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中国不動産の惨状「すでにデフレに突入」「深刻な社会不安を引き起こす恐れも…」中国経済“クラッシュ”なら日本のバブル崩壊を凌駕する破壊力

集英社オンライン / 2024年6月13日 8時0分

歯止めの効かない中国の「不動産倒産連鎖」についに政府が「救う会社、救わない会社リスト」を作成…これから中国経済が直面する“失われた30年”〉から続く

中国不動産バブルの崩壊は始まっているのか、いないのか。専門家によって見方が分かれるが、確実に一時期の勢いは失われ、多くの企業が政府による救済を待っている状況だという。

【写真】警察に拘束された恒大集団の創業者・許家印氏

日本とは違い、政府が市場に直接介入することができる共産主義の中国で起きている状況を、書籍『中国不動産バブル』より一部抜粋・再構成し、解説する。

日本のバブル崩壊よりも深刻な影響が……

2023年9月、中国のSNSである情報が流れて大騒ぎになった。中国国家統計局副局長だった賀鏗が中国国内で開かれたフォーラムで、中国の不動産市場は供給過剰の問題が深刻で、今売りに出されている住宅は14億人が入居しても余るぐらいだ、と述べたとのことだった。



中国の不動産市場は明らかに供給過剰になっているが、賀の言い方は明らかに事実に反している。部屋の広さは別として、単純計算すれば、1戸あたりに住んでいる中国の標準家族は3~4人である。今現在、3億ないし4億戸のマンションまたはアパートが売りに出されているとは思えない。

このような荒唐無稽な数字をもとに、中国不動産バブルが崩壊したと指摘するのは、根拠不足といわざるを得ない。

不動産バブルが崩壊したかどうかについては、専門家の間でも意見が分かれている。中国の不動産バブルがすでに崩壊したと指摘する専門家は、不動産デベロッパーのデフォルトを理由に中国経済が日本化(Japanification)する、すなわち、日本と同じように失われた20年か30年を喫するのではないかとみているようだ。

それに対して、中国の不動産バブルは崩壊していないとみている専門家は、中国の景気減速は一時的なもので、デベロッパーがデフォルトを起こしているが、不動産バブルの崩壊を意味するものではないと指摘している。

では、どちらの見方のほうがより真実に近いのか。

私の考えを大胆にいえば、中国が民主主義の市場経済だという前提に立てば、すなわち、政府が直接市場に介入できないということを前提として考えれば、中国は30余年前の日本と同じように不動産バブルが崩壊し、デフレに突入している段階だと断言できる。

中国の不動産バブルはすでに崩壊している。事業を多角化させていたデベロッパーはもちろんのこと、本業に絞って不動産開発に専念していた「健全」なデベロッパーも、経営難に直面するようになった。

ただし、中国の不動産バブルの崩壊の仕方は、30余年前の日本が経験したバブル崩壊とは異なるものになる。

日本のバブル崩壊は金融システムに飛び火し、都市銀行を含む大手金融機関までが倒産したが、それ以上はバブル崩壊の影響が広がらなかった。とくに重要なのは、日本は30年を失ったといわれているが、技術は失わなかったことだ。

それに対して、中国のバブル崩壊は国有銀行に飛び火するだけでなく、地方財政にも飛び火し、深刻な社会不安を引き起こす恐れがある。それはサプライチェーンの再編と重なり、外国企業が工場をほかの途上国に一斉に移転すれば、中国は技術も失う可能性がある。

幹部を接待するための「喜び組」

中国の不動産価格がバブルと化した流れを振り返ろう。都市開発のために、デベロッパーは地方政府から地上げされた土地を落札して、それを担保に銀行から融資を受ける。

そのプロセスで地方政府の幹部および銀行の幹部に多額の賄賂を贈るというのは、中国では広く行われている周知の事実である。そこに不動産建設の材料費や人件費の上昇も上乗せされていく。経済が順調に成長している段階では不動産開発も順調に進み、デベロッパーの売り上げも順調に拡大していた。

このようななか、多くのデベロッパーは経営の多角化を図っていった。不動産業は景気にもっとも連動する産業である。景気のよい局面において不動産業は景気の牽引役となる。景気が減速すれば、不動産業は一気にしぼんでしまう。

きわめてわかりやすい構図だが、中国のデベロッパーは自国の不動産需要において「剛需」が長く続くとみていた。

だから強気の開発計画を展開するだけではなく、まったく無関係の副業にも幅広く手を出した。経営の多角化を成功させるには本業と副業の補完関係が必要不可欠だが、多くのデベロッパーはそうしなかった。

2021年にデフォルトに陥った恒大集団を例にとってみると、本業の不動産開発のほかに、電気自動車の開発、プロサッカーチームの買収、テーマパークの建設と運営、ミネラルウォーターの製造販売などを手広く手掛けてきた。

2023年に創業者の許家印が警察に拘束されたあと、彼に纏わるさまざまな悪事が明るみに出た。その1つが、土地の入札のために共産党幹部を接待する専用「会所」(プライベートクラブ)を作り、歌舞団を設立したというものだ。歌舞団をわかりやすくいえば、北朝鮮指導者の「喜び組」のような組織である。

理不尽なバブル

もう一例をあげよう。

中国の不動産デベロッパーと共産党幹部の癒着を暴露するノンフィクション『私が陥った中国バブルの罠レッド・ルーレット中国の富・権力・腐敗・報復の内幕』(デズモンド・シャム著、神月謙一訳、草思社、2022年)のなかで、不動産開発に携わっていたシャム夫婦(当時)が、共産党幹部の関係者および2人の実業家の3組の夫婦を接待するため、4機のプライベートジェットを飛ばしてヨーロッパへ旅行に出かけたというエピソードが出てくる。

出発間際になって、みんなで一緒にトランプで遊ぼうという話になり、4組の夫婦8人は同じ飛行機に乗り込んだ。あとの3機は乗務員以外、誰も乗っていなかったが、後をついていった。

彼らはパリに着いて、シャンゼリゼ大通り近くのミシュラン星付きのレストランで食事をするが、ワインだけで10万ドル(当時のレートで約850万円)を超えたと本のなかで記されている。

これらのお金はすべて不動産開発と不動産投資から得られた利益のはずである。

不動産バリューチェーンのなかで、これらの勝ち組の贅沢三昧の生活を支えているのは結局のところ、マンションなどの不動産を高価格で購入している無数の個人である。

この2つの事例からは、中国の不動産市場が明らかにバブルとなっており、持続不可能な状態となっていたことが明らかだ。このような理不尽なバブルがはじけないはずがない。

政府の救済はあるのか?

それではなぜ一定数の人には、中国の不動産バブルが崩壊していないように見えるのだろうか。

不動産バブルが崩壊したかどうかを判断する指標には、不動産価格の下落、デベロッパーの経営状況、個人による住宅ローンの延滞、銀行の不良債権問題などがある。

一般的に不動産バブルが崩壊すると、不動産価格はある程度下落するが、大暴落はしにくい。これは不動産価格の下方修正硬直性によるものといわれている。

デベロッパーの経営悪化ないし大規模倒産が起き、景気が急減速するのを受けて、個人による住宅ローンが延滞され、銀行のバランスシートに巨額の不良債権が生まれ、金融システム不安が現実問題として浮上してくる。

これが、不動産バブル崩壊が引き起こす債務連鎖である。この一連の動きのなかでもっとも重要なのは情報の伝達である。すなわち、デベロッパーの経営難が囁かれると、銀行の経営難も容易に想像される。

金融不安が現実味を帯びてくると、マクロ経済はデフレに突入する可能性が高くなる。これはまさに30余年前に日本が経験したバブル崩壊のストーリーだった。

中国の現状を見ると、デベロッパーが経営難に陥っているのは明らかだが、大規模な倒産には至っていない。だから、一部の人には不動産バブルが崩壊していないように見えるのだろう。

気をつけるべきなのは、デベロッパーの多くが政府による救済を待っている最中だということだ。政府が救済に乗り出せば、倒産を免れる。逆に政府が救済しなければ、不動産デベロッパーと下請け企業などは連鎖倒産してしまい、中国経済は一気にクラッシュしてしまう。今はその瀬戸際に差し掛かっているところだ。

2024年3月9日には、不動産政策を担う倪虹・住宅都市農村建設相が全人代に合わせて記者会見。債務超過が深刻な不動産企業について、「相応の対価を支払わせる」「破産すべきは破産」などと発言し、衝撃が広がった。

一部の個人はすでに住宅ローンを予定通りに返済できなくなっている。中国にいる友人に確認してもらったところ、個人は家を売りに出したくても、地方政府が決めた価格より安い価格で売ることが認められていない。

ガイドラインに沿った価格を設定して売りに出しても、ほとんど売れないといわれている。多くの個人にとって住宅ローンの返済が難しくなっても、家を売って損切りすることすらできない状況になっているのだ。

若者の失業率の急上昇も、個人の住宅ローンの延滞の要因で、銀行に差し押さえされ競売に出されている物件が急増している。

デベロッパーの経営難により、現在開発中のマンションや商業ビルなどの物件が未完成のまま、ゴーストタウンになるケースが増えている。もっとも有名なのは深圳の新しいランドマークとなる中国一(世界二番目)の超高層ビル「深圳世茂深港国際センター」(140階建て、高さ700メートル)だ。

開発の途中で資金が枯渇し、現在未完成のまま売りに出されているが、買い手がつかない状況が続いている。他にも、マンションを買ったが、そのマンションが完成されずに放置されているケースも増えている。買い手にとってまさに悪夢となっている。

不動産バリューチェーンにあるすべての企業と個人はなすすべがなく、政府による救済に淡い希望を抱きながら、景気が上向くのを待っている。

写真/shutterstock

中国不動産バブル

柯隆
中国不動産バブル
2024/4/19
1,100円(税込)
256ページ
ISBN: 978-4166614523

中国の不動産バブル崩壊が幕を開けた。
それは貨幣的な現象に留まらず、金融、行政、政治システムへと飛び火し、やがては共産党統治体制をひっくり返す要因にもなり得る――。バブル形成から崩壊まで、複雑怪奇な構造をどこよりも分かりやすく読み解く。

【不動産から見える中国社会の歪み】

●主要大都市の不動産価格が大きく下落
●開発途上の不動産プロジェクトが次々とゴーストタウンに
●中国政府が不動産開発を熱心に進めた理由
●共産党幹部とデベロッパーが熱中したマネーゲーム
●別荘にプライベートジェット……賄賂を使って贅沢三昧
●地方政府が財政危機に陥れば、年金難民が発生する
●海外へと脱出する日本人が急増
●賃貸市場を敬遠し、マイホームを重視
●「見栄を張る」ことをやめられない
●統制か自由化か、岐路に立つ習近平政権

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