歯止めの効かない中国の「不動産倒産連鎖」についに政府が「救う会社、救わない会社リスト」を作成…これから中国経済が直面する“失われた30年”
集英社オンライン / 2024年6月12日 8時0分
〈中国GDPの3割崩壊へ「年金ファンドも資金が枯渇してしまう恐れ」これから始まる本当の地獄に中国国民は耐えられるのか〉から続く
3000億ドルの負債を抱えているとされている、中国の巨大不動産企業・恒大集団。その凋落からも分かるように、不動産デベロッパーにとって苦しい状況が続いている中国は、日本のバブル崩壊後と同じシナリオを辿るのか。
想定されるいくつかのシナリオを書籍『中国不動産バブル』より一部抜粋・再構成し、解説する。
デベロッパーの連鎖倒産による金融危機
中央政府にとっては、いかにして金融危機を回避するかが重要な課題になる。不動産バリューチェーンの関係者は救済を期待するだろうが、中央政府はその全員を助けることはできない。
誰を優先的に救済するかについてプライオリティを決めることが重要になってくる。中国は透明性のない社会なので、各々の関係者は政府とのバーゲニングとロビー活動を強めるだろう。
そのなかでもっとも不利な立場に立たされるのは、マイホームを買った個人と、不動産デベロッパーの理財商品を買った個人投資家である。独裁政治の政府救済計画において、個人はいつも劣後になる。むろん、彼らも黙っているわけではなく、グループとなって抗議活動を展開し、政府に圧力をかける。
政府にとってもっとも心配しなければならないのは、デベロッパーの連鎖倒産が起こることである。目下、中国政府のなかでは、すべてのデベロッパーを救済するのではなくて、救済するデベロッパーと救済しないデベロッパーをわけた「ホワイトリスト」が作成されているといわれている。
この件が報道され、現在はデベロッパーによる政府機関へのバーゲニングが盛んになっていると思われる。救済するデベロッパーと救済しないデベロッパーの線引きの基準がはっきりしないというモラルハザードが起こる可能性も高い。
政府がデベロッパーを救済する条件として、創業者あるいは経営者に経営権の譲渡を求めることもあり得るだろう。
国有企業による吸収・合併となるだろうが、その後の不動産開発がうまく行く保証はない。そのほかには、国有銀行による融資の増額でキャッシュフローの難関を乗り切るやり方も考えられる。
しかし、銀行融資の増額は経済危機の根本的な問題解決にはならない。逆に採算性を度外視する、ソフトな予算制約が引き起こすモラルハザードは、経済効率をさらに悪化させる心配がある。
経営難に陥ったデベロッパーにとって、政府の指導に基づいた国有銀行のレスキュー融資はフリーランチのようなもので、このような融資はデベロッパーの経営を改善することにほとんど寄与しないと思われる。
中国で不動産バブル崩壊のリスクが囁かれるようになって久しいが、政府、国有銀行、デベロッパーと個人はいずれもきちんとリスクに備えてこなかったようだ。筆者は講演などでよく「中国は日本のバブル崩壊からきちんと学んだのではないですか」と質問されるが、そうとは思えない。
多くの中国人にとって30年前の日本の資産バブル崩壊は、単なる対岸の火事に過ぎない。「備え有れば、患いなし」という諺を考えた中国人の祖先に比べれば、今の中国人はリスクに備える意識が薄いようだ。
失速する不動産業界の将来
バブル崩壊後の不動産業界には、どのような将来が待ち受けるのか。
中国は社会主義国家であり、制度だけを見れば土地は公有制である。また、政策面において国有企業が優先されているのも特徴的といえる。
図表9に示したのは中国企業資産総額ランキングトップ10の推移である。2023年、民営企業のアリババが10位に入っているが、他はすべて大型国有企業である。石油などのエネルギー企業や金融機関および鉄道建設など重厚長大企業ばかりだ。
これらの国有企業は政策的に優遇されているから、市場を独占して規模がますます大きくなる。胡錦涛政権(2003~13年)の10年間、国有企業による市場独占が一段と強化され、「国進民退」が進められた。
2009年、中国政府はリーマンショックの影響を抑えるため、4兆元の財政出動を実施したが、そのほとんどは大型国有企業に流れた。
一方、中国の不動産デベロッパーの大半は民営企業である。会社の規模は国有企業に及ばないが、収益性が高いため、そのほとんどが創業から20年程度で中国屈指の億万長者となった。
図表10に示したのは中国の億万長者、すなわちミリオネアトップ10の推移である。わかりやすいように、経営者名を会社名に置き換えて示した。
2020年には、5位に恒大集団の許家印がランクイン、7位は碧桂園の楊国強だった。不動産バブル崩壊以降の2023年のランキングを見ると、中国本土のデベロッパーはすべて抜け落ちている。7位の長江実業は香港の財閥だ。
これまでの20余年間、中国経済にとって不動産業は間違いなく力強いエンジンだった。だが2023年に不動産バブルが崩壊し、中国経済は失速してしまった。習政権も有効な経済政策を打ち出せていない。
むろん、中国不動産業がこのまま衰退するかどうかは分からない。中国はこれからも都市再開発を進めていく必要があるからだ。
重要なのは、不動産業を発展させるための市場環境と市場のルールをきちんと整備していくことである。不動産業は単なる建設業だけでなく、金融の面でも、個人にとって資産を運用する重要な市場である。
ただ、中国における土地の希少性を考えれば、その土地が一握りの富裕層に過度に集中してしまうことは社会不安につながる恐れもある。なにより、中国共産党は現在の体制を社会主義と謳っているのだから、これ以上格差の拡大を看過してはならない。
不動産開発ブームと不動産バブルは単なる経済の問題ではなくて、中国社会に内在する政治経済問題の縮図である。
中国経済が直面する「失われた20年ないし30年」
不動産バブルの崩壊以降、一部の研究者の間で中国経済の日本化が議論されている。現象面では似ているところがあるかもしれないが、本質的には異なる問題だ。
米国スタンフォード大学客員研究員の許成鋼(専門は理論経済学)は、目下の中国経済は構造的に、政府による経済統制という点で1970年代のソ連経済とよく似ていると指摘している。
30年前の日本のバブル崩壊は、基本的に市場の失敗だった。後処理の段階で政府が失敗を犯し、立ち直るのに時間がかかり、失われた30年を喫した。
それに対して、中国の不動産バブルとバブル崩壊は、政府の失敗が引き起こしたものだ。
中国政府は不動産開発を経済成長の牽引役として位置づけた。土地の公有制を堅持し、不動産課税、すなわち、固定資産税は導入してこなかった。
そのため個人にとっての不動産投資は、低コストでよりたくさんの不動産を所有する一攫千金のゲームとなった。不動産投資ブームについて習政権執行部も危機感を抱き、習主席自身は「家は住むためのものであり、投機の対象ではない」と発言したが、投資の禁止を呼びかけるだけでは意味はなかった。
過度な不動産保有を制限したいのならば、不動産関連の課税を導入する必要があったのだ。
不動産投資は個人の自由として法的に認められている。不動産投資が過熱したのは、地方政府やデベロッパーの不正行為に加え、個人にとって機会コストが安いからである。
過熱し過ぎた不動産投資を冷やすためには制度を改革する必要があるが、政府共産党は政策を立てるよりも先に市場に直接介入しがちである。
政府共産党の市場介入は即効性がある半面、経済のハードランディングをもたらすリスクも高い。習主席の呼びかけは市場を直接統制するものであり、往々にして逆効果となる。
中国のデフレはどうなる?
2023年末現在、習政権は金融緩和政策をもって不動産バブルの崩壊を食い止めようとしているように見える。しかし、年末に開かれた共産党中央経済工作会議で習主席が行った演説をみるかぎり、具体策は打ち出されていない。
現状において不動産デベロッパーを救済する融資を実施しても、問題の解決を先送りするだけである。重要なのは構造改革だ。
日本の場合は、バブル崩壊の後処理を行うのに30年かかった。はたして中国は何年かかるのだろうか。現段階では断定することはできないが、日本経済を取り巻く外部環境と中国経済を取り巻く外部環境を比較すると、両者の立場は大きく異なると言える。
日本のデフレは30年間続いたが、輸出製造業は順調に日本経済を支えていた。それに対して、中国には米中対立とサプライチェーンの再編という壁が立ちはだかる。習政権は目の前の状況の深刻さを十分に理解しておらず、国内循環、すなわち、自力更生で経済成長を実現しようとしているようだ。
しかし、中国の経済構造は輸出依存であり、内需だけで成長を持続させるのはそもそも無理なことである。
最近、中国国家統計局報道官の記者会見を聞いていると、都合の悪い経済統計を言葉で粉飾しようとする傾向が強くなっている。具体的な経済統計をいわずに、経済が改善に向かっているというように言葉を濁す場面が多い。
実際のところ、不動産バブルは崩壊して、経済が回復する力は弱くなっているはずだ。国家統計局が正しい統計を発表しなければ、ポリシーメーカーは正しい政策を考案する根拠をもてない。このままいくと、中国は失われた20年ないし30年を喫する可能性が高くなる。
写真/shutterstock
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