「こいつが出てくるならテレビ消そう」なぜ、テレビは叩かれるのか? 「オワコン扱い」が独り歩きするテレビをそれでも推すTVウォッチャーの視点とは
集英社オンライン / 2024年5月26日 18時0分
〈『ちびまる子ちゃん』声優交代、松本人志不在のピンチヒッター…「代役・交代」をエンタメ化して消費してきたテレビ番組が直面する課題〉から続く
エンタメの中心にいたのはもう昔の話。とはいえ、その影響力はいまだに群を抜いている「テレビ」。文句を言いながら見る人だって貴重な視聴者。しかしテレビで同じ時間を過ごすなら楽しいほうが健全だ。どうせ見るならおもしろく! テレビ番組に関する記事を多数執筆するライターの前川ヤスタカが、見方のマインドチェンジを提言する。
【イラスト】「ビールのCM、プハーっ減ってない?」テレビがおもしろくなる見かた
「テレビは家族で見る」家庭で経験した悲劇
私が小学生くらいだった頃、テレビは家族で見るものだった。
そもそもテレビは一家に一台しかないのがあたり前で、見たい番組があったとしてもそれが見られるかは、父親がいつ家に帰ってくるかなど、チャンネル権を握っている家族の状況に左右された。
うちの父は基本NHKしか見ない人で、民放で唯一見るのは動物番組だけだった。我が家は父親が家族一緒に何かをすることにこだわる人間で「(子どもには)つまらない番組だから私は自分の部屋にこもる」と言いだすのも難しく、黙って大して見たくもない番組を家族全員で見ていた。
その時間は苦痛でしかなかった。いや番組がつまらないのはまあいい。見たい番組が見られないなんてのは当時はよくあること。それ以上に何が苦痛だったかというと、父がテレビを見ながら文句を言い続けることだった。
NHKの歌番組などで若者に人気の歌手が出たりすると、父はつねに「こんなの何がいいのか」「お前はこんなのを聴いてるのか」など小言を言い続け、私の好きだったタレントも「こいつの言ってることはいつも低俗だ」「こいつが出てくるならテレビ消そう」と言いたい放題だった。
今でも年末の紅白だけは実家で家族と見るという若い方もいらっしゃるだろう。その際に親が流行りのK-POPのアイドルを「よくわからない」「みんな同じで区別がつかん」などと言ったりすることがあるかもしれない。
自分の好きなものを腐されるのは気に食わないが、まあそうはいってもたかが年1回、流行に疎い親の話に付き合うくらいは帰省の醍醐味として我慢できる。
しかし、私の幼少期はそれがほぼ毎日だった。
その後、我が家がゲーム用にテレビをもう一台買ったことや、録画可能なビデオ機器が登場したことで、私は徐々に見たい番組を見られるようになっていくのだが、幼少期の「テレビに文句を言い続ける父」は私にとってトラウマとして刻まれた。
ワンセグそしてTVer。個人視聴の時代に現れた強敵
時は流れて令和の今。
テレビは個人で見るようになった。
受像機としてのテレビは平成初期あたりに一部屋一台というご家庭もすでに多くあっただろうが、携帯端末でテレビ番組を見ることが当たり前となった今では「テレビ機のないご家庭」も珍しくはなくなった。
ひと頃流行したワンセグはもうほとんど見られなくなったが、その代わり動画をスマートフォンやタブレットで見る習慣は定着し、TVerなどでの見逃し配信もすっかり普及した。
地上波テレビも各人が見たいときに見られる時代が来て、テレビ番組を家族で同時に見ることはほぼなくなった。
もう私の幼少期のように、隣でテレビに文句を言う父はいない。老若男女が平穏にテレビを見られる時代が来たはずだった。
しかし、世の中はネットニュースとSNSの時代になった。
ネットニュースでバズるのはテレビの文句や悪口?
ネットニュースは世間をネガティブに煽ったほうがアクセスは増え、より拡散する。
バラエティのちょっとした発言を切り取って「苦言」として書いてみたり、「関係者」と称する本当にいるのかわからない人の「このタレント裏では評判悪い」みたいな噂話を記事にしたりすれば、記事を鵜呑みにした人がどんどんそれを広めていく。
「紅白で絶対に見たくない人ランキング」「テレビで出てきたらチャンネルを変える人ランキング」のような誰も得しないランキングもよく見る。
SNSではお笑い賞レースに「本当にクスリとも笑わなかったんだけど、今のお笑いってこんな感じなの?」という人がいたかと思えば、『逃走中』(フジテレビ系列)でルールで認められる範囲内でずる賢く立ち回ったタレントを執拗に「許さない」と糾弾する人もいる。
そういうのを目にするたびに私は隣でテレビに文句を言っていた父を思い出し、暗鬱とした気持ちになるのだ。
無料か? 課金か? 視聴状況で異なる観る側のスタンスにも問題が…
もちろんテレビというのは、いつの時代もつねに世間から文句を言われがちな存在だというのは理解している。
なんといっても圧倒的に多くの人間に届くメディアである。
広告媒体としてはやや勢いが落ちているといわれるが、視聴者数という点でいえばテレビの力は未だ圧倒的だ。これだけの力を持っているなら、それにふさわしい公共性というのはつねに求められる。それは公共放送であるNHKだけでなく民放も含めてである。
そういった力を自覚せず、作り手がいい加減なものを世に出したなら、相応の批判をされるのはやむを得ない。
また特定の層を相手にするのではなく、広く老若男女を相手にしているという側面もある。
すべての人を納得させる番組など基本的に存在しない。若者に人気の番組は年配の方にとってはわけがわからない番組だろうし、逆もそうだ。タレントも全世代から支持を受けているような人はほんの一握りである。
そして、無料で受け手の選択にかかわらず放送されているため、テレビをつけている限り見たくないものも目に入ってしまうというのもあろう。
自身で選択し課金して能動的に見るコンテンツと違い、地上波テレビ視聴者のスタンスは受け身である。
これはひどいと思った場合、能動的に見たものならまあ自己責任だしという気持ちも半分あって課金をやめるなどの選択肢があるが、受動的だとすべて相手の責任である。
連続ドラマや毎週やっているバラエティなら来週から見ないもできるが、単発のものだと文句を言うことでしか自分を納得させられない。
松下幸之助が残した言葉はテレビにも刺さる
ただ、文句を言いながら見るテレビはおもしろいだろうか。
松下幸之助はかつてこう言った。「物事はつまらないと思えばつまらなく、おもしろいと思えばおもしろくなる。見方を柔軟に変えて、いつも新たな気分で歩みたい」と。
テレビ番組も最初からつまらないものだという前提で見れば、つまらない部分ばかりが目に付く。しかしおもしろさを探そうというスタンスで見れば、パッと見ではわからなかった部分が見えてくる。
見方を柔軟に変えてみれば、1000回やっている番組にも新たな発見はあるし、ど深夜の誰も見ていないような番組にドはまりすることだってあるかもしれない。
これまでもこのコラムでは、坂下千里子の何歳になっても学ぶ側から卒業しない力や、芦田愛菜はよく考えたらCM出てない時間がないんじゃないかなど、ふとした気付きを考察してきた。
我ながら馬鹿馬鹿しいと思いながらも、テレビがついているとなんだかいろんなものが気になってスマホにメモするのが習慣だった。
コラムにしてないものでも「ビールのCM、プハーってやるの最近減ってない?」とか「タコとイカ、並び称されるけどこの10年くらいブームになってるものほとんどイカじゃない?(イカゲーム、ダイオウイカ、イカちゃんなど)」とか。
はたまた「テレビにおけるオタクの代名詞、まだしょこたん(中川翔子)がかなり独占してるけど、それで大丈夫?」とかメモには雑多な考察が並ぶ。こんなことを考えながら見るテレビはとても楽しい。
テレビっ子こそ「テレビの可能性」を信じて楽しもう
外で溜めたストレスをテレビに文句を言うことで発散している人もいるのだろうし、それ自体は否定しないけど、テレビをおもしろがることでストレスが発散できるならたぶんそのほうが健全だ。
私はつねに文句を吐きながらテレビを見る父が嫌いだった。
そして自分は正反対の姿勢でテレビを見ようと思った。
「テレビ離れ」や「地上波はオワコン」などと世間は言うが、作り手も演者もまだまだテレビの可能性を諦めていない。いろいろと制約が強まっていく中で、それでも日々違う角度で世の中を楽しくできないかと提案し続けている。
最近の作り手のインタビューでは、想定していない層まで届く地上波テレビの特性を考え、逆に偶然見た視聴者に「なんだこれ」と思ってもらえるものを作っているという人や、コンプラの厳しさを逆手にとった番組作りをしている人もいる。
私は一視聴者にすぎないが、テレビっ子の端くれとして、テレビの可能性をまだ信じている。
視聴者がおもしろいと思って見る限り、テレビはもっとおもしろくなる。
みんなも、一緒に楽しくテレビ見ようぜ。
文/前川ヤスタカ イラスト/Rica 編集協力/萩原圭太 画像/shutterstock
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