「尊い」を越える表現は「恐怖」…「米津玄師こわい」と書いたブロガーが伝授する、他人に“伝染させる”文章の究極テク
集英社オンライン / 2024年6月8日 10時0分
〈喜怒哀楽の中で人間が最も想いを乗せられる感情は「怒」…怒りを文章にする際、何よりも大切にするべきたったひとつのポイント〉から続く
SNSやブログなどで、若い人たちを中心に「尊い」という表現で人やモノなどを称えるシーンがある。だが、「尊いを越える究極の表現は『恐怖』」と語るのはエンタメ系トップブロガー「かんそう」さん。
【図解】文章内で「恐怖」を効果的に使うと2方向からアプローチできる
彼が培ってきた文章にまつわる「考え方」「書き方」をまとめた著書『書けないんじゃない、考えてないだけ。』から一部抜粋、再構成してお届けする。
人間は愛が振り切れると怖さを感じる生き物
最近の流行語に「尊い」という言葉があります。しかし、私にとっての尊敬語の最上位は「恐怖」です。
対象の圧倒的な才能を目の当たりにしたときに感じる、「こんな天才が同じ地球上に存在している」その事実が恐怖となるのです。
例えば、私が今この世で恐怖を感じているアーティストの一人に「米津玄師」がいます。2018年に彼がリリースした楽曲『Lemon』を初めて聴いたときの感情はまさしく「恐怖」だった。それを綴った文章が以下です。
米津玄師のイメージは、春画描いてる浮世絵師みたいな名前のとおり「気持ち悪いのに気持ち良い音楽作ってるド変態」だと思ってた。
「好み」を超えて『米津玄師』の名前を知った時から曲が流れるとどうしても無視できない。やってることは1ミリも理解できないのに「なんかすげえこいつ…」ということだけは異常に伝わる。得体の知れない化け物。
その「気持ち悪さ」は、例えば『ポッピンアパシー』や『MAD HEAD LOVE』の謎の電子音のような、普通にそれだけ聴いてると不快にすら感じる部分なんだが、米津は逆に利用して印象づけてたり「違和感」にしかならない音を他の音と組み合わせることで「気持ち良い」に変換させてくる。
それはアレンジだけじゃなく、米津自身のザラついた声も「そのメロディにその言葉当てるか」っていうような歌詞も、良くも悪くも強制的に聴いた人間の脳裏に刻まれる音楽を描く狂気のエロ春画舐め郎、そんな印象だった。
それを踏まえてこの『Lemon』。怖すぎる。全音「気持ち良い」に振り切ってる。声も歌詞もメロディも気持ち良さしかない。歌詞の内容は終始マイナスなのに体揺らしてクラップしながらリズム取りたくなる感じとか不自然なほどに完璧だった。
米津玄師にしては不自然すぎるくらいに「わかりやすい良い曲」「わかりやすい良い歌詞」をやってる。メロディ、歌詞共に「ヒト科が好む音」しか鳴ってない。1億人が好む音楽。ギターもストリングスもAメロで突如ブチ込まれる「ウェッ」も、本当に細かいところまで残らず「国民的ヒット曲」だった。
「俺は俺だけの音楽を作る鬼」だったはずでは…
しかも、いくらなんでもドラマ『アンナチュラル』にハマり過ぎている。
毎回一番良い場面で小っちゃい小っちゃい息吸い音からの「夢ならばどれほどよかったでしょう…?」が無音から入る所は聴くたびに「俺も検死してください…」と血の涙を流してしまう。
「(スゥ…)夢ならば…どれほど…よかったでしょう…?(ウェッ)」
ウェッ…は…俺の…泣き声だったのか…
みたいなことが毎話起きてしまう…おかしいだろ…俺の知ってる米津玄師はこんなミュージシャンじゃなかっただろ…こんな「ドラマから生まれました」みたいな曲を作るミュージシャンじゃねぇだろ…もっと頭イカれた「俺は俺だけの音楽を作る鬼」だったはずでは…待て…騙されるな…米津はいま地下から「あえて」地上に出てきて地上の人間向けにわかりやすい音楽をわかりやすくやってるだけ…多分あいつが本気出したら俺たち凡人は1ミリも理解できない、ほぼナメック語なんだよ…
だからこそ、俺は米津玄師が怖くて仕方がない。めちゃめちゃ知識があって専門的な話もできるはずなのに魚知らない一般人向けに「ギョギョギョ〜〜〜!」とかってピエロ演じてるさかなクンさんがたまに見せる「年下だろお前。さかな〝サン〟な。」と言わんばかりのあの表情を見た時と全く同じ。ロングコートの中は上半身裸にガーターベルトなのに、普通の顔して日常に溶け込んで国民的ミュージシャンをやってるのが怖くて仕方がない。
『Lemon』を聴くたびに鳥肌が止まらない。『モニタリング』でプロスポーツ選手がジジイの格好して紛れ込むような違和感。ある意味、米津玄師は俺たちアホのために「手を抜いてる」…だが、それは決して音楽的に手を抜いてるんじゃなく、元々の変態性と大衆性をうまくミックスさせて『Lemon』みたいな極上の作品として昇華させてるとも言える…
これから先、コアな音楽好きも俺たちみたいなアホも唸らせるやり方を覚えた米津玄師が、これからアルバム曲とかカップリング曲じゃなくて「ノンタイアップのシングル」とかでリミッター外して好き勝手したら本当にバケモンみたいな曲を作りそうで怖いし、なにより一番の恐怖は、いつの間にか米津玄師の作るそんな音楽を心の底から欲してる俺…
米津玄師こわい
(kansou「米津玄師『Lemon』聴いて「こわい」と思った」より)
感情の矢印を2方向に向ける
私の米津玄師に対する感情が少しは伝わったでしょうか。米津玄師は元々「ハチ」という名義でニコニコ動画を中心に活動していた「知る人ぞ知る」存在だったのです。それがいつのまにか、誰もが知る国民的アーティストへと変貌していました。
地下に潜んでいたはずの音楽の化物が地上の人間に擬態し、我々アホにもわかりやすいような曲を作り、それがまんまと歴史に残るヒット作になってしまう。さらにこの『Lemon』を皮切りに、出す曲出す曲で特大のヒットを飛ばしている……私はそれがものすごく怖い。
もはや軽々しく「ファン」などという言葉すら使えませんでした。
まさに「恐怖」。
他人に伝染する「好きすぎて怖い」
そして、この「好きすぎて怖い」という「恐怖」の感情は他人にも確実に伝染していきます。
例えば、「◯◯が好き」という想いを第三者に伝えるとき、その感情の矢印は一方向にしか向けられていません。会話の例を用いて説明しましょう。
例A(通常)
「俺さ、リンゴがマジで好きでさ〜」
「へぇ〜、なんで?」
「だって甘くておいしいじゃん!」
これでは、俺がどれだけリンゴが好きで、そのリンゴがどれだけ甘いのかが全く伝わりません。「だから何?」としか思われない。
しかし、この感情を「恐怖」として伝えるとこうなります。
例B(恐怖)
「俺さ……リンゴがマジで怖いんだよ……」
「え……? な、なんで……?」
「いくらなんでも甘すぎる……あの甘さは常軌を逸してる……」
例A(通常)は「好き」という感情しかありませんが、例B(恐怖)は「好き」と「怖い」が混在し、感情の矢印が2方向に向いているのがわかるでしょうか。
「好き」だけを相手に伝えても、相手がその対象に興味がなければそこで話は終わってしまいますが、このように「好き」に「怖い」を混ぜることで、相手に2つの方向からアプローチをかけることができます。「そんなに恐怖を感じさせるほどおいしいリンゴだったら一回食べてみるか……」と思わせるチャンスが増えるのです。
これは会話の例ですが、文章でも同じことです。大切なのは「恐怖ポイント」を見つけることです。
対象のどんなところに最も恐怖を感じているのか。
アーティストなら「曲」なのか「声」なのか「歌詞」なのか「制作過程」なのか「生い立ち」なのか。それを知り、深掘りすることで、自分にしか書けない快文が完成します。
文/かんそう 写真/shutterstock
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