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「オーバードーズで亡くなった海外の俳優の洋画はよくて、日本の俳優が薬物で捕まると上映中止になる意味がわからない」高知東生9年ぶり商業映画はギャンブル依存症がテーマ

集英社オンライン / 2024年6月1日 11時0分

宮沢りえの首を絞めすぎてりえママから怒られ、石原軍団から山盛りのフルーツとヘネシー…俳優復帰の高知東生が眺めた昭和と令和の役者魂〉から続く

高知東生の商業映画復帰作としての主演映画『アディクトを待ちながら』は、どのような背景で生まれたのか。本作でプロデューサーを務めた「ギャンブル依存症問題を考える会」代表の田中紀子と、監督のナカムラサヤカ、そして高知東生の3人に話を聞いた。

【画像】薬物やギャンブル、アルコール、買い物、ゲームなどさまざまな依存症者で構成される「リカバリー」のメンバーたち

――まずはナカムラ監督が依存症と関わるようになった経緯を教えてください。

ナカムラ もともと私の叔父が、ギャンブルが原因の金銭トラブルを抱えていて、家族だけではなく、私も含めた親族も巻き込むような人だったんです。それで、4年ほど前に(田中)紀子さんが啓発ドラマを作りたいということで、友人の紹介で知り合いました。紀子さんといろいろとお話をしていくうちに、私が長年、叔父のことで抱えていたもやもやが晴れていって、私の叔父もきっとギャンブル依存症だったんだって、わかったんです。優しかった叔父が豹変したのは病気のせいで、しかも、私の親族はやってはいけないことを全部やっていたんだって。

――「やってはいけないこと」というのは?

ナカムラ 治療を促すのではなく、人格を否定したり、借金の肩代わりをしたり。あとは誓約書を書かせるとか。

田中 誓約書を書いて病気が治るはずないですよね。精神論やお説教でどうこうなる問題ではないのに、まわりの人がそういう対応をすることによって、本人のストレスもどんどん大きくなり、症状も悪化していく。依存症ではよくあるケースです。
 

ナカムラ 個人的にもそういった経験があったので、紀子さんから学んだことを生かして、映画を作ろうと思いました。取材で相談会に参加させてもらうと、多くの方が驚くほど同じような問題で悩んでいる。ギャンブルやアルコール、薬物や買い物、依存の対象は違うのに、抱えている問題の根は同じなんです。

田中 依存症の本人が苦しんでいるのはもちろんですが、家族だったりまわりの人たちがどう対応すればいいのか、あまりにも知られていない。ただ共倒れするだけのケースが多すぎるんです。

 ――なぜそのような現状になってしまっているのでしょう。

田中 病院に行かないとか、行きづらいとか、自助グループの存在が知られていないとか、原因はいろいろありますけど、その根っこにあるのは、回復した人たちをリスペクトする文化がないからだと思いますね。私自身もギャンブル依存症から回復した当事者ですけど、回復するって生半可なことではありません。

私の場合は4年間かかりましたが、あんなにきつい思いをしてようやく回復しても、社会はなかなか受け入れてくれない。平気で心ない言葉をかけてくるし、バリバリ偏見を持った態度で接してくるのが当たり前。私は闘う女なので、負けねえぞと思ってやってきましたけど、たいていの人は心折れちゃいますよ。せっかく死ぬ気で回復しても、社会が受け入れてくれないなら、そりゃあ影を潜めて生きていこうと思っちゃうし、ましてや声を上げようなんて気にならないです。
 

――依存症という病気かどうかの線引きは、どこにあるのでしょうか。

田中 一言で言えば、それにしか依存できなくなる。そして問題が起きてもやめられなくなる。誰しもストレスは抱えていますので、運動とかエステとか、たとえお酒であってもパチンコであっても、健康的に何かに依存することで解消しています。それが依存症になると、ほかのことには一切反応しなくなる。そのことでしか喜びを感じられなくなり、ストレスも解消できなくなります。

医者も社会も依存症について知らなすぎる 

ナカムラ これまでにも啓発を目的にした映像作品はありましたけど、日本の場合、たとえばアルコールでつぶれていく人を悲惨に描いたりとか、基本は「こうならないようにしましょう」という描き方なんです。

田中 そんなつまんない映画、誰も観ませんよ。

ナカムラ でも海外の啓発映像を見ると、回復していく様子をきちんと描いていたりする。だったら日本でもそれをやったほうがいいと思って、この映画を作りました。回復のステップにはいろいろな方法があるけれど、共通しているのは「仲間と一緒に治していく」ということなんです。
 

――担当の医師だけでは回復は難しいものなのでしょうか。

田中 だって“先生”と名のつく人なんて、みんな嫌いでしょう? あっ、それは私だけ!? でも、実際に“先生”と呼ばれる人の言うことなんて聞きたくないって人も結構いるんです。医者はマストじゃないですよ。でも自助グループはマストだと私は思ってます。医者から偉そうに何か言われて「お前に何がわかるんだ」って思うぐらいなら、同じ病気で苦しんでいる仲間たちと「お前もやっちゃったか〜」とか言いながら、一緒に治していったほうがいいに決まってる。

高知 俺がフォローするのも柄じゃないけど、病気だと診断してもらうときには医者は必要ですよ。そこは素人で判断しちゃダメ。

田中 そうね。高知さん、偉い。あとは裁判になったときとか、傷病手当がほしいときとか、重複障害があるときとか、そういうときにも医者は必要ね。それ以外、回復する過程においては、私は医者よりも自助グループの仲間のほうがずっと重要だと思う。

高知 紀子さんは自分も依存症になった当事者であり、長年「ギャンブル依存症問題を考える会」の代表として活動してきて、その経験からこう言っているわけだけど、俺も気持ちはすっごいわかるの。だって国家資格を持った医者であっても、依存症についての知識がない人が本当に多いから。医者だけじゃない、社会もそう。
 

田中 それと間違えないでほしいのは、依存症の人が行くのは精神科。マスコミでも心療内科とか書いている場合があるけど、違います。精神科です。医者もマスコミもいい加減なんですよ。自分たちが勝手に描いたストーリーに当てはめようとしてさ。

刑罰を望むのは取り締まる側の都合 

――映画の中でも、偏見の例として「誘惑に弱い人たち」「快楽の問題でしょ」というセリフがありましたが、こういった間違った知識が広まってしまったのは、なぜだと思いますか。

田中 ギャンブルやお酒、買い物にしても、普通は気分転換にやるもの、嗜好品が対象っていうのはあるでしょうね。それに手を出さなければ、ならないという大前提があります。誰でもなる病気じゃないから。たとえばうつ病とかは、誰でもなる可能性がある。

でも依存症の場合は、そもそも娯楽に手を出した、ごく一部の人がなるもので、だから同情できない。発症率はだいたい2%くらいなので、残り98%の人は「自分もやってるけど大丈夫」っていう状態なので、理解しづらいんですよ。でも確率が低いだけで、2%の人はなるからね。今は大丈夫でも、可能性はゼロじゃない。なんか「意志が弱いから」とか言われるけど、何言ってんの、私めっちゃ意志強いから。

――主に薬物依存に関しては、刑罰にどれほどの抑止効果があるのか、それよりも回復へ繋げるほうが大事である、という議論があります。

田中 刑罰を望むのは日本の国民性もだいぶあると思うけど、あとは取り締まる側の都合ですよ。最近も京都の木津川ダルク(薬物依存症からの回復をサポートする施設)にガサ入れが入ったニュースがあったけど、あれは自分たちで出頭しますって言っていたのに、わざわざガサ入れをして、それをニュースとして出した。昔から日本に限らず、アメリカだとニクソンの時代から、世界中で薬物の取り締まり政策は、政治的・官僚的なアピールにずっと使われてきたんです。スティグマを強化することで、重要な任務を果たしているとアピールする。

 依存症についてすべてをさらけ出した芸能人はいなかった

――ナカムラ監督は取材をする中で、どんなことを感じましたか。

ナカムラ 私が感じたのは、どんなに真面目に治療のステップを踏んでいても、そう簡単に、短い時間で回復するものではない、ということです。治るまでには何年もかかる。それは高知さんもそう。白でも黒でもない、グレーの時間がすごく長いんです。グレーでいる間に、自分でも疑心暗鬼になるし、スリップ(依存症の再発)の恐怖とも戦っている。そんなときに世間から冷たい言葉をかけられたら、どんなに辛いか。そのことを社会にも知ってほしいと思いました。

田中 依存症は完治するっていうことがないんですよ、慢性疾患だから。でも糖尿病と同じで、きちんと管理し続ければ問題なく過ごせる。

――病状の回復が厳しい道のりであることはもちろん、それとは別で、新しい仕事に就いたり、人間関係を構築したり、社会生活への復帰のほうにも厳しい道のりがありますよね。

田中 そういった社会復帰への手助けも自助グループではやっています。病気も回復して、新しい仕事も見つかって、人間関係も良好で、なんて一気にできるわけがない。少しずつ仲間たちと支え合う中で、復帰の道を目指すしかない。それこそ高知さんだって、今でこそ全国で講演活動をされていますけど、私が最初に講演の依頼をしたときには、めっちゃ嫌がってましたからね。

高知 そりゃあ嫌でしたよ。だって、同じ依存症の仲間たちにでさえ心を開くのが大変だったのに、経験もない、理解もしてくれるかわからない、そんな大勢の人たちの前で、素直に自分をさらけ出せるわけがないと思ってましたから。自分自身、歪んだ認知のかたまりが大きかったせいで、溶かすのにもだいぶ時間はかかりました。
 

田中 芸能界の第一線で活躍していたのに、逮捕されていろいろなものを失った、そのことを高知さんは恥だと思っていたわけです。そんな恥ずかしい経験を他人に話すのは、誰だって嫌ですよね。でも、私は絶対にやってほしかった。きっとそれが復帰に繋がると思っていたから。

高知 これまでに薬物で逮捕された芸能人はたくさんいるけど、その体験をさらけ出して、素直にすべてを語った人なんて一人もいなかったんですよ。参考になる人が誰もいない。そりゃあ怖いでしょう。

高知東生は依存症回復のエリート 

田中 依存症からの回復12ステップというのがあって、それを支えることを「スポンサーシップ」と呼びます。自助グループと聞くと、多くの人が車座になって行うミーティングを想像すると思いますが、実際はそれだけではありません。逮捕された芸能人で、高知さんのようにきちんと回復の12ステップに取り組んでいる方は、私の知る限り一人もいません。なので、高知東生は依存症からの回復のエリートなんです。

高知 最初は田中さんとも喧嘩しまくったけどね。地元で暴れていた頃より、もっと喧嘩したかもわからない。脳みそ飛び散るかと思ったよ。

田中 こっちだって覚悟決めてやってるんだから、言いたいことは全部言ったし、ガンガン詰めましたね。嫌がっていた講演会の依頼だって、芸能の仕事ができないんだから、新しいことやるしかしょうがないじゃんって。この映画の中でも、応援してくれる人や企業が出てきますが、世の中には意外といるんですよ。マスコミは自分たちにお金を出してくれる企業のことしか宣伝しないだけで。

高知 それは本当に実感するね。それまでは芸能人じゃなくなったら俺は終わりだと思っていたし、逮捕された後なんかは、日本中が敵だと本気で思ってた。でも、世の中にはそれでも応援してくれる人たちがたくさんいた。声をかけてくれた人だけじゃない、一緒に行動をしてくれた人もいっぱいいた。逮捕されてからの俺は、とにかく謝ってばっかりだった。
どこへ行っても、誰と会っても、「申し訳ございません」「申し訳ございません」って。でも回復の12ステップに取り組んで、仲間たちと出会ってからは、「ありがとうございます」って言うことのほうが多くなった。自分一人では生き直しなんて絶対にできないんだよ。この映画でも、そういう仲間の大切さが伝わるといいな。
 

ナカムラ この映画では、決められたセリフではない、高知さんの生の声を聴くことができるので、きっと伝わると思います。

田中 出演する俳優が薬物で捕まったときに、その映画が上映中止になったり、ミュージシャンが捕まると作品が回収されたり、そういうの本当に意味がわからないし、心底腹が立つ。一方で、オーバードーズで亡くなった俳優が出演している映画でも、海外の作品なら普通にテレビで放送してる。だったらこの映画は、出演者全員が逮捕歴のある人にしてやろうと思ったんだけど、まぁそういうことにはなっていないので、ぜひ劇場でご覧ください。
 

前編も併せてお読みください

取材・文/おぐらりゅうじ 撮影/高木陽春

2024年6月29日より新宿K’sシネマほか全国順次公開
2024年製作/82分/G/日本
配給:マグネタイズ
© 2024ギャンブル依存症問題を考える会

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