「90年代に僕らが歌った世界が今、来ている」SOPHIA松岡充が憂鬱が溢れる時代だから伝えたいこと…30年目のSOPHIAがデビュー曲を歌う理由
集英社オンライン / 2024年6月2日 11時0分
活動休止から9年を経て2022年に復活を果たしたSOPHIAが、2024年で結成から、2025年にはデビューから30周年を迎える。20年ぶりに再契約した古巣のトイズファクトリーからの新作リリースも決定している。30年目の今だから歌うテーマ、6月の主演舞台『Change the World』について、ヴォーカルの松岡充に聞いた。
憂鬱が溢れる世界でエンタメがやるべきこと
――SOPHIAの30周年イヤーの活動のひとつとして、舞台『Change the World』の主演を決めた理由はなんだったのでしょう?
松岡充(以下、同)
30代あたりから、近い人の病気や死に直面して命というものに向き合うことが増えてきて、自ずと自分の人生についても考えるようになって。(SOPHIAの)活動休止の理由も同じで、長く活動を続けて、突っ走ってきたので、メンバーそれぞれが自分の人生について考える時間や、何かにトライする時間を持つべきだという想いが芽生えたんですよね。
幸いなことにバンドは復活しましたが、一人のアーティストとして僕は、残された時間を生きていく中で、デビュー当時のように「将来のためになんでもチャレンジする」という時期はとっくに終わったと思っていて。
特に今年は30周年に重きを置きたかったので、舞台などバンド以外の活動をやろうとは考えていなかったんですけど、『Change the World』の制作チームから、どうしても話を聞いてほしいと熱意が強かったんですね。そして(脚本の)秦(建日子)先生とお会いすることになったんです。お会いする前に僕は原作を読ませていただいたんですが、SOPHIAの10年ぶりの新曲「あなたが毎日直面している 世界の憂鬱」と『Change the World』に共通するものが見えて。秦先生も「この曲は僕がこの小説で伝えたいことと共通しているから、テーマソングにしたい」と言ってくださって。この舞台を一緒に創っていきたいと気持ちが動いていきました。
――物語のメッセージには、今、SOPHIAとして表現したいことと共通する部分もあったのでしょうか?
そうですね。たとえば…今日、取材していただいて、SOPHIA30周年に関しての記事がネットニュースとして出ていきますよね。その画面を横にスクロールすると、ガザ侵攻のニュースがあり、かたや為替の覆面介入の話題がある。横の広告では、インフルエンサーが踊りながらなにかをアピールしてる……そういうふうに、みんなそれぞれの小さい世界を一生懸命生きているけど、それは共通の世界ではなくて。
でも全部、同じようにこの世界の「今」という時間に存在している。未来を生きていく若い世代のことを思うと、そんな世界について考えざるを得なくて。この世のいろんなところに憂鬱というものがたくさんある。だからこそ、前を向けるメッセージを伝えることを、エンタメがやらなきゃいけないと思う。今きっと、みんなしんどいですよね。それぞれ生活の中で苦しみと戦っていたり、重いものを引きずっている。
だから僕らは日本のエンタメの端にいる存在として、「SOPHIAはこうなんです」と主張する活動をするのではなく、誰かの心がちょっと軽くなったり、顔を上げて太陽の光を感じたいと思えるような、前を向ける作品を提供したい。それが僕らの30周年の活動の意義になると思うんです。
――それはやはり30年活動してきた今だからこそ、はっきり言えることなんですね。
20代、30代、40代の頃は「相手のために」なんて、偽善みたいで言えなかったです。でも結局、巡り巡ってそれは自分のためになるんですよね。「この楽曲があるからがんばれる」「活動してくれてありがとう」って言ってくれる人の笑顔を見ることで、自分もまた踏み出す勇気を得られる、そういう感覚ですね。
30年前のデビュー作をオマージュするチャレンジ
――松岡さんは、SOPHIAは今後は昔を懐かしむのではなくチャレンジをしていくとおっしゃっていましたが、これからの活動は、新曲や新しい取り組みが中心になっていくのでしょうか?
懐かしむことを僕らが今やったところで、当時とは絶対、同じにはならないですから。だからこそ、それをやります。それが新しいチャレンジだと思ってもらえれば、うれしいです。だから(1995年のデビュー作であるミニアルバム『BOYS』をオマージュした)『Boys and』を出すんです。その原動力は、みんなに楽しんでほしいな、喜んでもらえるだろうな、そんな気持ちです。こうした創作活動を通して、過去をただ振り返るんじゃなく、あの頃をもう一度思い出そうと30周年の今、思っています。
90年代に「ゴキゲン鳥」の歌詞で描いていた今の世界
――デビュー当時のキャパのライブハウスをまわるツアーの開催も驚きました。
やっぱりワクワクしてほしいんですよね。1995年と同じキャパシティの会場で、同じチケット代(3,090円)でツアーをやりたいっていう話をしたときも、最初はメンバーやスタッフも驚いていたけど、やっぱり「おもしろいね、やろうよ」と言ってくれて、実現できることになりました。
ファンの皆からすると「チケットがとれない」とか「体力的に無理だよ」とか、いろいろな意見もあると思うんですけど、今、デビューミニアルバムの『BOYS』をオマージュするからこそできることがあって。逆に、あの頃はできなかった思い切ったことも今はできる。もう、全員に好かれたいとも肯定してほしいとも思わないし、そういう意味では、突っ走れる強さがあるのは経験を重ねてきた今だからこそですね。
――チケット代が3,090円って、今ではあり得ないですよね。
SOPHIAってチケット代を長年値上げしないできたバンドだったんですけど、それも難しくなってきて。でも、値上げに関して言うと……ここ30年で物価が変わっていないのって先進国で日本だけで、それによって日本は、国際社会に対応できない国になっていて。新曲の話にも通じますけど、大人たちはもうそれでいいかもしれないけど、これから世界と向き合っていかなきゃいけない若者たちにそんな状況を残していいのかと考えると、僕らは態度を見直さなきゃいけないですよね。
富裕層と貧困層が二極化している今の状況も、僕があの頃、書いた歌詞と通じていて。それこそ今はまさに、「ゴキゲン鳥(~crawler is crazy~)」の歌詞の世界ですよね。
――松岡さんが90年代に書いた歌詞はすごくソリッドで、今、聴いてもすごく刺さります。
本当ですか? 嬉しいです。今となっては、あの頃は伝えたかったことがあまり伝わってなかったんだろうなぁと思ったりします。
――当時、ヒリヒリしながら聴いてました。でもジャケ写とかアートワークはすごくポップでしたしね。
そうですね。僕のキャラクターとかメディアの出方も、(伝わりにくさに)影響してたのかなと思います。ただ、それでもやっぱりわかってくれる人たちがいて。今もこうして応援していただけているから、すごく嬉しいですね。
取材・文/川辺美希 撮影/水津惣一郎
〈「荒んだ心に蓋をしないと進めなかった」激動の時代と走ったSOPHIA松岡充「今世界に必要なのはどれだけ柔らかい心で包めるか。そんなのロックじゃないよというならロックじゃなくていい」〉へ続く
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