「星野源と結婚したらめんどくさそうだなって思う」「心から本当に嫌いな女性はいない」鈴木涼美と爪切男の真っ向から相反する恋愛観
集英社オンライン / 2024年5月19日 19時0分
『死にたい夜にかぎって』の著者・爪切男氏による前日譚的エッセイ『クラスメイトの女子、全員好きでした』では、小学校から高校まで、彼が恋した女の子たちとの強烈な思い出の数々がつづられている。文庫化に際して、解説を寄せた作家・鈴木涼美氏の「元ギャルの言い分も聞いてください!」という一言から実現した本対談。ふたりの相反する恋愛観を深掘りする。
すべての始まりは、ぶった斬りコラム
――爪さんが『クラスメイトの女子、全員好きでした』の文庫解説を鈴木さんにお願いしたいきさつは?
爪 僕からのリクエストですね。
鈴木 以前cakesというサイトで「ニッポンのおじさん」っていうコラムを連載していたときに、爪さんのデビュー作『死にたい夜にかぎって』を取り挙げさせてもらったんです。
「ニッポンのおじさん」って毎回、何らかの人物や事件なりをネタにして、悪口を好き放題書きまくる連載だったんですけど、それを爪さんが読んでくれていて。
爪 あの連載、僕の友達で作家の燃え殻さんのこともぶった斬っていたじゃないですか。燃え殻さん、すごい気にしていましたよ。いまだに気にしている(笑)。
鈴木 ごめんなさい(笑)。私は絡んだら喜んでくれるおじさんが好きなんですけど、7割ぐらいには嫌われるので、爪さんが反応してくれたのは嬉しかったです。もちろん、燃え殻さんも。
私、インテリ系おじさんにはそこそこウケがいいんですけど、同世代とかちょっと上か下くらいの文化系男子とはあんまり相性がよくなくて。だから、爪さんは私のことはタイプじゃないだろうなって思っていたんです(笑)。
爪 いやいやいや(笑)。文化系男子じゃないですよね、僕は。小説をまったく読まないんで。
鈴木 そうなんですか? かなり高度な文体や比喩を使われているように見えますけど、自然に湧き出てくるものなんですか?
爪 どうなんですかね。ただ、僕、小学生の頃にガキ大将にいじめられていて「俺の夏休みの日記、全部お前が書いてこい」って言われて。ゴーストライターのように日記を代筆して、お金をもらっていたんですよ。
そいつの家族構成とか、きょうだいの性格とか、何日に花火大会に行ったとか、ぜんぶ聞き取りをして。それが、学校の先生にもバレずにうまくいって。調子に乗って、小学6年生からは自分から営業をかけて、最終的に学校全部で20人くらいの日記を書いていましたね。
鈴木 すごい! それ一冊いくらぐらいで売ったんですか?
爪 一冊千円くらいです。
鈴木 大学生とかでレポートの代筆は聞きますけど、小学生ですでに代筆業を……。そのバランス感覚は多分天性のものなんだと思います。
だって、爪さんの本を読んでいると、小学生当時からガキ大将に嫌われないバランスみたいなものを、自然に身に付けていらっしゃいますよね。人の嫉妬心をあおってもろくなことはないって、普通その年齢で分からないですよ。子供の頃なんて、俺はすごいんだっていう自己アピールとか承認欲求が強いから、なかなかそこまで配慮できないと思う。
爪 そうですね。誰についていけばいいかを小学生の時から敏感に察していたから、ひどいいじめにはあっていなかったです。クラスで一番走るのが速くても、地味キャラの自分が勝ったらいけないと思って手を抜いていましたし。
『クラスメイト~』にも書いた通り、中学生のころにバク転ができるようになっても、それを周囲には隠していました。ニキビ面のやつがバク転で飛べるのを披露したところで、それは多分「妖怪ニキビ車」とか言われるきっかけを作るだけになるので(笑)。
迷惑な記憶力と独特の愛情表現
――爪さんは、小学生の頃の細かなエピソードをよく記憶していますよね。しかも、あまり女子が触れられたくないようなことについて。
爪 鈴木さんが解説に書いてくれた「迷惑な記憶力」っていうのは、全くその通りだと思いますね。そりゃあ、みな、そこまで覚えておいてほしくないと思いますよ。
あの本を書いた時に、「昔好きだった女の子たちに会いに行けますか?」って聞かれたけど、行けるわけないじゃないですかって(笑)。
鈴木 そうですよね。爪さんの独特な文体じゃなかったらかなり際どい企画っていうか、女性たちから怒られたり嫌われたりしても仕方ないところはある本かも。小学生の女子に口ひげが生えていたとか、そういう過去を書かれていてはね……。
私だって、生まれた時から顔を剃っているわけじゃないから、変なところから毛が生えていた時期もあるわけですよ。だけど女性は最初からツルツルしていますって顔して生きているわけで、そこを掘り起こして書かれるという……。
どれも、私だったら言われて死ぬほど救われるか、死ぬほど恥ずかしいかですけど、とにかく微妙な愛情表現がにじみ出た文章だなと思って。もちろん、嫌いと言われるより好きって言われたいんですけど、ブサイクだけど好きって言われるよりも、綺麗だけど嫌いって言われた方が嬉しい時期もあるわけです、女性には。
爪 嫌いってほとんど言ったことないですね。本当に、心の底から嫌いな女性がいない。いじめられたりひどいことを言われたりしても、嫌いにはならないですね。
鈴木 すごいです。私、たいして嫌じゃない人のほころびを見つけて悪口を書いて生きてきたから(笑)。例えば、自分の本の中でMr.Childrenの曲のことを悪く書いているけど、別に、私はミスチルがすごく嫌いなわけじゃないんです。
カラオケでミスチルを歌っているホストは嫌いだけど、ミスチル自体にはそんなに恨みはないし。よくよく歌詞を読んだらここは気になるとか、こういう言い方をする男は嫌だとか、悪口がどんどん出てくるだけで。
でも、爪さんみたいに、一見なんでもないところを褒めるとか、好きになれるっていう方が、人生は豊かになる気がしますよね。私は心がわびしい感じがする。一緒に住むほど好きだった男性についても、今振り返ると悪口だけで一冊書けると思う(笑)。どこが好きだったかなんて書けないかもしれないです。
爪 それは僕と違うかも。僕は小さい頃からしょっちゅう親父に「お前はモテない」って釘を刺されてきたので、恋愛に関して高望みしないんですよね。というか、女性に対して信仰や崇拝に近い思いがあるんです。
鈴木 私は男性を、女性みたいに純粋な友達として見られないんだと思います。恋人としてどうかとか、性的な目線で見てしまう。だから、ミスチルの桜井さんも星野源さんも、この男と付き合ったらどうかっていう目線ですぐ見ちゃう。
星野源と結婚したらめんどくさそうだなって思うから(笑)、悪口が出てくるっていうか。
写真/shutterstock
撮影/織田桂子
構成/土佐有明
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