ワンコインランチとコロナ禍特需で低迷期を脱したケンタッキーの未来は明るいのか? 優良企業を虎視眈々と狙う投資ファンドによる株式売却の絵図
集英社オンライン / 2024年6月5日 8時0分
〈「#ワークマン女子」400店舗出店で逆転ホームラン狙うも客足は軟調…一般衣料市場でワークマンが抱える致命的な弱点とは?〉から続く
三菱商事が「ケンタッキーフライドチキン」を運営する日本KFCホールディングスの持株のうち、約35%を米投資ファンド、カーライル・グループに売却すると発表した。カーライルは20%のプレミアムをのせた6500円で市場の株式を買い取り、非上場化を狙っている。買収総額は1300億円。巨額のM&Aである。ケンタッキーを買収したカーライルは、どんな青写真を描いているのだろうか?
【図を見る】コロナ禍の特需以降も成長を続けるケンタッキーの店舗数と1店舗当たりの平均月商
川上から川下までカバーする優良なビジネスモデル
三菱商事は1970年7月にアメリカのKFCコーポレーションと折半で日本法人を設立した。狙いは多層化した事業を垂直統合することにあった。
三菱商事は1960年代に飼料畜産部を新設していたほか、菱東ブロイラーという会社を設立して鶏肉の生産にも乗り出していた。ブロイラーであれば、鶏は7~8週間ほどで成長し、飼料コストも安い。大量生産するのは簡単だったが、その消費先を確保する必要があった。フライドチキンショップのチェーン化に成功すれば、大量消費が期待できるだけでなく、飼料から畜産、食肉加工、卸、販売までを一貫して行なえる。三菱商事はそれを成し遂げたのだ。
2024年3月末時点のケンタッキーの店舗数は1232。「モスバーガー」の1313店舗に次ぐ規模を誇る。
三菱商事がケンタッキーを売却するのは、資産の入れ替えを進めているからだ。これは三菱商事に限らず大手商社が積極的に推進しているものである。これまでは業績不振の会社を整理するのが常識だった。しかし現在は、一定の投資効率に満たないと判断されるか、ケンタッキーのように少子高齢化などで先細りが懸念されるようなビジネスは切り離されるようになったのだ。
ケンタッキーの足元の業績は好調そのものだ。2024年3月期の売上高は前期比10.8%増の1106億円、営業利益は同61.9%増の58億円だった。営業利益率は5.2%。モスフードサービスの4.5%を上回っている。
実は、ケンタッキーの業績は一時低迷していた。突き抜けるきっかけとなったのが500円ランチだ。クリスマスや誕生日のようなハレの日需要がメインだったケンタッキーが、ワンコインランチを提供することで日常食へと形を変えたのだ。これがヒットする。
ハンバーガーブランドの確立で大量出店の準備
店舗数と1店舗当たりの平均月商の推移を見てみると、平均月商は2017年度まで停滞しているが、2018年度から上向いているのがわかる。2013年度から2017年度までの平均月商は828万5000円。2018年度は前年度比6.7%増の884万7000円だ。500円ランチ効果が通年で寄与した2019年度は10.6%増の979万2000円まで上昇している。
2021年度からはコロナ禍の巣ごもり需要も業績を後押しした。絶妙なタイミングで生み出された500円ランチが、思いもよらないコロナ禍特需の大波に乗り、一気に業績が押し上げられたのだ。2021年度からは毎年30近く店舗数が増加している。
ケンタッキーは中期経営計画にて「エブリデイブランド化」を掲げている。ハンバーガーを充実させることにより、フライドチキンショップからのさらなる脱却を図っているのだ。メニューには豊富な種類のハンバーガーもずらり並んでいる。それらのセットには得意のフライドチキンを加えるなど、他のファーストフード店との差別化ポイントもある。
ハンバーガーショップという側面を持つことにより、出店拡大の素地を高めたのだ。
客単価の引き上げは一巡か
カーライルの企業価値向上に向けての取り組みは3つだ。1つ目は出店戦略の実行、2つ目はメニューの多様化・チャネル拡大による店舗当たり売上の成長加速、3つ目がデジタルの強化だ。
本丸は出店の強化だろう。1店舗当たりの平均月商は上がっており、ケンタッキーの客単価は2023年度に前年度比1割上昇した。ただし、客数は前年度を2.5%下回っている。2024年4月は客単価が前年同月比9.5%上昇し、客数は2割減少した。
値上げが客数減に直結しているのだ。つまり、ケンタッキーがこれ以上客単価を上げるのは危険であり、高止まり水準であると言える。裏を返すと、客単価が高止まりになった状態で現在の平均月商ペースを維持し、出店を加速すれば業績拡大に弾みがつくのだ。
ただし、ケンタッキーはフランチャイズ加盟店が主体。全店舗の7割以上がフランチャイズだ。出店コントロールがしづらいというデメリットがある。
投資ファンドは3年から5年でエグジットの時期を迎える。エグジットとは、持株をIPOや売却によって一部処分することだ。企業価値を高められれば、相応のリターンが得られる。短期間でのエグジットを目論むカーライルは、コントロールがしやすい直営主体の出店戦略も視野に入れているのではないだろうか。
ロッテリアを買収したゼンショーの子会社化もありえるか
カーライルはケンタッキーの買収に1300億円を投じる見込みだ。金額が大きいことから、再上場を狙うのは間違いなさそうだ。
ポイントは再上場を果たした後だ。継続保有した株式を別の会社に譲渡する未来が見えてくる。前例が居酒屋「はなの舞」を運営するチムニーの買収だ。カーライルは2010年にチムニー株に約45%のプレミアムをのせてTOBによる非上場化を行った。チムニーは2012年12月に再上場している。
およそ1年後、カーライルは上場後も保有していたチムニーの株式47.97%を酒販大手・やまやに140億円で売却したのだ。チムニーはカーライルの買収を経て、やまやの連結子会社となっている。
ケンタッキーも再上場後に同様の売却劇が繰り広げられるのではないだろうか。
再上場後のカーライルからの有力な買い手候補として、2社が思い浮かぶ。ゼンショーとコロワイドだ。
ゼンショーは2023年2月に「ロッテリア」を買収した。ハンバーガー市場へと本格参入したのだ。富士経済によると、2023年のハンバーガーの市場規模は9811億円。2024年は1兆418億円まで拡大する見込みだ(「ファーストフードをはじめとする外食市場を調査」)。
牛丼は5000億円ほどで、その半分にも満たない。ハンバーガーは外食企業にとって魅力的な市場なのである。「牛角」などを運営するコロワイドも2016年に「フレッシュネスバーガー」を買収していた。コロワイドは「大戸屋」を買収するなど、日常食への進出を強化している。状況はゼンショーとよく似ているのだ。
番狂わせとなりそうなのが、「鳥貴族」を運営するエターナルホスピタリティグループ(2024年5月1日に鳥貴族ホールディングスから社名変更)だ。
鳥貴族はコロナ禍の2021年8月にハンバーガーショップ「トリキバーガー」の1号店をオープンしていた。鳥貴族は自前で日常食への進出を果たしたのである。しかし、このブランドは苦戦している。まだまだハンバーガーショップ成功の夢は捨てられないはずだ。
本業が焼き鳥業態であることからも、ケンタッキーとのシナジー効果は高そうだ。
ケンタッキーのカーライル買収は、外食企業の未来を大きく変えるポテンシャルを秘めている。
取材・文/不破聡
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