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「親うるさい」「低学力」といった生徒の個人情報記載の資料が札幌の市立中学から流出で大炎上。現役教師たちは「どこの学校でも作っている」でも…「置き忘れたのはありえない」  

集英社オンライン / 2024年6月8日 9時0分

4月に札幌市の市立中学校で教員が生徒の個人情報が記載された資料を一時紛失した問題。市教委は5月24日の記者会見では「学校外への流出やSNSなどでの拡散は確認されていない」と説明していたが、6月5日、SNS上にその資料とされる画像が流出していることがわかり、ネットでは大炎上。この個人情報記載の資料流出問題を、現役教師たちはどう見たか。

引継ぎ資料で教師たちがよく見かけ、注意する内容とは…

投稿や報道を見て「ゾッとしました」

ことの発端は4月10日のことだった。札幌市内の市立中学校の体育館で行なわれた学年集会で、中学1年生のクラスを担当する女性教員が資料をはさんだファイルを体育館のステージ脇の演台に置き忘れた。

資料には1年生267人分の氏名、性別、学習の状況や友人関係、家族状況、病気、障害などを含む生徒の“個人情報”が細かに記載され、さらには「低学力」「ちょろすけ」「父親うるさい」といった一部の生徒を中傷するような表現もあった。

女性教員は数日後にファイルの紛失に気づき、同僚教師らと捜索するも見つからず、4月18日に体育館の舞台袖から発見された。

その後、市教委は4月25日付で「学校外への流出やSNSなどでの拡散は確認されていない」と公表していたが、6月5日に有名インフルエンサーのSNS上で女性教員が紛失したとされる資料3点の画像が投稿された。ITライターは言う。

「ファイルは複数人の生徒が閲覧した後にスマホで撮影され、その画像が次々と生徒間に出回った後、何らかのルートでインフルエンサーの元に渡ったようです。

SNS上ではこの資料とされる3枚の画像が6月5日15時44分に投稿され、同日22時時点で1500万回以上の閲覧数に上り、6月6日13時に削除されました。ですがすでに複数の“魚拓”がとられており、この画像を完全にネット上から消すことは難しいでしょう」

この一連の投稿や報道を見て「ゾッとしました」と答えたのは埼玉県の公立小学校教師のAさん(38)だ。

「もし自分が流出させてしまったらと思うと想像を絶します。この資料は主に“引き継ぎ資料”などと呼ばれているもので、生徒の現況把握や生徒と接する上で重要な情報をまとめたものです。公立の小中高では必ず作成するもので、クラス替えには欠かせない資料。

一部報道では生徒の行動や特性について『中傷のような内容』と書かれていましたが、生徒が安全に学校生活を送るため、かつ保護者とスムーズにやり取りするための申し送り事項なので、決して教師が中傷目的だけで書いたものではないと思います。

私の職場ではふだんは職員室の耐火書庫に保管されており、職員室外に持ち出しは不可です。扱いには細心の注意を払うものだからこそ、今回の紛失事件の顛末は肝を冷やす思いで見ていました」

では、この引き継ぎ資料、具体的にどのような内容となっているのか。

「今回の流出資料は右から順に『親配慮』といった情報や担任のコメントが書かれていましたが、書き方は学校によっても違い、先生の癖も出ます。

私の学校では1年生から5年生は一番左側に『名前』、真ん中に『運動』『学力』『リーダーシップ』『社交性』などの項目ごとに◯か△で評価する欄があり、一番右に備考欄としてアレルギーの有無や『ケンカっ早い』といった要注意事項や、『◯君と同じクラスにしないほうがいい』などのクラス編成に関係する内容を書きます。保護者の性格などを記すこともあります」

「親の気質や家庭環境のことを記す必要性はある」

都内の公立小学校教師のBさん(39)は「“引き継ぎ資料”は基本的に事実に基づいた内容しか記載しません」と語った。

流出した資料には「父親うるさい」などとも書かれており「ただの文句では?」と問うと、Bさんは「親の気質や家庭環境のことを記す必要性はある」と説明した。

「家庭環境を書く必要がある理由は、その影響で提出物が出せなかったり、持ち物の準備ができなかったりする子どももいるからです。例えば、シングルマザーの家庭の子には不用意に父親の話をしないように配慮もします。

また、家庭によってニーズがさまざまで『ちょっとしたことでも必ず連絡してください』という家庭もあれば、逆に『そんなことで連絡してこないで』という家庭もあるからです」

かつて問題児童が多い中学校で教員の経験があるCさん(39)は親に関してのこんな書き込みを目にしたという。

「『母親がシングル。1月、2月と母は家を空けることが多く祖母宅から通学していた』といった記述や『家に母親の交際相手らしき人物が長く同居。その後、母親はその方との間の子供を出産』との書き込みも見ました。

教師としては子どもの通学ルートを把握するのは大事なので、自宅ではないところから通学しているのであれば、それは必要な情報です。また、母親の交際相手がどんな人物であるかや、子どもが生まれた後の精神的ケアが必要な場合もあるのですべて重要事項といえます」

Cさんはこうも続ける。

「今回、流出した資料は一般の方が見たら中傷にしか見えないかもしれませんが、教師の立場としては、よく見る内容だなという印象です。例えば流出資料内に『鼻をほじって不潔』などの記述もありましたが、これも潔癖な生徒と席順を隣同士にしないなどの配慮のためにも必要です」

「LGBTQ傾向」と記載するのはトイレや宿泊学習での対応のため?

前出のBさんも同じ意見だった。

「流出資料内に『LGBTQ』との記載があったことについて、Xでは『LGBTQって書いてあるけど診断されてるの?』『決めつけだろ』という意見もありましたが、診断がなかったとしても、教師の視点の注意事項としては引き継ぐべき内容です。LGBTQ傾向の子供はトイレや宿泊学習時の配慮も必要ですから」

また、流出した資料には子どもの発達面に関する記述があった。これについてネット上では「生徒への中傷だ」などの声が多くあがっていた。都内中学教師Dさん(43)の学校では「ADHD」などの特徴は明記せず「もっている」などと書くことが多いという。

「私がかつて受け持っていた女子生徒は医者からADHD診断をされていたので『もっている。勉強が苦手。授業中に空気を読まず発言してしまう』などと記載しました。また、親もちょっと対応に注意が必要な方だったので『親要注意。長文メールが来る』と具体例を書いたことがあります」

生徒の生死に関わる事項が書かれることも…

取材に答えた教師たちからは“引き継ぎ資料”の中身について一定の共感や擁護の声がほとんどだったが、体育館に持ち出した上に置き忘れたことについては「ありえない」と口をそろえた。教師たちはふだんこういった資料をどう扱っているのだろうか。

「私の学校では、流出を防ぐために、データで共有するか、印刷したら会議後すぐにシュレッターにかけています。基本的に持ち歩くものではないです」(Aさん)

「校長室にある耐火書庫に入れて保管しており、鍵を開けた教員の名前や持ち出し日、返却日を書くような仕組みになっています」(Bさん)

「紙に書くのが怖いから、指紋認証しないと開けないiPadに情報を書き込んでいます」(Cさん)

都内の小学校のスクールカウンセラーや高校の非常勤講師として勤務歴のある50代の公認心理士のEさんは「引き継ぎ資料には生徒の生死にも関わる事項が書かれることも多々ある」と話す。Eさんは高校の非常勤講師として勤めていた時に、同僚の教師からこんな相談を受けた。

「公立の小中高には特別支援コーディネーターという生徒のケースカンファレンスを行なう先生がおり、その方から『ある女生徒が希死念慮を訴えており、学校の屋上から飛び降りるなどと言っている。

どう対応したらいいか』と引き継ぎ資料を見せられながら相談されたことがあります。引き継ぎ資料は子どもを守る上で大事なものです」

それならば今回のような流出が二度とないように学校関係者には重々気をつけてほしいものだ。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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