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〈約20%の飼い主が60代以上〉人間と愛犬の間にもある深刻な“老老介護”問題「この子はがんばったね」老犬ホームスタッフが語る高齢犬の“お見送り”

集英社オンライン / 2024年6月17日 8時0分

〈7年で約9倍〉「この子は目が見えない」「立てない子も」老“犬”ホーム需要急増の背景に飼育犬と飼い主の「ダブル高齢化」ホームの費用は?ペット信託とは?〉から続く

「葬儀のときに涙する私たちを見て、逆に飼い主さんから慰められたこともありました」。そう話すのは、都内の老犬ホームで働く板橋かおりさん(38)だ。前編に続き、人間社会同様、深刻な問題となっている動物と人間の老老介護と、老犬ホームスタッフが語る、“飼い犬”たちとの別れの瞬間について聞いた。

〈写真で見る老犬ホームの実情〉盲目の柴犬の飼育など、スタッフは昼夜問わず奮闘

非常に低い老犬ホームの認知度

老老介護――。人間社会では、高齢者同士が互いに介護状態で生活を送らざるを得ない現状が社会問題と化している。その裏では、高齢の飼い主と高齢のペットがともに生活を送らざるを得ない、動物と人間の老老介護問題も深刻だ。



一般社団法人ペットフード協会の「令和5年 全国犬猫飼育実態調査」で犬の飼育状況を年代別に見てみると、2023年は60代の飼い主が10.9%、70代が8.2%もいることがわかる。

また、こうした高齢の飼い主が、老犬・老猫ホームという施設の存在をあまり認知していないというデータもある。

男女別に見ると、老犬・老猫ホームを認知している男性は60代でわずか2.3%、70代では6.9%、女性は60代が22.9%、70代は5.6%と、認知度は決して高いとはいえないのが現状だ。

そのため、実際に老犬・老猫ホームを利用している60~70代の男性は0%、女性は60代が0.8%、70代は0%と極めて低い。ペットとの老老介護の問題を改善するには、まず老犬ホームの存在を高齢者に広く認知してもらうことも必要だろう。

「ペットホテルには気軽に預けることができます。例えば『これからハワイに行くから、お姉さんと楽しく留守番しててね』というように明るい気持ちで利用される方が多いです。

一方で老犬ホームに預けるとなると、『長期で離れて暮らすことになるので』と、明るい気持ちになれないこともあります」(老犬ホームも手がける施設「THEケネルズ東京」責任者、池貝英司さん)

「延命はしなくてもいいです」という飼い主も

たしかに老犬ホームに預けるというと、どこか後ろめたい気持ちを持つ人もいるだろう。だが、それでも老犬ホームに預けなければならない事情を抱える高齢者が多いのだ。
 

「飼い主様がご高齢になり、お散歩やご飯などこれ以上、満足のいくお世話をしてあげられないと思って仕方なく預ける方や、ご自身が老人ホームなどの施設に入ることが決まって犬が飼えなくなってしまった方もいらっしゃいました。

そういう方でも、うちの老犬ホームでは面会ができますので、週に1回会いにくる方もいらっしゃいます」(同)

この施設では、老犬ホームを利用する際、スタッフと飼い主との間で面談が行なわれる。今後ペットをどうしたいのかという意向を、しっかりと聞き取っているそうだ。

「例えば発作が起きたとき、すぐに救急病院に連れて行って心肺蘇生まで行ないたいかどうかなどをうかがいます。すると『老犬ですので延命はしなくてもいいです。自然に任せてください』とおっしゃる方も多いんです。

18歳くらいの子は、万が一のことがあるというお話はしますが、飼い主の方もある程度覚悟をされていて、『ここまでがんばってくれたんだから』とおっしゃる方が多いですね」(「THEケネルズ東京」の老犬ホームで働く板橋かおりさん)

ペットホテルや動物病院のような一時的な預かりに比べ、老犬ホームはペットと長期に渡って関わりを持つことになる。スタッフは自分が飼い主になったようにペットと向き合うだけに、“万が一”の話をするのは辛いという。

老犬ホームは犬のためだけではない

「みんな亡くなり方はそれぞれです。例えばある日、急に発作を起こしてしまった子がいました。その日、飼い主様は伊豆に旅行に行かれていたんですけど急いで戻って来られて、到着してから息を引き取ったことがありました。この子は飼い主様を待ってたんだなって思いました」(同)

亡くなる犬を目の当たりにすることは「スタッフたちにとっても心が痛みます」と板橋さんは話す。

「私たちももうひとつの我が家として接していますので、飼い主さんと一緒に『この子はがんばったね』と言って見送ることがほとんです。最期は笑顔で見送ってあげられるようにと、いつも思っています」

ただ実際には、施設で亡くなるよりも自宅で看取られる犬のほうが圧倒的に多いという。人間と同様に「最期は自宅で」と願う飼い主が多いからだ。

スタッフは、葬儀に参列することもある。飼い主と一緒に泣き、ともに思い出を語り合う時間は、悲しみを和らげ、犬の生涯を偲ぶ大切なひとときだ。

そんな板橋さんに、老犬ホームの役割について改めて聞くと、しばらく考えながらこう話した。

「老犬ホームって、犬のためにももちろん必要ですけど、飼い主さんのQOL(Quality of Life=生活の質)を上げるためにも大切な場所だと思っています。
そこをお手伝いして、最期まで仲良く犬と過ごしてもらいたい。そのためにももっと老犬ホームのことを広く知ってほしいと思います」

取材・文/甚野博則
集英社オンライン編集部ニュース班
撮影/Soichiro Koriyama

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