感情が溢れた文章には狂気が宿る…星野源が闘病で、さくらももこが祖父の死に面して綴った文章に映る「書くしかない」想いの強烈な魅力とは
集英社オンライン / 2024年6月4日 11時0分
SNSやブログで読まれる文章を書きたい――けれど「書けない悩み」には共通する原因がある。それはテクニックの上手い、下手ではなく、「書く前の考え方」を知らないから。ではどんな文章が人の心を打つのか?
【画像】はてなブログにて個人ブログ「kansou」を運営し記事数は1000超、月間PVは最高240万アクセス、累計PVは5000万アクセス。ブロガー・かんそう氏の新著
「感情が溢れた文章には狂気が宿る」と語るエンタメ系トップブロガー「かんそう」さんが、文章にまつわる「考え方」「書き方」をまとめた著書『書けないんじゃない、考えてないだけ。』から一部抜粋、再構成してお届けする。
「変態」の文章だけを死ぬまで読みたい
私は理路整然だが無味無臭の味のないガムのような文章よりも、小手先の文章術などでは決してマネできない狂気が宿った変態の文章を読みたいし、書きたいと常に思っています。
私が敬愛する文章をいくつか紹介します。
まずは、星野源の著書『よみがえる変態』(文藝春秋)から。くも膜下出血の手術を終え、病室で激痛に苦しむ星野源。看護師に痛み止めの座薬を打ってもらうことになり、気持ちを紛らわすためにどうにか気持ち良くなろうと妄想を試みるも、失敗。
痛みに耐えながら一夜を過ごした翌朝、座薬を打った看護師からまさかの「ファンです」の一言。そのときの心情を表した文章です。
最悪だ。自分のファンに座薬を3回も入れさせてしまうなんて。しかも「ファンに座薬を入れられながら気持ちよくなろうと必死で頑張った」なんて、今後どれだけ真面目なことを歌っても説得力の欠片もないじゃないか。
1カ月後の退院の日、その子はわざわざ病室まで来てくれ、数人の看護師とともに顔を赤くしながらお祝いとして私の歌を歌ってくれた。可愛かった。退院後、頭痛も治まりずいぶん元気になった頃、集中治療室でのいろいろを思い出し、遅ればせながら少し興奮したのだが、それはまた、別の話。
(星野源『よみがえる変態』(文藝春秋)より)
どんな状況でもエロを忘れない精神力と、見事なオチ。
星野源がこれから良い曲を作れば作るほど、「今後どれだけ真面目なことを歌っても説得力の欠片もないじゃないか」の一節の破壊力が増していく究極の文章ではないでしょうか。
DVDか、それともエロ本か
次は、熊谷真士のブログ『もはや日記とかそういう次元ではない』内の記事「精液検査をしにいったら、射精をする部屋でパニックに陥ったのでレポートします。」から。
精液検査用クリニックを訪れた熊谷真士が、精液採取の部屋でDVDで採取するのか、エロ本で採取するのか迷った末に出した文章です。
時代は流れ、街はうつろい、社会は変容する。それでもエロ本の持つ唯一無二のエロ本性というものは決してブレることなく、ただそこに存在し続ける。それは行く川の中で流れに逆らい続ける岩場のようであり、その普遍性は美しい数式に酷似している。ページをめくるたび掻き立てられるノスタルジーに圧倒され、僕は息を飲んだ。エロ本というのは決してAVの下位互換ではない。ふと辿り着いたページ。大きめのフォントで記された文字列が僕の目に飛び込む。「ロリータ人妻による絶叫は、まさにダイナソー」。意味が全く分からない。
よし、エロ本でヌこう。僕は決意した
正確に言うと、エロ本でヌくのではない。エロ本の先にある、「普遍性」でヌくのだ。普遍性をおかずに出来るチャンスはそうない。
(もはや日記とかそういう次元ではない「精液検査をしにいったら、射精をする部屋でパニックに陥ったのでレポートします。」より)
下品極まりない言葉の中に突然現れる「それは行く川の中で流れに逆らい続ける岩場のようであり、その普遍性は美しい数式に酷似している」という美しい一文。この一文によって、お下劣ブログが一気に「文学」になる。
熊谷真士の底の見えない変態性と、確かな知性が感じ取れる美しさすら感じさせる文章です。
さくらももこの天才的な構成力
最後は『ちびまる子ちゃん』の作者・さくらももこのエッセイ集『もものかんづめ』(集英社)に収録された「メルヘン翁」から。
さくらももこの祖父が死去し、そのことを姉に伝えたときの文章です。
「ジィさんが死んだよ」と私が言ったとたん、姉はバッタのように飛び起きた。「うそっ」と言いつつ、その目は期待と興奮で光り輝いていた。私は姉の期待をますます高める効果を狙い、「いい? ジィさんの死に顔は、それはそれは面白いよ。口をパカッと開けちゃってさ、ムンクの叫びだよあれは。でもね、決して笑っちゃダメだよ、なんつったって死んだんだからね、どんなに可笑しくても笑っちゃダメ」としつこく忠告した。
姉は恐る恐る祖父の部屋のドアを開け、祖父の顔をチラリと見るなり転がるようにして台所の隅でうずくまり、コオロギのように笑い始めた。
私は、「あ、お姉ちゃんダメだって言ったでしょ、いくら面白くてもさァ」とますます追い討ちをかけてやったので、姉はとうとうひっくり返って笑い出した。
死に損ないのゴキブリのような姉を台所に残し、私は祖父の部屋へ観察に行った。誰も泣いている人はいない。ここまで惜しまれずに死ねるというのも、なかなかどうしてできない事である。
さくらももこ『もものかんづめ』(集英社)より
祖父が家族からどれだけ嫌われていたのかが、短い文章でここまで鮮明に伝わる凄まじいまでの描写力。「バッタ」「コオロギ」「死に損ないのゴキブリ」と姉を昆虫の三段活用でたとえている天才的な構成力。さすがとしか言いようがありません。さくらももこの面白さが存分に詰まった素晴らしい文章です。
こんな最高の文章だけを一生読んでいたい。そのために文字単価0・1円、1000文字100円のダイソーライターをこの世から一匹残らず駆逐したい。文章界のエレン・イェーガーに私はなりたい。
書こうと思って書いているのではなく、「書かなくてはいけない」「書くしかない」という強い想いが乗った文章にこそ、私は魅力を感じるのです。
文/かんそう 写真/shutterstock
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