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〈7年で約9倍〉「この子は目が見えない」「立てない子も」老“犬”ホーム需要急増の背景に飼育犬と飼い主の「ダブル高齢化」ホームの費用は?ペット信託とは?

集英社オンライン / 2024年6月17日 8時0分

人間でいう老人ホームのように、高齢になったペットを預かり世話をする介護施設「老犬ホーム」の需要が、いま高まりを見せている。この施設を通じて、年老いた犬を飼うことの難しさと課題を探りたい。

〈画像多数〉人間でいう老人ホームのように高齢になったペットを預かり世話をする介護施設「老犬ホーム」の需要が、いま高まりを見せている。この施設を通じて、年老いた犬を飼うことの難しさや課題を探りたい。

いまや、飼育犬の56%は高齢期に

環境省がまとめた資料によれば、2013年には20施設だった譲受飼養業者(動物を引き取って飼育する業者などのこと)の登録件数が、2020年には178施設に急増。現在は200施設を超えているといわれる。老犬ホームもその譲受飼養業者のひとつだ。



老犬ホームの需要がなぜ今、高まっているのか。背景にはペットの高齢化がある。

ペットの保険やネットサービスを手掛けるアニコムがまとめた「家庭どうぶつ白書2023」によると、犬の平均寿命は2009年度が13.1歳だったのに対して、2021年度は14.2歳と年々延びている。

また、一般社団法人ペットフード協会の「令和5年 全国犬猫飼育実態調査」によると、7歳以上の高齢期の犬は実に56%にも上っているというのだ。

東京都目黒区にある「THEケネルズ東京」。この施設では、ペットホテルの他に老犬ホームを手掛けている。ここで老犬ケアの責任者を務めているのが、板橋かおりさん(38)だ。

筆者がこの施設を訪れたのは5月下旬のこと。1階の入り口を入ると受付があり、地下1階と2階にはペットホテル、3階が老犬を預かるケアルームだ。

さっそく3階をのぞいてみると、ちょうど柴犬の小次郎くんの昼食タイムだった。小次郎くんを抱えながらケアスタッフがスプーンで食事を口の中に運んでいる。

小次郎くんはもうすぐ19歳。人間の年齢にたとえると現在88歳という高齢だ。自力で歩くことができず、移動の際は車椅子を使う。スタッフから「こじ」の愛称でかわいがられていた。食欲旺盛な小次郎くんだが、食事中、虚ろな目をしていたのが印象的だった。

「この子は目が見えていないんです」

そう言いながらスタッフが小次郎くんに昼食を与えていると、そこにゆっくりとした足取りで近づいてきたのは、ラブラドール・レトリーバーの銀時くん、14歳だ。ラブラドールの平均寿命は12歳前後と言われており、銀時くんは人間に換算すると100歳を超えている。

そんな銀時くんは糖尿病を患っており、インスリン注射による治療をうけている。そのため現在は食事制限中。ご馳走にありつけるのは1日に2回までと決まっているそうだ。

筆者やカメラマンにすり寄ってくる銀時くんは人なつっこい性格で、食事中の小次郎くんをうらやましそうに見つめる姿が愛らしい。

「銀ちゃんは、補助してあげると階段ものぼれるんですよ」(同)

足元がフラフラとおぼつかないものの、人間の100歳と思えば、まだまだ元気といえるだろう。

飼い主が飼育に疲れ、老犬ホームを利用するケースも

板橋さんがペット業界に入ったのは約18年前。もともとは犬のトレーナーだった。トレーナーをしながら老犬介護にも長く携わってきたといい、その後、動物病院で働いたこともある。自らも柴犬を飼っている愛犬家だ。

そんな板橋さんでさえ、老犬ホームの仕事は大変だと感じることが多いという。

「立てない子もいるので、そうした子のお世話するのは体力的にキツイし、夜勤もあるので楽ではないです」

3階のケアルームには7つの部屋が設置されている。それぞれにカメラがついており、別室で犬の様子を管理できる。

「老犬ホームを利用される方の事情はさまざまです。例えば、犬の夜鳴きがひどいとか、てんかんの発作を起こしてしまうなどの理由で、飼い主様自身が夜通し眠れない日々が続いてしまうということが多いです」(同)

ケアルーム内で夜鳴きがひどいと、周囲の犬が眠れなくなるのではないかと心配したが、「老犬は耳が遠くなっている子がほとんどなので、今のところ大丈夫です」(同)とのことだった。

現在、THEケネルズ東京のスタッフは、パートなどを含めて17名。そのうち、老犬を預かるケアルームでは4名のスタッフが中心となって、8名程度で24時間交代で犬の介護にあたっているという。この老犬ホームを利用する飼い主は、40代から高齢の方までさまざまだ。

「もともと創業者が老犬を飼っていたのですが、仕事の都合で犬を預けようと思っても、老犬だと断られてしまう施設が多いと困っていたんです。そこで、老犬でも安心して預けられる施設が必要だと考え、2018年11月にTHEケネルズ東京をオープンさせたのがきっかけです」

そう話すのは、この施設の責任者の池貝英司さん(58)だ。この施設ではオープン以来、35~40頭の老犬を預かってきた。老犬ホームは、通常のペットホテル以上に、きめ細やかなケアが必要である。持病を抱える犬も多いからだ。

「うちでは、過去に動物病院で看護経験がある方を中心に採用しています」

そう池貝さんが言うように、老犬ホームのスタッフには看護や介護の専門的な知識が求められている。

老犬ホームの費用は6ヶ月72万円~

そうしたこともあり老犬ホームにかかる費用は決して安くない。

THEケネルズ東京では、6ヶ月ごとの契約で預けた場合、7キロまでの小型犬で72万円、8キロから15キロまでの中型犬で90万円、16キロから30キロまでの大型犬で108万円 の費用がかかる。

さらに「軽度」「中度」「重度」の3段階の介護度によってプラスの料金が加算され、大型犬の重度の場合は72万円が基本料金に上乗せされる。

介護度によって料金が変わるのは、まるで人間の介護保険制度のようだ。しかし、犬の場合は元気で手のかかる介護犬よりも、老齢の犬の方が 大人しくて手がかからないケースもある。

その場合は「中度」あるいは「軽度」にランク付けされるというのが、人間の介護保険制度と異なる点だろう。

また、ペットの世界には介護保険制度が整備されていないため、民間の企業などがペットの医療や介護に関連する保険の役割を担っているのが現状だ。

「例えば、飼い主が亡くなった後、ペットを老犬ホームに預けるための費用を補償する商品を損害保険会社が作ったり、行政書士さんがペット信託を商品にしているケースもあります」(同)

ペット信託とは、飼い主が亡くなったときや、ペットの世話ができなくなったとき、信託制度を利用してペットにかかる費用を賄う商品だ。ペットは飼い主の遺産を相続できないため、「信託」という制度を使うことで、遺産をペットに使うことができる。

例えば自分の遺産を、老犬ホームの入居費、生活費、医療費、ケア費などに充てることを信託費用に設定しておけば、飼い主の死後もペットを老犬ホームが介護してくれるというわけだ。

将来、そのペットが亡くなった後は、残金を法定相続人に相続させることもできるし、動物愛護団体に寄付することもできる。

このように、老犬ホームの周辺では、さまざまな民間ビジネスが生まれている現状がある。

ただし、人間の介護保険制度に比べて、ペットを取り巻く業界は、まだまだ法制度が整備されていないのが実情だ。

こうしたビジネスが加速する背景には、ペットだけでなく、飼い主も高齢化している事情が大きい。

後編では動物と人間の間にも広がる老老介護問題と、預けられた犬の最後を看取る老犬ホームスタッフの心境について聞いた。

取材・文/甚野博則
集英社オンライン編集部ニュース班
撮影/Soichiro Koriyama

〈約20%の飼い主が60代以上〉人間と愛犬の間にもある深刻な“老老介護”問題「この子はがんばったね」老犬ホームスタッフが語る高齢犬の“お見送り”〉へ続く

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