〈“岸田おろし”の総裁選へ突入〉岸田首相、幻となった早期解散戦略のウラに「茂木幹事長」と「公明党」。小泉、石破、河野「小石河」3氏を横目に急浮上した新総裁候補の名前
集英社オンライン / 2024年6月8日 8時0分
政権の支持率が低迷するなか、岸田文雄首相は9月の自民党総裁選で総理総裁の座から引きずり降ろされる前に衆議院を解散することを模索していたが、ついに解散断念へと追い込まれた。永田町では岸田首相を追い詰めたのは自民党ナンバー2である茂木敏充幹事長で、トドメを刺したのは公明党だと言われている。自民党内からも公然と岸田首相への批判が飛び交い、「岸田おろし」に向けた政局は日に日に激しさを増している。
岸田首相の独断専行で力を削がれた茂木氏が批判を展開
「岸田じゃ選挙は戦えない」
「岸田には解散させない」
周囲にそう吹聴して岸田批判を繰り返していたのは、自民党ナンバー2である茂木幹事長だった。
本来ならば二人三脚で協力しなければいけない2人の関係悪化を決定づけたのは、裏金問題を受けて岸田首相が独断専行で実施した岸田派(宏池会)の解散だ。
茂木氏は茂木派(平成研究会)を率いており、その支援のもとで将来は総理総裁を目指すことを目論んでいたのだが、自民党全体に派閥解散の動きが広がり、茂木派も政治団体を解消し、グループに移行。
その過程においては、それまで派内で対立してきた小渕優子選対委員長などが退会し、茂木氏の力は削がれる形になった。
こうしたなか、岸田政権の低支持率や4月の衆院3補選惨敗を背景に、茂木氏は「岸田で解散したら自公で過半数を割る」などと批判を展開。
さらに5月の静岡県知事選では、自民党静岡県連が推してきた候補者の劣勢が事前の情勢調査で明らかになっているにもかかわらず党本部推薦を進め、最終的に敗北して岸田首相は連敗を重ねる結果となった。
「裏金問題で自民党に大逆風が吹き、与党系候補が劣勢なのに茂木氏が思い切って推薦を決めたのは、勝てる見込みがあったというよりも、”岸田首相のもとでなら負けてもいい、むしろ、負けたほうが岸田首相を追い詰めることができる”と考えていたのではないか」(永田町関係者)
実際に、岸田首相は連敗を重ねたことにより衆議院の解散を見送り、低支持率のまま総裁選に突っ込んでいくことを余儀なくされている。
公明にとっても厳しい選挙戦の予想
追い詰められた岸田首相をさらに揺さぶったのは公明党だ。
政治資金規正法の改正案を巡っては、自民が主張した政治資金パーティーのパーティー券購入者の公開基準「10万円超」が甘すぎるとして、公明が共同提出から離脱。
自民は譲歩案として法案を3年後に見直す規定を盛り込んだが、公明の山口那津男代表がBS11の番組で修正が不十分だと主張、改めて公明が当初出していた「5万円超」の案を取り入れるよう求めた。
その結果、最後は岸田首相が山口代表と直接会談し、自民が全面的に折れる形で「5万円超」を受け入れるに至った。
このように、与党内の協議ですら混迷を極めた理由について、公明党周辺は「自民が裏金問題で大逆風を受けるなか、公明としては同じ穴のムジナと思われないよう、絶妙な距離感が求められていた。さらに4月中旬からは公明内で自民とのパイプ役を担ってきた高木陽介政調会長が病気のため入院。調整役不在で修正協議が二転三転してしまった」と分析する。
その公明も岸田首相による早期解散には猛反対していた。なぜなら、次期衆院選は公明の今後を左右する重要な選挙であるからだ。
公明はこれまで大阪府内で日本維新の会と選挙協力を行ない、4つの小選挙区で勝ち上がってきたが、昨年の統一地方選で地方議員数を増やした維新が態度を一変させ、選挙協力を解消し公明の選挙区にも候補者を立ててきた。
公明は大阪で議席を減らすことが確実視されたため、代わりに埼玉、東京、愛知の小選挙区で新たに候補者を擁立し、それを自民が推薦することで合意。
しかし、次期代表と目される石井啓一幹事長が埼玉14区で苦戦するとの情報もあり、公明にとっては厳しい選挙戦になることがすでに予想されている。
公明としては少しでも政権の支持率が高いときに解散して、なんとか党勢の縮小を食い止めたいと考えているため、岸田首相が自分の都合を優先して低支持率のまま選挙に突っ込んでいくのは到底認められないわけだ。
こうした公明党の意向に最後は押し切られるような形で、岸田首相の早期解散戦略は幻となって消えてしまったと言えるだろう。
それでも総裁選に出馬する気満々の岸田首相
そうなると、次に注目されるのは9月の自民党総裁選だ。
衆議院議員の任期満了が2025年10月であるため、1年以内に衆院選が迫るなか、誰をトップにするのかが自民党内で問われることになる。
次の総裁候補をめぐっては、小泉進次郎、石破茂、河野太郎3氏の「小石河」や新たに勉強会を立ち上げた高市早苗氏なども注目されているが、ここにきて浮上してきているのが加藤勝信前厚労相だ。
6日夜には都内の日本料理店に菅義偉前首相、加藤氏、小泉進次郎氏、武田良太氏、萩生田光一氏が集まり顔を合わせた。
菅グループと、武田氏が事務総長を務めてきた二階派は岸田政権における非主流派で、萩生田氏などが率いてきた安倍派は裏金問題で大ダメージを受けているわけだが、政権運営から外れた面々が集まり「岸田おろし」を画策しているのではないかとも見られている。
そして、そうした面々に担がれるかもしれないのが加藤氏というわけだ。
加藤氏は茂木派だが、茂木氏とは総理総裁を目指すライバル関係にあり、仮に出馬となれば、茂木派から退会した反茂木の面々も加藤氏側につくと見られる。
「茂木氏は今もグループのトップであることを武器に総裁選に出馬するタイミングを伺っているが、自民党内でも『人望がない』と評判で、岸田氏に代わって総理になったとしても支持率が上がる展望が描けない。
また、高市氏や『小石河』は我が強く、衆目が一致する候補にはなりにくい。一方で加藤氏は地味ではあるが、安定した実務能力があると評判で、非主流派が集まって担ぐにはちょうどいいのではないか」(永田町関係者)
一方の岸田首相だが、官邸周辺によると「本人は総裁選に出馬する気満々で、再選した後にどんな政策を実行すべきか考え始めている」という。
しかし、政治は一寸先は闇だ。支持率回復の展望が開けない今、今後の政局によっては退陣を余儀なくされる可能性もあり、「その場合には同じ岸田派の上川陽子外相を担いで禅譲するような形を取るのではないか」(永田町関係者)とも言われている。
「増税メガネ」に裏金問題が重なり、逆風を押しのけることができない今に至る岸田政権。自民党もこれまでにないほどの大逆風を受けているだけに、単に人気者をトップに据えるような小手先の対応では、この苦境を打開することはできないだろう。
文字どおり党をゼロから再生させるような新たなリーダーを立てることができるのかどうか、今、自民党が問われている。
取材・文/宮原健太
集英社オンライン編集部ニュース班
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