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「子供なんか産まないほうがいい人間に限って軽々しく子供を産むんです」スーパータブーといわれる「児童養護施設」を漫画の題材にした理由

集英社オンライン / 2024年8月31日 19時0分

親の性交渉を見た子供は、早くから自慰行為を始める…児童養護施設の目を背けたくなるような現実を描いた「それでも、親を愛する子供たち」〉から続く

日本で初めて説得による精神障害者の移送サービスを行なう「トキワ精神保健事務所」を始めた押川剛氏。新作『それでも、親を愛する子供たち』は、取材することが非常に難しいといわれる児童養護施設を舞台とした作品となっている。その制作の背景を聞いた。

【漫画】「てめえには二度とシャブ喰わせねーから」という最低クズ男の犠牲となる女児の物語

――5月9日に『それでも、親を愛する子供たち』の第1巻が刊行されました。反響を教えてください。

押川剛(以下、同) 「かわいそう」や「切ない」といった感想が多いです。既シリーズ『「子供を殺してください」という親たち』(以下、『子供を殺して』)にはなかった反応なので、対象が子どもになるとこうも違うのかと思いました。

あとは、主な読者層は『子供を殺して』と重なっていますが、より高年齢の方々からも反響いただいています。75歳を超えた飲み屋の大ママがこの漫画を読んで「寄付をしたい」と申し出てくれたりもしました。親がどうしようもなくても、子ども自身が力をつけて明るく生きていってほしいという部分において、すごく希望が感じられる漫画になっているのかなと思います。

ーー『子供を殺して』の連載開始当初は、各所からの横槍も入ったとお聞きしました。今回は大丈夫だったのでしょうか。

北九州の児童福祉の現状について、本人たちにもわかるような形であとがきに書いているので、どういう反応を示しているかの情報は入ってきています。この業界をこんなふうに晒されるとはつゆほども思っていなかったのか、やっぱりビビっているみたいですね。

これまでの児童養護施設をテーマにした他のいくつかの漫画と違い、本作では施設の運営や行政の問題点についても描いていきますので、そういう意味でも、本当に新しい取り組みになると思います。

ーーそういった方々にとっては「余計なことをするな」という感覚なのでしょうか?

児童福祉の業界は、めくられたら困ることばかりです。私もこの漫画を作る過程でこの業界に足を踏み入れて、あまりに「やりたい放題」な現実に驚愕しています。子どものことは特に秘匿性が高いため、個人情報保護法や権利擁護を盾に悪事も真実も隠蔽しやすくなっている。でも真実を伝えていけば、寄付を申し出てくれた人がいるように、「よくなるかもしれない」という気持ちはあります。

例えば児童養護施設への寄付というと、自分たちが食べない余り物のレトルト食品なんかを送って、優越感にひたる程度の寄付しかなく、本当に相手にされていません。そのなかでも、ちゃんとした温かい対応をしている人が、驚くことに施設出身のヤクザの組長だったりするんですよ。これは近々、漫画に描く予定です。

スーパータブーの「児童養護施設」を描く

ーー「子供なんか産まないほうがいい人間に限って軽々しく子供を産むんです」​という強烈なセリフが印象的だった登場人物の徳川園長は、北九州で児童養護施設を運営してきた一族の3代目がモデルになっています。この漫画についてどう言及されていましたか?

真実を世に出したことについて、感謝していましたね。一方で、私としては彼がいたからこそできた漫画だと思っています。ここまでの内容を出すとなったら、正直、どこからも許可を得られなかったでしょう。そのくらい児童養護施設はスーパータブーなんです。

ーー具体的には、どのような問題が潜んでいるんですか? 

地域差も大きいのですが、差別の象徴的なところでもありますね。北九州の場合は自分たちでこの地域のことをムラという言い方をしますが、児童養護施設は、ムラ人たちが生きていくうえでのひとつのシェルターという側面もあります。近親相姦で生まれた子どもを育てるのも役割のひとつとしてありました。

今でも、児童養護施設の出身というだけで就職先がない現実もあります。どれだけ頑張っていい大学を出てもダメ。施設の職員たちは当然のように卒園する子どもの身元保証人になり、「何かあったら自分たちが責任を取りますから」と、いろんな企業に頭を下げてきた歴史があります。

それからこの前、いくつか児童養護施設に取材に行って気づいたのですが、施設の敷地内にお墓があるんですね。よく見たら、身寄りのない施設出身者の無縁仏もあったんです。児童養護施設というのは、行き場のない子どもたちを丸ごと受け止めてきたんだなと、その重みを改めて感じました。

――1巻に収録された「【ケース1】にんじん」では、児童養護施設のベーシックな話を選んだとお聞きしました。今後の展開で考えていることを、言える範囲で教えていただけますか?

初回は児童養護施設というものを知らない読者が多いと思ったので、担当編集の岩坂さんと相談しながらこのエピソードを選んだのですが、一般の方はこれでもかなり驚いたみたいですね。ただ、どの職員に聞いてもそうなんですが、これは本当によくあることなんです。

これから描こうとしているのは、私たちでももっと「うわっ」と思ってしまうようなこと。例えば、性的虐待や性に対しての取り組みです。施設では避妊を教えるのではなく、できたときのことを考えるんですね。それが超現実対応だなと思いました。

政府の無責任さに対しての抗弁

ーー児童養護施設の職員が児童へのわいせつ事件を起こすことも少なくありません。

もちろんそこも触れていかなければいけないところです。職員に小児性愛者が紛れ込んでいることや、ボランティアと称して介入してくる人たちの一部が、「子どものため」と言いながら私利私欲のために利用している事実もあります。具体的には、未成年の子どもを自身の勤務先の保険に加入させたり、卒園した子どもに物を買い与えて、愛人のように連れまわしているといった情報も、複数の市民から寄せられています。そういった問題点は、なるべく早めに取り上げたいと思っています。

先日も北九州のある児童養護施設の職員が、小学生の女の子に対する性的姿態等撮影未遂の疑いで逮捕されました。今年6月には日本版DBSを導入するための法律が成立しています。本来なら施設のトップが使用者責任を問われ、監査・指導権限を持つ行政が特別指導監査を行なってもおかしくないですよね。でもそんな動きは一つもありません。

ーー子どものことに本気で取り組んでいる職員というのは、多くないのでしょうか?

誰もが「子どものため」とは言いますが、本気で、それこそ「自己犠牲を払ってでも」と取り組んでいる職員は、そうはいません。そういう職員は子どもに厳しいことも言うし、お菓子やゲームで懐柔しようとしないので、煙たがられることもあります。でも、その真剣なごく一部の人たちによって施設は成り立っています。

私が理事長を務める施設でも、人が足りないとなれば代わりに出勤して、「いつ行ってもいるな」という職員がいます。労働環境がよくないのでは? という人もいるでしょうが、私からすれば、こういう人材こそが「宝」ですよ。そもそも、親の代わりを務めるとは、そういうことではないでしょうか。

ーー5月17日に、離婚後も父母双方が親権を持つ「共同親権」を可能とする改正民法が成立し、2年以内に施行されることになりました。施設運営にもなんらかの影響が考えられますか?

今は行政の動きを待っています。ただ、この民法改正は子どもたちの境遇が変わるようなものではまったくないですね。この民法改正で行政機関が楽をできるようになったな、というのが正直な感想です。

2016(平成28)年の改正児童福祉法で、「家庭養育優先原則」が定められ、まずは親元に戻せるようにするのが基本です。それがだめなら、里親やファミリーホームヘの委託、その先に、児童養護施設の選択があります。その方向を進めていくのであれば、彼らにとって今回の民法改正は非常に使い勝手がいい。例えば、被虐待児の介入に消極的な理由を、「両親の同意が取れないから」という言い分でごまかすこともできてしまう。彼らはいつも「法律だから」「ルールだから」というもの言いをしますからね。

ただ、当然ながら家庭に戻すわけにはいかない子どもというのももちろんいて、そういった子どもはやっぱり施設で取り組んで安心安全に育てなきゃいけない。その意味では、この漫画は役所が推し進める「家庭養育優先原則」に逆行しています。それは、重度の精神疾患患者を自己責任として地域移行へと舵を切った精神科医療の現状(『子供を殺して』)とまったく同じ構造で、政府の無責任さに対しての抗弁でもあります。

人材こそが「子どものため」といえる施設の基盤

ーー取材方針も含めて、今後計画していることはありますか?

今は、運営に携わっている児童養護施設で起きた諸々の問題の、後片付けと立て直しに取り組んでいる状況です。結局は「人」ですから。今は労働者の権利ばかりが主張されやすい時代ですが、人間に携わる仕事には、不確定要素しかないんです。何かあったときに、自分の都合や予定を飛ばしてでも向き合ってくれる人材をどれだけ集められるか。それこそが、真に「子どものため」といえる施設の基盤になるはずです。

これからも漫画で児童福祉をとりまく現状を周知させながら、同時進行で具体的な施策を進めていきます。

取材・文/森野広明

子どもを殺してくださいという親たち、それでも親を愛する子どもたち…親が子どもの命を削る日本社会「子どもに罪はないという出発点に立ち返れば、あまりにもこの国は冷たくないか」〉へ続く

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