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円高より「円安」のほうがいいと髙橋洋一が断言する理由 「国内で円安を批判するのは国益に反する行為といえる」

集英社オンライン / 2024年6月10日 16時0分

1ドル150円に到達し、長らく円安基調が続いている日本。世間では円安が日本経済にとって悪いという論調が展開されるが、本当にそうなのか、 と疑問を投げかける経済学者の髙橋洋一氏。その真意とは。

【グラフで見る】「為替競争力と経済成長率の関係」を見れば、「円安」が分かる

『60歳からの知っておくべき経済学』より一部抜粋、再編集してお届けする。

「円高」よりも「円安」のほうがいい

近年、長らく円安基調が続いている。1ドル150円に到達したとき、マスコミは大騒ぎして円安が悪いという論調(悪い円安論)を展開していた。これは世論の不安を煽りたいマスコミの都合なのかもしれないが、こうした言説は経済に対する理解度が不足しているといわざるを得ない。



自国通貨安は「近隣窮乏化政策」といわれている。通常、自国通貨が安くなると、国内産業の国際競争力が向上して輸出が増加する。一方、相手国は逆に国際競争力が低下して輸出が減少し、失業が増えることがある。そのため、自国通貨安は近隣諸国の窮乏につながるという意味で、近隣窮乏化政策と呼ばれているのだ。

もっとも、昨今の円安は日本が不当な為替操作をして、相手国(米国)に不利益をもたらせようと誘導しているわけではない。為替の変動は、あくまで日米両国の中央銀行が、それぞれのインフレ目標に沿って行っている金融政策の結果にすぎないのだ。

円安になれば、輸出主導の大企業は有利になるが、輸入主導の中小企業には不利だ。しかし、全体としてみれば、円安は自国にプラス効果をもたらす。

ここで、散布図の出番だが、縦軸に為替競争力、横軸にGDP成長率を置いて相関係数をみると、0.53と正の相関を示している。また、経済協力開発機構(OECD)の経済モデルでも、円安が10%進むと1~3年以内にGDPが0.4~1.2%増加することが証明されている。

どの国でも輸出依存度にかかわらず、自国通貨安はGDPを押し上げる要因となる。そのため、海外からの批判はまだ理解できるとしても、国内で円安を批判するのは国益に反する行為といえるだろう。

円安のメリットを最も享受しているのは、実は日本政府だ。外国為替相場の安定のために設けられた「外国為替資金特別会計」により、国が海外に保有している「対外純資産」(資産から負債を除いたもの)は、1990年末には44兆円だったが、円安の影響もあって2021年末には411兆円まで増えた。

外貨債を保有する日本は、いわば1~2%程度の「成長ゲタ」を履いている状態であり、円安好況によって、日本政府は最大の利益享受者となったのだ。

マクロ経済的視点の欠如が原因

マスコミはしばしば、マクロ経済的視点を欠いており、ミクロ経済に焦点を当てて「円安は悪い」という印象を操作することがある。

たしかに、輸入比率が高い中小企業にとっては逆風かもしれないが、輸出比率が大きい大企業にとっては追い風であり、これがGDPや税収増に寄与しているのだ。

少しさかのぼるが、円高時代の経済状況がどうだったか、思い出してみてほしい。

2008年のリーマンショック後、先進各国は金融緩和による景気回復を目指した。しかし、当時の日本は民主党政権下で、円高が進行するも金融緩和政策をとらず、これが景気回復の妨げとなった。その結果、日本の経済成長率は低下し、先進国の中でも最低水準となってしまった。

2011年10月末の時点では1ドル75円台、日経平均株価は8988円だった。翌年末に安倍政権が発足、金融緩和政策により円安が進み、2023年12月28日には1ドル144円、日経平均株価は3万3464円に達した。

円高と円安、どちらのほうがいいか、その差は歴然としている。このメカニズムを理解していれば、「円高のほうがいい」という結論には決してならない。

賃金についても同様だ。円高になって実質賃金が低下すると、国内景気が悪化して「失われた20年」といわれるような状況に陥る。賃金を上げる最適な政策は、まずは雇用を増やして、失業率を下げることだ。これによって人手不足が生じて名目賃金が上昇し、その結果、物価も上がり実質賃金も上昇していく。

「貿易」論の正しい理解

為替についての話が進んだので、次に貿易についても簡単に説明しよう。なぜなら、日本では主に三つの誤った貿易に関する考え方が広まっているからだ。

一つめは「日本は貿易立国である」という誤解だ。これは次のページにある、総務省統計局発表の世界主要国の輸出・輸入依存度のデータを比較すればすぐにわかる。日本の輸出依存度も輸入依存度も10%程度で、他の国々と比べて低い。

もしかしたら、シニア層の読者が若いころに学んだときは、一時的に貿易立国だったかもしれないが、現在はそうではない。

こうした誤解が広まったのは、戦後のリベラル教育が影響している。貿易は安全保障と関連して、平和論とも結びつきやすい。おそらくは「各国は貿易・投資で相互依存の関係にあるため、貿易は世界の平和に寄与している」というような考え方だろう。

「輸出=善、輸入=悪」という誤解

二つめは、「貿易黒字のほうが得で、貿易赤字は損である」という誤解だ。

貿易赤字は、輸出よりも輸入が多い状態を指す。したがって、輸入が多いと当然、貿易赤字になる。日本の商社は輸入が多いため、貿易赤字の要因といえる。

だが、輸入を増やしている商社が日本経済に悪影響を及ぼしているかというと、決してそうではない。そう考えると、この論理が不正確だと気づくはずだ。こうした言説は「赤字が悪い」という印象論に基づくもので、「輸出=善、輸入=悪」というそもそもの前提が間違っているのだ。

実際には、世界の半分の国が貿易黒字で、半分が貿易赤字ということになるが、何の問題も起きていない。貿易赤字になれば支払い代金は大きくなるが、借り入れをすれば済んでしまう話だからだ。

上図は、GDPに対する貿易収支の比率を横軸に、経済成長率を縦軸にとって、ある年の200カ国くらいのデータを落とし込んだ散布図だ。もし縦軸と横軸に相関があれば、右肩上がりにドットが集まるが、ここでは散在していることがわかる。つまり、両者には相関性がないということだ。

したがって、貿易収支が赤字でも黒字でも、経済成長率には何ら関係ないといえる。

三つめは、「自由貿易で損をする」というウソだ。自由貿易は、原則として関税を撤廃して輸出入を行う協定を指す。2018年に署名された環太平洋経済連携協定(TPP)がその一例だ。TPPにはオーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、日本、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、ベトナムの合計11カ国が加盟している(米国は2017年に離脱)。

自由貿易協定の締結によって、輸出業者と消費者はメリットを享受できる。その一方で、輸入業者と国内生産者はデメリットを被るため、反対の声もある。しかし、貿易自由化における経済学的観点からは、メリットがデメリットを上回ると考えられている。

下図のように、自由貿易締結によって、増加する消費者の利益(消費者余剰台形①)は、減少する国内生産者の利益(生産者余剰台形②)よりも、三角形③の分だけ大きくなる。もっとも、これは消費者から生産者への利益の再分配を前提としており、後者への配慮が必要なことは言うまでもない。

また、当時の内閣府の試算でも、TPP締結によって「おおむね10年間で実質GDPが3兆円増加する」とされていた。

TPP反対派が最も心配していたのは、米国に有利な貿易を強いられることであり、その代表例が協定に盛り込まれたISD条項(国家対投資家の紛争処理事項)だった。

たしかに、世界ではこの条項に基づく訴訟が多発しているが、訴えられる国々は国内法制が整っていない途上国が主だ。またISD条項は、投資家や企業が国外で投資を行う際に、相手国から不平等な扱いを受けないようにするための決め事であるため、少なくとも日本のような先進国には有利に機能する。


文/髙橋洋一

60歳からの知っておくべき経済学

髙橋洋一
60歳からの知っておくべき経済学
2024年4月24日
990円(税込)
新書判 224ページ
ISBN: 978-4594097301
「人生100年時代」が本格的に訪れる中で、高齢者たちがセカンドライフをより充実させるために、積極的に「学び直し」をする動きが広がっている。
向上心のある高齢者にとって、特に役立つ学問の一つが「経済学」だ。なぜなら、経済学を学ぶことで自分の生活で起こっている事象をより深く理解し、物事を捉える視点が大きく変わるからだ。
現代社会では玉石混淆の情報が溢れていて、老後の豊かな生活を送るためにはどうすればいいのか、という問いに対する答えを探すのは容易ではない。そのため、物事を定量的に捉え、理性的に考えることが必要だ。
本書を読むことで、大人として知っていて当然の経済の仕組みを学び直し、孫にも得意げに教えることができるくらい、理解度が深まれば幸いである。

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