土地の相続でモメてる家は詐欺にあう可能性あり…かつては55億円の被害も発生、地面師たちが狙う相続財産のスキ
集英社オンライン / 2024年6月14日 8時0分
〈相続税において税務署が一番見つけたいのは「名義預金」。「郵便貯金はスルーされる」はウソ…気をつけるべき税務調査のポイント〉から続く
2万件以上の相続を見てきた専門税理士が教える相続の極意。ここでは、誰が相続するのかを家族間とモメている間に降りかかる被害事例について紹介する。
【図】他人事じゃないかも!? 2017年に起きた積水ハウス地面師詐欺事件の構図
『相続は怖い』 (SB新書)から一部抜粋・再構成してお届けする。
「相続登記」、大至急確認を
土地を相続した場合、相続登記をしなければなりません。
実はこの「相続登記」というのは通称で、正確には「相続を原因とする所有権移転登記」となります。
不動産はすべて法務局で行う不動産登記によって、その不動産がどんなものか、どこの誰が所有しているかが記録されています。これら登記の記録がまとめられた台帳を「登記簿」といいますが、現在は電子化されたため「登記記録」とも呼ばれるようになりました。
登記簿は「表題部」と「権利部」の2構成になっています。最初に表題部があり、そのあとに権利部が続きます。権利部はさらに甲区、乙区に分かれます。
相続が発生して、誰がどの不動産を相続するかが決まったら、法務局で不動産の所有権移転登記をしなければなりません。
とはいえこれまでは罰則がなかったため、不動産の名義が何十年も前に亡くなった祖父のままなどの事態が頻発。
そのため現在の所有者がわからないまま放置されている不動産が多く、いわゆる「空き家問題」が浮上して周辺の治安の悪化が懸念されるなど社会問題化するようになりました。
そこで2024年4月から不動産を相続する際の登記が義務化されることになり、不動産を相続したことを知った日の翌日から3年以内に相続登記を行わなければならず、これを怠ると10万円以下の過料が科されます。
相続財産のうち不動産の割合が高く、なおかつ納税資金が不足している場合、相続登記において別の問題が起こる場合があります。
それは、誰がどの不動産を相続するかを巡って折り合いがつかずモメた場合、その隙を突くように「地面師」に狙われて勝手に名義人を書き換えられる可能性が出てくるという問題です。
不動産所有者になりすます「地面師」
地面師とは土地の所有者を装って土地の売却を持ちかけ、売買代金をだまし取る詐欺師のことです。
2017年に起きた積水ハウス地面師詐欺事件のことを覚えていますか?
物件はJR山手線の五反田駅から徒歩3分の「海喜館」という600坪もの面積をもつ元旅館の土地で、80億~100億円の価値があるとされていました。この物件の売却を地面師に持ちかけられ、55億円をだまし取られた事件です。
この土地は駅に近い好立地のため、高層マンションを建てれば確実に需要が見込めるにもかかわらず、所有者が手放そうとしないことで有名な物件でした。
戸建て住宅を主力事業とし、マンション建設に関しては業界大手の後塵を拝していた積水ハウスに、中間業者を通して土地の所有者と名乗る女が売却を持ちかけたのが4月4日のことです。本人確認のためのパスポートと印鑑証明は偽造されたものでした。
詐欺の発覚を恐れて急がす地面師グループに、お宝物件を手に入れたい積水ハウス。両者の思惑が妙なところで一致し、4月24日に売買契約を締結。積水ハウスは手付金を払い、法務局にこの物件の所有権移転の仮登記を行います。
そのあと、本当の所有者であるA氏から積水ハウスにあてて「売買契約はしていないので、仮登記を抹消せよ。さもないと法的手続きを取る」という趣旨の内容証明郵便が届きますが、同社は本人確認を済ませていたことからこの文書を「怪文書」と判断。握りつぶしてしまったのです。
この土地の所有権移転の本登記の申請を法務局が受理したことを確認したのち、同社は残金を支払いました。
犯人は逮捕されたが、55億円は戻ってこなかった
6月6日、法務局から申請書類に添付されていた国民健康保険証のコピーが偽造されたものと判明したとして、登記申請却下の連絡が入ります。
のちに警視庁が地面師グループを摘発。メンバー10人が起訴され有罪判決を受けましたが、積水ハウスが払った55億円は戻ってきませんでした。
他人事ではない地面師事件
だまされたのが一流企業であったことから有名になった積水ハウス地面師詐欺事件ですが、これは決して他人事ではありません。
というのも地面師グループにはリサーチ部隊というものがあり、日ごろから「この土地の名義人はもう亡くなっているだろう」と予想される土地を探し回っているからです。
法務局に行って申し込みをすれば、誰でも登記簿を閲覧することができます。
さらに偽造部隊というものもあり、亡くなった人の名義で偽造パスポートを作ってなりすまし、「私がこの土地の所有者です」と主張して土地を売るというわけです。
特に大きな土地ほど狙われます。
だから相続財産のうち不動産が大きな割合を占めている家ほど、誰が何を取るかなんて内輪モメをしている場合ではないのです。モメている間に地面師に狙われて詐欺事件に巻き込まれないとも限らないのですから。
文/天野隆、税理士法人レガシィ 写真/shutterstock
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