2億円をすって残り150万円が1時間で23億円に…ギャンブルで「熔けた」井川意高がもっともしびれた瞬間とは
集英社オンライン / 2024年5月23日 11時0分
〈<106億円熔かした男を直撃>大王製紙前会長の井川意高が今、水原一平に思うこと「大谷選手の金を盗んでやろうというより、一時的に借りているだけと考えていたのでは」〉から続く
日本ではパチンコや競馬を気軽に楽しむ人は多いが、大谷翔平選手のお金をギャンブルに注ぎ込んだ元通訳・水原一平の件で、ギャンブル依存症への関心が集まっている。かつて106億8000万円もの大金を熔かした大王製紙前会長・井川意高氏に、なぜギャンブルにのめり込んだのか、そして今はギャンブルとどう付き合っているのかについて聞いた。
ギャンブルをやってもしびれなくなった
ギャンブルの魅力は、勝って大金を得ることではありません。100万円を慎重に賭けて勝って200万円、500万円、1000万円……と増えていったら、楽しいことは楽しいですが、それが一番の面白さではありません。
2010年頃、シンガポールのリゾートホテル「マリーナ・ベイ・サンズ」で、私はジェットコースターに乗ったときのような激しい浮き沈みを経験しました。持って行った1億円だか2億円をアッという間にほとんどすってしまい、残った150万円を1時間で23億円に増やしたのです。1、2億円をすって150万円になったときは、落ち着いているように見せて、内心は「これを失ったらもう終わりだ」と汗ぐっしょり、次の勝負は命がけです。でも、命がけの勝負だからこそ得られる興奮、脳髄がしびれるような感覚こそ、ギャンブルの醍醐味なんです。
今もカジノで遊ぶことはありますよ。ただ、もう以前ほど熱くなれなくなりました。それは逮捕されて痛い目を見たからではなく、やり過ぎてお金がなくなったからでもなく、2017年6月に刑期が満了した2年後の2019年の夏、シンガポールのセントーサ島の「リゾートワールドセントーサ」で1カ月間、バカラをやり続けたのがきっかけでした。
延泊を繰り返し粘りに粘って1カ月間やり続けたためにお腹いっぱい、もう以前のように勝負にしびれなくなってしまったのです。ちなみに、このときは日本から1000万円を持っていきましたが、4000万円負けて終わりました。
だからといって、もうギャンブルをやりたくなくなった、というわけではありませんよ。去年は、私が主催するオンラインサロンの企画で、会員と一緒に韓国でカジノを楽しんできましたし、この6月にも、ジャンケットの資格を持つ方から提案を受け、私と一緒にカジノを楽しもうという企画で韓国で遊んでくる予定です。
ギャンブルは変わらず好きですから、やれば楽しい。でも、もう以前のように脳髄がしびれるような感覚は得られない。ですから、大金を借金してまでギャンブルに熱中することは、今後はないでしょう。やり過ぎたためにギャンブルの沼から足を洗える、という例もあるということですね。
会長職を解かれ、裁判で4年の実刑判決
裁判の過程で、私はギャンブル依存症だと認定されましたが、私はなぜこれほどギャンブルにハマったのか。150万円を23億円に増やした話などをすると、「なぜそこで止めなかったのか」とよく聞かれます。150万円が300万円になったとき「車が買えるぞ」とか、1億円勝ったときに「タワマンが買えるぞ」とか考える人は大丈夫、ギャンブルにはハマりません。でもギャンブルが好きな人間は、金がほしくて、なにかを買いたくて、ギャンブルをやっているわけではないのです。
ギャンブル依存症は遺伝もある、という報道がありましたが、私の場合は遺伝ではなく、生育環境が関係したのではないかと思いますね。小学4年生のときに家族麻雀をしたのが最初のギャンブルで、筑波大学付属駒場中・高校時代はパチンコや麻雀、東大法学部時代も麻雀を楽しんでいました。パチンコや麻雀はギャンブルじゃない、といった国会答弁もかつてありましたが、それは詭弁というものです。
とことん追及するのが好き、という性格もギャンブルにハマりやすいのかもしれません。私は子どもの頃から釣りや切手収集にハマっていました。刑務所に収監されているときは車に夢中になり、車雑誌や書籍をむさぼり読み、シャバにいる友人に頼んでフェラーリの限定モデルなど20台近くの高級車を買いあさっていました。
ところが、2017年6月に刑期満了を迎えた翌年、韓国のカジノへ出かけていき、種銭を作るために車を1台ずつ売り始めると、あるとき急に憑き物が落ちたようにバカらしくなって全部売り払ってしまいました。じゃあ、大金使って大損をしたか、というと、そうではないんですよ。車は買ったときより高く売れて、損はしていないんです。でも損得云々より、追求型の性格の私は、なにかに夢中になって追求すること自体が楽しいのだと思います。
ただ、私と同じように育ったはずの弟(大王製紙元取締役)はギャンブルにハマっていません。弟も追求型の性格ですし、カジノに行ったこともあります。カジノでしびれるような感覚を味わったことがないからかもしれませんが、カジノではなく他の物にハマっています。借金どころか、数百億円の資産があるので香港で悠々自適に暮らしています。じゃあどういう人がギャンブルにハマるか、ハマらないか、というと、理由はひとつではないですが、結局、ギャンブルが好きなんですね。
カジノに夢中になっていた頃の私は、日本を発ちシンガポールやマカオの賭場が近づいてくると「今回はどこまで勝てるか」と胸が高鳴りました。私はギャンブルのなかでも、丁半博打に似た、運の要素だけで勝ち負けが決まるバカラが一番しびれるので好きなのですが、すぐに勝ち負けが出るのも性に合っていました。私は気が短いので(笑)。つまり、私の性格にピッタリ合ったギャンブルに出会って、ビギナーズラックもあって……。
結果、当時就いていた会長職を解かれ、裁判で4年の実刑判決を受け、3年2カ月の間、刑務所で過ごすことになったわけですが、ギャンブルに出会わなければよかった、とは思っていません。ギャンブルで破綻して自殺する人もいますが、私は生来、楽天的で前向きな性格のおかげか、逮捕が迫っていたときでも首をくくろうなどとはまったく思っていませんでした。そもそも正しい道だけ行く、という人生ほどつまらないものはないと思うのですよ。もちろん、もう一度刑務所に入るのはご免ですけれどね(笑)。
取材・文/中野裕子 写真/村上庄吾
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