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「時給115万円」の大谷翔平の3倍以上稼ぐクリスティアーノ・ロナウド、一晩で4000万円稼ぐ世界的DJ…インフレが止まらない「アイコン」の経済学

集英社オンライン / 2024年7月11日 11時0分

巨人が「昭和の大企業」だとしたら、大谷翔平は「シリコンバレーの起業家」 契約金総額1015億円はグローバル資本主義がたどり着いた極致か〉から続く

大谷翔平がドジャースと結んだ10年総額1015億円という契約は「アスリート史上最高額」だが、単年でみればアル・ナスルに所属するサッカー選手クリスティアーノ・ロナウドには及ばない。また近年、世界のトップDJたちも年間で数十億円稼ぐそうだ。

【写真】「時給115万円」の大谷もビックリ! 一晩で4000万円以上稼ぐDJ

個人が天文学的な数字を稼ぎだすロジックを、『大谷翔平の社会学』より一部抜粋・再構成し解説する。

大谷翔平よりも稼ぐクリスティアーノ・ロナウド

今日ではNPBの約13倍にもなるMLB選手の平均年俸は、過去40年ほどで高騰した。以下の数字は、1980~2020年におけるMLB選手の推定平均年俸の推移である。



1980年:14万3756ドル(約3248万円)
1990年:57万8930ドル(約8336万円)
2000年:199万8034ドル(約2億130万円)
2010年:301万4572ドル(約2億6226万円)
2020年:389万ドル(約4億1234万円)
※日本円は当時のレートで換算

まさに右肩上がりだ。1980年から2000年にかけての伸びがとりわけ著しいが(約15倍)、2000年から2020年にかけても倍増している。

MLBでは1970年代にFA制度が生まれ、一定の条件を満たした選手は各球団と自由に契約交渉を行えるようになった。

選手は自分を最も高く評価してくれる(最もいい契約をオファーしてくれる)球団と契約できるようになったので、当然、選手の年俸は上がっていく。

また、世界最大のスポーツイベントであるオリンピックが本格的に商業化したのは1984年のロサンゼルス夏季五輪からと言われているが、MLBを含むアメリカ4大スポーツの商業化もこのころから加速したのだろう。

放映権やスポンサーシップ、チケット収入などを最大化するノウハウが蓄積され、大学では「スポーツマネジメント」なる学問が体系的に学べるようになった。

アメリカで「ナショナル・パスタイム(国民的娯楽)」と呼ばれていた野球も、「マネーゲーム」化していった。ウォール街で働いていた金融マンやMBA保持者が次々と球界のフロント入りし、MLBをビジネスとして洗練させていった。その結果、選手の年俸はどんどん上がった。

今日、年収にして数十億円、時に数百億円という大金を稼ぐアスリートは、プロ野球選手だけではない。MLB以外のアメリカ4大スポーツやそれ以外のスポーツでも、今日のトップアスリートはとてつもない大金を稼ぐようになっている。

選手年俸の「インフレ」が凄まじいのはサッカーだ。『フォーブス』が2023年10月に発表した「世界で最も稼ぐサッカー選手ランキング」最新版によると、1位は同年からサウジアラビアのアル・ナスルでプレーするクリスティアーノ・ロナウドで、年間の総収入は驚愕の2億6000万ドル(約389億円)。

内訳を見ると、年俸やクラブの広告料などで2億ドル(約299億円)、ナイキなどとのエンドースメント契約で6000万ドル(約90億円)となっている。

2位はアメリカのインテル・マイアミに所属するリオネル・メッシで、総収入1億3500万ドル(約202億円)。3位はロナウドと同じくサウジアラビアのアル・ヒラルに移籍したネイマールで、総額1億1200万ドル(約168億円)となっている。

大谷がドジャースと結んだ10年総額1015億円という契約は「アスリート史上最高額」と謳われたが、1年あたりの金額に換算すると101億5000万円で、ロナウドの年俸299億円には遠く及ばない。

ロナウドとアル・ナスルの契約は2年半という比較的短いものであるため、総額は大谷よりも少ないが、単年ベースで見るとその差は歴然としている。現在はアメリカでプレーするメッシも2017年に古巣のFCバルセロナと4年約5億5500万ユーロ(約860億円)という契約を結んだが、1年あたりの金額にすると約215億円。やはり単年ベースで見ると大谷の倍以上を稼いでいたことになる。

サッカーのスター選手たちが今日、異次元の高額年俸を稼いでいるのは、サッカーが世界で最も人気のあるグローバルスポーツであり、市場規模が圧倒的に大きいからだろう。

また、2023年はロナウドやネイマールをはじめ、多くのスター選手が超高額年俸でサウジアラビアのクラブに移籍した。世界有数の産油国であるサウジアラビアは、2030年または2034年のワールドカップ招致を狙っているとされ、国を挙げて世界のスター選手をかき集めている。

MLBでは選手の年俸高騰を抑制するため「ぜいたく税」などの規制をリーグ全体で取り入れているが、より自由競争的な選手獲得競争が容認されているサッカー界では選手年俸の高騰に歯止めがかからない。大金持ちのオーナーが「いくらでも払う」と言えば、どこまでも金額が上がっていく。

欧州でプレーしていたスター選手たちが次々とサウジアラビアのクラブと契約しているのは、まさにその結果だ。

ロナウドは世界最高の「インフルエンサー」

毎年、最も活躍したサッカー選手に贈られる「バロンドール」を通算5度受賞しているロナウドは、メッシと並んで21世紀最高のサッカー選手だが、アル・ナスルとの契約時点で37歳。

キャリアのピークはとっくに過ぎたベテラン選手に、なぜアル・ナスルが年間2億ドルもの大金を費やしたかというと、ロナウドは文字通り世界中でその名と顔を知られた超有名人であり、その国際的な広告価値は計り知れないからだ。

ロナウドは世界で何十億人もの人々に認知されているグローバルな「アイコン」であり、所属チームはもちろん、彼が身につけるものや出演する企業広告、日々の言動、その全てに巨大な価値が生まれる。

ロナウドのインスタグラムはフォロワー数約6億2000万人(2024年3月現在)で、個人のアカウントとしては世界で最多。ロナウドは世界最高の「インフルエンサー」なのだ。

さて、野球界のスーパースター大谷はと言うと、インスタグラムのフォロワー数は約790万人。野球選手としては断トツだが、それでもロナウドの80分の1程度にすぎない。サッカーが真のグローバルスポーツであるのに対して、野球人気はかなりローカルであることが改めて理解できる。

それでも、少なくとも日本において大谷は唯一無二の「アイコン」である。ドジャースにとって大谷と契約することは、日本中の注目を集めるアイコンに「LA」のロゴマークを刻印し、日本中の野球ファン(あるいはそうでない人も)をドジャースファンに仕立て上げるようなものだ。

経済的に衰退しているとはいえ、人口1億を超える国で、毎日のように「ドジャーブルー」のユニフォームがテレビに映り、国民の多くを「ドジャー・ネイション」の一員にできるのならば、「総額1015億円」も決して高い買い物ではないのかもしれない。

一晩で4000万円を稼ぐDJ

今日の世界において、国際的なトップアスリートと同じようなポジションにあると思われる職業のひとつが「DJ」である。21世紀に入り、世界で最も売れているDJたちは軽く年収数十億円を稼いでいる。

『フォーブス』は毎年「世界で最も稼ぐスポーツ選手ランキング」を発表しているが、同誌は「世界で最も稼ぐDJランキング」も発表している。

まだコロナ禍前でライブイベントが制限されていなかった2019年のランキングを見ると、1位はニューヨークを拠点に活動するザ・チェインスモーカーズで推定収入は4600万ドル(当時のレートで約50億円)。

2位はいつも白い筒状のマスクで顔を隠している覆面DJ、マシュメロの4000万ドル、3位はスコットランド出身のDJ兼音楽プロデューサーのカルヴィン・ハリスで3800万ドルだった。

彼らの主な収入源は、世界各地でのフェス出演やナイトクラブでのライブパフォーマンスによって得るギャラだ。たとえば同ランキング3位のハリスがラスベガスの大型クラブで一晩DJをするときのギャラは4000万円(!)とも言われる。

「時給115万円」の大谷もビックリの金額だ。

なぜハリスがこれほどの高額ギャラを得られるかというと、それは彼がDJである前に天才的な音楽プロデューサーであり、いわば「現代音楽の申し子」としてアイコン化しているからだ。

ハリスは2010年代に最も売れた「DJ」のひとりだが、もともとは2007年に「シンガー・ソングライター」としてデビューしたミュージシャンである。

彼が有名になったキッカケは音楽系SNSの「My Space」に自身が作ったオリジナル楽曲をアップロードし、その楽曲がインターネット上で好評を得たことだった。

その類いまれなるトラックメイキング能力を買われて、やがてリアーナやNe-Yoといった多くの有名アーティストとコラボするようになったのだ。プライベートでも歌手のテイラー・スウィフトとの交際が報じられるなど、完全に「セレブ」としてのステイタスを確立している。

ハリスに限らず今日、『フォーブス』のランキングに登場するような超人気DJたちは、ほぼ例外なく売れっ子の音楽プロデューサーである。彼らはYouTubeで何億回、何十億回と再生されるような世界的ヒット曲を生み出すことによって時代の寵児となったのだ。

今や現代の音楽シーンを代表するグローバルアイコンであるハリスは、コカ・カーラやペプシなど多くのグローバル企業のキャンペーンに起用されている。過去にはデヴィッド・ベッカムやロナウドらサッカー界のスター選手のものだったエンポリオ・アルマーニの下着ラインの広告塔も担った。

トップDJとトップアスリートの立ち位置がいかに近いか、おわかりいただけるだろう。

ハリスのほかにも、たとえば素顔を出さずに覆面DJとして活動しているマシュメロなど「アイコン」そのものである。マシュメロは「世界で最も稼ぐDJランキング」でハリスを超える2位だが、彼の白い覆面に描かれた愛くるしくも謎めいた「顔」はそのままTシャツやキーホルダーなどグッズのロゴになっている。

マシュメロは覆面をかぶることによって、自らをわかりやすく「アイコン」化してプロデュースしているのだ。


写真/shutterstock

大谷翔平の社会学 (扶桑社新書)

内野宗治
大谷翔平の社会学 (扶桑社新書)
2024/4/24
1,155円(税込)
352ページ
ISBN: 978-4594097400

はじめに
球界のスターを突如襲った初の大スキャンダル/「大谷が結婚市場から消えた!」/「日本の恋人」大谷翔平と「アメリカの恋人」テイラー・スウィフト/

第1章 大谷翔平という「社会現象」
カリフォルニア州の税制にまで影響を与える男/スペイン語のラップに登場した〝Ohtani〟/2021年の日本で最も「流行った」大谷翔平

第2章 日本の「文化的アイコン」そして「神」になった大谷
年間45億円のスポンサー収入/「出すぎた杭」/SNS時代の「映(ば)える男」/「アメリカでの評価」を伝える日本メディア/「大谷教」の信者たち/読売ジャイアンツよりもファンが多い大谷

第3章「1015億円の男」を生んだ現代のグローバル資本主義
大谷の1015億円契約、12年前なら「602億円」/MLBの選手年俸はNPBの13倍/クリスティアーノ・ロナウドの年収は389億円/一晩で4000万円を稼ぐDJ/DJとアスリート、グローバルアイコンの代償/アメリカで「アニメキャラ」になった大谷

第4章 現代日本「三種の神器」、スシ、アニメ、ショーヘイ・オータニ
「なおエ」な日本メディア/スポーツは「代理戦争」/「大人の事情」で夢を絶たれた日本人メジャーリーガー第1号/日本人メジャーリーガー「空白」の30年/日本人メジャーリーガー「続出」の30年/大谷を利用した「スポーツ・ウォッシング」/コロナ禍と大谷フィーバー/大谷の「ヒーローズ・ジャーニー」

第5章 ビデオゲーム化する現代野球と「パワプロ的」な大谷のホームラン
大谷のホームラン映像が持つ中毒性/テクノロジーと現代的な「大谷ウォッチ」スタイル/ただの「娯楽」になった野球/「ビデオ化する野球」を嘆くイチローとダルビッシュ/「自分の育成ゲーム」。パワプロ的な大谷

第6章 2023年のヌートバー旋風から考える「もし大谷が18歳で渡米していたら?」
侍ジャパンの「胡椒」になった男/「侍魂」を持った大谷の相棒/日本では「色物扱い」/もし侍ジャパンが日系選手だらけになったら?/加藤豪将とマイコラスの場合/「日本の息子」になった大谷/日本球界をスルーした田澤純一とできなかった菊池雄星/サラリーマン的な日本球界/「亡命」同然だった日本人選手のMLB移籍/「内向き」な日本球界/「飛び級」を許さない国

第7章 韓国人メジャーリーガーとK-POP 逞しきグローバルマインド
オールスターゲームでの日韓戦/「兵役免除」を懸けて戦う韓国代表/マイナーリーグ経由の「叩き上げ」が多い韓国人メジャーリーガー/韓国のアマチュア選手が即メジャーを目指すワケ/プエルトリコのローカルラジオで聞いたK-POP/サバイバルとしての海外生活/韓国人選手初の「エリートコース」を歩んだ柳賢振/日本球界を「スルー」する韓国人選手たち

第8章 〝Ohtani in the U.S.A.〟リベラル時代の新ヒーロー
アメリカの有名雑誌『GQ』の表紙を飾った大谷/野球界の救世主/アウトサイダー」だからこそ救世主になったのか?/「野球界のユートピア」日本/大谷とは正反対だった〝元祖二刀流〟ベーブ・ルースのキャラクター/リベラルな時代の波に乗った大谷翔平/すでに政治的なメッセージを帯びている大谷

第9章 MLBの日本人差別と、日本球界の「ガイジン」差別
バースと王貞治の本塁打記録/「ジャップにタイトルを獲らせるな!」/「白人至上主義者」の監督に差別された日本人メジャーリーガーたち/「白人用」と「黒人用」に分かれているマイナーリーグのバス/「球団記録」ですらない村上宗隆の56本塁打が騒がれるワケ/スポーツは「性」を連想させる/大谷は「最強のオス」/日本人選手のイメージを刷新した大谷のパワー/「今まで見た中で最も身体能力に恵まれた野球選手」/日本人パワーヒッターの残念な歴史/日本人のパワー不足をハッキリと口にしたダルビッシュ

第10章 アメリカ人記者に「ロボット」呼ばわりされる大谷の「追っかけ」
取材対象としての大谷/MLBの「日本人村」/イチロー取材の「ルール」/メディアは敵?/大谷の「チアリーダー」に徹する日本メディア

第11章 野茂の「980万円」から大谷の「1000億円」まで日本人メジャーリーガーの「時価」変遷

「スポーティングニュース」アメリカ編集部からの依頼/「日本はナメられている」と言ったダルビッシュ/サイ・ヤング賞2度の投手をはるかに上回った山本由伸の契約/
野茂の「980万円」から山本の「463億円」まで 日本人投手の「株価」変遷/
イチローの「15億円」から大谷の「1015億円」まで 日本人打者の「株価」変遷/日本人打者の低評価を覆した大谷


おわりに 「大谷翔平の社会学」ができるまで〜自己紹介に代えて
1986年生まれ、パワプロ育ち/アメリカで体感したイチロー旋風と「日韓戦」/一介のブロガーからMLBの記者席へ/「プロの物書き」としての楽しみと葛藤/「スポーティングニュース」副編集長就任、からの日本脱出/「ダルビッシュから浮気したの?」/社会学者でもスポーツ記者でもないけれど……

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