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フィリピンに飛んだ親父が人身売買のブローカーに!? 豪邸には十数名の現地女性たちがいて…「ぼくは『幸せ配達人』なんだよね」

集英社オンライン / 2024年6月9日 19時0分

底辺漫画家がアシスタント時代に気がついた“業界に残り続ける人”の共通点とは 「漫画がずっと好きな人はあんまり残れない」〉から続く

漫画家・谷村ひとし氏のアシスタントを突然クビになった近藤令さん。そこで離婚してフィリピンにいる父を訪ねてみると、そこはハーレムだった!?

【画像】フィリピンで再会した親父は、まさに「変なおじさん」だった

怪しい仕事をしている父親とのエピソードを『底辺漫画家 超ヤバ実話』(青志社)より、一部抜粋、再構成してお届けする。

アロハシャツを着た「変なおじさん」

実は谷村先生のアシスタントをクビになった後に一度、親父とは再会しているんです。そのときも、綾子叔母さんから「お父さんが会いたがってるよ」って聞いて、「え? 親父、生きてるの?」みたいな感じもあって。



しかも、話を聞いたら、フィリピンにいるっていうから、一体そこでなにをしてんだろうって頭が真っ白になった。もう何がなんだか、わからないまま、初めてのフィリピンへ単身で向かったんです。

当時のフィリピンは、あまり治安がよくありませんでした。マニラに限って言えば、今もマカティなど、ごく一部の地域を除き、マニラ全域で十分危険だと言えるでしょう。バックパッカーの一人旅は男性でもお勧めできません。1989年の12月には軍部のクーデターが起きたりして、とりわけ国中が騒然としていた時期です。

まず、空港の税関を出るなり、「な、なんだ、これは!」というムッとするような湿気と高温で、汗がダラダラと流れ落ちてくる。今ではマニラより東京の夏の方が気温が高かったりして話題になったりするけれど、初めてのマニラで思い出すのは、まず熱帯特有の蒸せるような空気ですね。

「ここはもう日本じゃないんだ」という本能が自ずと働く。それに、空港ロビーには見るからに怪しいというか危なっかしい人たちがウジャウジャいる。ちょっとでも気を抜くと、盗難や拉致などの事件に巻き込まれそうな雰囲気で、緊張で身体はガチガチでした。

で、そんな中、空港ロビーでオドオド、キョロキョロしていたら、なにか面影があるような無いような、アロハシャツを着た「変なおじさん」がこっちを見てるんですよ。まさかと思って、近づいたら……まさに、それが親父でした。

「これ、本当に俺の親父か?」

そりゃ、もともと料理人というか水商売の人だったから、多少なりとも怪しい雰囲気は昔からありました。でも、いきなりアロハシャツで、サングラスをかけて、こんがり日に焼けた親父が、久しぶりに目の前に現れたんですから。最初は「これ、本当に俺の親父か?」って、疑いましたよ。

親父の方は、「感動の親子の再会」っていう感じじゃなくて、「いやー、元気だった? ダイスケ、キミはなにしてんのニッポンで?」みたいな、めちゃくちゃ明るいノリでね。

しかも、両脇にボディガードまで付けて、むかし大分県で出会った頃よりも羽振りがいい感じなんですよ。ともあれ、誘われるがまま、車に乗って「マラボン」というエリアにある親父の家まで向かったんです。

マラボンは、フィリピンで最も人口密度が高い場所で、標高の低い平地が多く、高潮、豪雨、川やダムの決壊の際には洪水が起きる、はっきり言うとスラム街です。洪水は深刻で、川岸に住む住民が最も被害を受けるけれど、最近は堤防を越えて人口密集地まで襲うようになっているそうです。

親父も車中で、マニラはどこもかしこも危ないから、現金は靴下の中に入れておくこと、メーターのついてないタクシーにはぼったくられるから絶対乗ってはいけないこと、誰にも気を許さないこと、警官といえども信用してはいけないことなど現地での作法を色々教えてくれました。

「そんな危なかっしい場所によく住んでるよな」と思いつつも、親父の自宅に到着したら腰を抜かしました。刑務所のような塀が周囲を囲む大豪邸がドーンっと目の前に建ってたんです。

玄関の自動ドアが厳かに開いて、車で中に入ると、親父の家というのが、要塞というか「ひばり御殿」みたいに豪華絢爛な造りでね。「ここが、本当に親父の家なの?」って聞いたら、「ふん」とそっけない感じでね。もし、政変とか革命が起こったら、まっさきに地域住民に攻め込まれそうな建物ですよ。しかも、そこが仕事場でもあるっていうんだから、ますますどんな仕事してんだろうって、下世話な好奇心が湧いてきました。

怪しすぎる仕事の正体とは

親父と豪邸に入るや否や、なんだか騒々しいなと即座に感じました。女性の声がやけに響いてくるんですよ。それで邸宅内を歩きまわっていると、とある部屋で、十数名のフィリピン女性たちが音楽にあわせてダンスをしてるんです。

最初は、ダンス教室でもやってんのかなと思って、親父に聞いたら「タレントになれるように調教しているんだ」って。どういうこと? なんで親父がフィリピンで女性タレントを養成してんだろうって。たしかに、大分県では売れない演歌歌手のマネージャーをやっていたけど、冴えない「社長さん」でしかなかった。それで突っ込んできいてみたら、
「この子たちを日本で売るんだよ」っていう。

いや、それって人身売買じゃねぇか!って(笑)。

血を引いた息子のぼくが言うのも変だけど、親父にはもともと倫理観がすこしゆるいところがあったんで心配してたけれど、とうとう犯罪者にまで落ちぶれたか……。

そんな女性たちを人身売買して、こんな豪邸に住んでどうすんだよって憤りながら親父に言うと、「違う、違う。ぼくはね、いわゆるプロモーター業をやってるんだよ。会社の名前は、シカットプロモーション。ここで彼女たちにダンスレッスンをしたあと、日本にあるフィリピンパブで働いてもらうのよ」という。なんだそれは。

要するに、ここで訓練を受けた女性たちには就労ビザが発行され、日本へ行ける。そして、半年間フィリピンパブで働きながら大金を稼ぎ、こっちに帰ってくる。で、稼いだ大金の半額は親父のものになるという仕組み。実は、日本でそういう仕事をするのは法律ギリギリだったんです。

外国の人が日本で働こうと思うと、特定の職業にしか就けない法律があるでしょ? そこは当時のデタラメなところで、グレーゾーンの仕事として認められているという話でした。

女性は本当に「日本でタレントになるんだ」という夢を持ちながらここでレッスンを受ける。日本に着いてから、ダンサーではなく、いわゆる水商売というかキャバクラみたいなところで働くことを初めて知る。だから、騙してるんです、女性たちを。

オーディション審査員は脂ぎったおっさん一人

当然、半年間を待たずに逃げ出す女性もいるけど──それをランナウェイというらしい──ほとんどの女性は半年間、がんばってお金を貯め、それから帰国して、貧しい暮らしをする両親のために豪邸をドカンと建てる。しばらく気楽な時間を過ごし、結婚して子どもを儲け、育児が落ち着いたら、多くの女性が「もう一回、日本に行って稼ぎたい」と言い出すらしい。

そのときに人間ってすごいなって思いましたね。最初は嫌でも、大金が転がり込むとそんなに変わっちゃうんだって。もちろん、「騙された!」って嫌がる女性もいるんでしょうけど、多くは二度目や三度目の日本をめざすんですからね。

それに、親父の家でオーディションみたいなことをやったときもすごいんです。たとえていうと、むかしテレビ番組であった「スター誕生」みたいな感じ。

まぁ、審査員はだいたいフィリピンパブオーナーの脂ぎったおっさん一人なんですけどね。そのおっさんの前で、フィリピン女性が「これでもか!」っていうぐらいアピールをするワケです、露出度の高い水着を着てね。そりゃ、露骨な行為はしませんが、それに近いことはやる。

でも、彼女たちにとって、日本はなんとしてでも行きたい国になっていたんでしょうね。

で、タカログ語で「タタイ」(お父さん)と呼ばれていた親父は、「ダイスケ、わかった? いわばぼくは、『幸せ配達人』なんだよね」なんて、とぼけてやがる。


文/近藤令

底辺漫画家 超ヤバ実話

近藤 令
底辺漫画家 超ヤバ実話
2024年4月20日
1500円+税
256ページ
ISBN: 978-4-86590-172-6
フィリピンパブ生まれ親父は人買いブローカー。ちばてつや賞2回受賞!累計年収2億円超え!?なのに落ちぶれ、カネ借りまくり、結婚しまくり、喧嘩しまくり。月収14万の底辺マンガ家53歳。あなたは、出稼ぎフィリピン女性にお金を借りたことがありますか?涙が出ますよ、嬉し涙じゃなくて、悔し涙ですけどね。(作者より)抱腹絶倒!艱難辛苦!空腹卒倒!四面楚歌!ホントにあった漫画家のハナシ。

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