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美容室が過去最多ペースで倒産、もう技術だけではやっていけない時代に…チェーン店は労働環境改善に取り組むも、個人経営店の行く末は…

集英社オンライン / 2024年6月13日 17時0分

今年に入り、美容室の倒産が増加している。その背景には美容師が独立を目指す際の知識不足や、長年にわたって問題視されてきた美容師の労働環境が影響しているようだ。そこで美容室の開業支援相談を行なう、なかしま税務労務事務所の税理士・中嶋政雄氏に話を聞いた。

【画像】現在の美容室業界で欠かせないSNS戦略

美容室倒産の最大の理由は開業準備不足

東京商工リサーチの調べによると、美容室の倒産数が急増しているという。

2024年1月から4月の間に美容室の倒産件数が全国で46件に達し、前年同期と比べて48.3%増加。現在のペースが続くと、年間でもこの10年間で最多だった2019年(105件)を上回る可能性が高い。

コロナ5類移行後は来店客数も徐々に回復していたが、水道光熱費、美容資材の価格高騰や人件費上昇が収益を圧迫し、倒産が増勢に転じていると東京商工リサーチは分析している。

「美容師の雇用形態は大きく分けて、サロンに所属する直接雇用と、フリーランスの業務委託があります。報酬を提示してスタッフを募集する業務委託サロンでは、フリーランスの美容師を引き寄せるために高い歩合率や好条件を広告に載せることが多く、その結果全体的に人件費が高くなります。そのためより高い売上が必要になり、経営が厳しくなってしまうのです。

一方、雇用サロンではそうした高い給料ではなく安定した労働条件の募集が多く、もらえるお金の多さに惹かれて業務委託サロンに人材が流れてしまうことで人材不足に陥ってしまう傾向があります」

雇用型サロンと業務委託型サロン、どちらも苦しい事情があるようだ。

しかし美容室の倒産が増加する理由としては、他にも大きな要因があると中嶋氏は分析する。それは独立・開業・経営に対する美容師の知識不足だ。

「多くの美容師は、経営の知識を得る機会がないまま独立を目指してしまうのが実状です。美容室のような来店型サービス業は、お客さまに来てもらうことが前提のビジネスなので、経営の知識がない状態で多額の借金をして店舗を持つのは非常にリスクが高いんです。

26万件を超える熾烈な競争状態にある美容業界。『夢の実現のために自分のお店を』『オープンしてから頑張ろう』で生き残れるほど甘くはありません。オープンまでにどれだけ準備が出来たのか。『おしゃれな店を作りたい』『コンセプトにこだわりたい』という考え方を優先し勝つための準備をせずにオープンしてしまったことが、今の倒産数増加の大きな要因につながっていると思います」

美容師の独立は、美容学校を卒業してから店舗で10〜15年の経験を積んでから踏み切るのが一般的である。独立の理由の多くは、「このままこの店にいても将来が見えない」というものだ。

「一般的に美容師は、サラリーマンのように必ずしも年齢とともに収入が増えるわけではないので、将来の展望が持ちにくい職業です。結婚や住宅購入など人生設計を考える時期でもある30代前後の美容師は、『このままここで働き続けていいのか』と人生設計の悩みに直面し、独立に踏み切るケースが多いんです。

独立を決意した相談者のみなさんが口を揃えておっしゃっているのは、『以前働いていたお店のようにはしたくない。スタッフにはきちんとした環境を作ってあげたい』というもの。以前の職場の労働環境や給料に対して不満を抱いている方が多いのですが、どのように環境を改善すればいいのか、十分に理解できてないまま独立を目指す方も多いのも実状です」

近年の美容室業界の変化

美容師の実際の勤務時間は、店舗の営業時間外に準備や片付け、カットやスタイリングの練習を行なうため、残業が常態化し、1日10時間以上になることも少なくない。休憩や有休も取りづらい現状にあり、美容室業界の労働環境にはまだまだ改善の余地があるようだ。

「最近では多くの美容学校が、就職の条件として社会保険の加入を重視しています。以前は就職先の美容室でただ技術を学べればよかったのですが、現在は労働環境が安定しており、なおかつ教育制度のあるサロンを就職先として優先して選ぶ傾向があるようです」

例えば、2016年9月に創業し、現在全国に21店舗を展開している企業「THEATER」(シアター)は、入社半年後にスタイリストデビューが可能という独自育成機関“THEATERアカデミー”を設けるといった教育制度の充実を図り、注目を集めている。

労働環境の改善だけでなく、この「THEATER」やかねて若者から絶大な人気を誇るヘアサロン「SHIMA」など勢いのある企業を中心に、現在の美容室業界ではSNSを利用したサロンアピールや集客も欠かせない。

インスタグラムを店舗ごとではなく、美容師ごとに運用し、インフルエンサーに匹敵する人気美容師も続々と誕生している。

「インスタグラムのDM機能で予約を取ったり、次回の施術は専門アプリやLINEから予約するように促したり、美容検索サイト『ホットペッパービューティー』のスタイリストページに促したりと、近年では集客と予約方法も多様化してきました。
また、お店の雰囲気や、スタイリストの技術力を知る手段としてもインスタグラムは欠かせないツールになっています」

今後の美容室業界の動向

美容室業界の今後の動向についてはどうなのだろうか。

「今の消費者は、生活コストがインフレで上がっている一方で、給料はあまり上がっていないのが現実です。そうなると、生活費の中でも必須とはいいがたい美容に使うお金を減らす必要があり、価格が少しでも安い美容室を探すようになる。

顧客がサロンを選ぶ際には、技術力や店の雰囲気が重視される側面も大きいので、顕著には現れないかもしれませんが、低価格サロンの需要が高まるという傾向がしばらく続くかもしれません」

たとえ、独立・開業したとしても、個人経営を成り立たせるのはさらに苦しくなるだろう。

「美容室業界では今後、労働環境が整った店舗に人材が集まると予測されます。例えば全国に展開するヘアカット専門店『QB』は、給与の高さに加え、残業手当も1分単位で支給されていたり、大手美容室・美容院『Hair&Make EARTH』では奨学金返済サポートなどの制度が充実していたりと、美容師の労働環境の改善に着目する企業も増えています。

このように大手企業のほうが福利厚生や給与の面で、個人経営店よりも充実しているケースが多々あるため、人材が大手企業に流れ、個人経営店が減少していく可能性は否定できません」

取材・文/逢ヶ瀬十吾(A4studio) 写真/shutterstock

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