッジは4倍であり、もし野村NY以外の株の貸手も手を引いたらPNPは破綻してしまうでしょう。私は野村NYの行為がどれだけ彼らにダメージをもたらすのかを心配していました。
ところが、彼らは野村NYの株券の返還要請にすんなり応じます。ゴールドマン・サックス証券(以下GS)が全部肩代わりしたのです。GSがどういう経緯でそのような判断をしたかはわかりません。でも、これが私とGSとの最初のかかわりになりました。
裁判は長引きましたが、結局全員ほぼ無罪(引け値操作の微罪では有罪とはなりましたが)。有罪になったわけでもないのに逮捕されたというだけで村八分扱いしてしまう日本の金融界の文化と歴史あるウォールストリートの文化はずいぶん深みが違うなあ、と感じました。
清原氏写真/書籍『我が投資術』より
その他写真/shutterstock
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