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〈どうなる?私たちの歯〉「入れ歯難民が増えるってなぜ?」「歯科医との上下関係がある?」日本歯科技工士会会長に“人材不足”と“業界の構図”について聞いてみた

集英社オンライン / 2024年6月15日 8時0分

〈歯科技工士たちが告発〉「もう限界だ…」歯科医によるダンピング、後継者不足、無責任な厚労省…「虫歯の再発は歯磨きのせいとは限らない」「業界の構図に問題がある」このままでは“入れ歯難民”が続出か〉から続く

「入れ歯難民」…患者側からすると聞きなれない衝撃的なフレーズも、提供する側にとっては半ば常識化した問題だという。ヒトが生きるための大前提となる食物摂取の第一関門であり、食べる喜びを支えてくれる歯の健康が今、脅かされている。歯科医と車の両輪として機能してきたはずの歯科技工士が、構造的な立場の弱さから苦境に立たされている現実に、業界はどう対峙しているのか。公益社団法人日本歯科技工士会の森野隆会長に、歯科技工士たちが直面する課題や対策を聞いた。150分を超える白熱のインタビューを、2回にわたって詳報する。



〈画像多数〉このままでは入手困難に?技工士の技が凝縮された入れ歯の制作作業

 

「養成学校は45校程度に、毎年の卒業生は1000人に満たなくなった」

——まず歯科技工士の業界の現況を分析していただけますか。若い人にとって魅力が薄れ、担い手が減っているとも聞きます。

森野隆会長(以下同) 1955年に今の歯科技工法が制定され、歯科技工士の資格が誕生して来年で70年になります。私が学生だった約45年前には全国に養成学校が70数校、入学競争率も2~3倍あり、毎年3000人ぐらいが卒業していました。

今はそうした学校も45校程度に減り、毎年の卒業生も1000人に満たなくなっています。そんな中でも成功されて儲かっている人たちもいて、私自身は「そんなに悪い仕事じゃないのに」と思うのですが、YouTubeなどで「若い人は絶対なっちゃダメだよ」みたいなネガティブな動画を配信するような人たちもいて、誤解されている面もありますね。

——技工士の有資格者と実際に現役で働いている人数はどれぐらいですか。

歯科技工士は厚生労働大臣免許になり、有資格者は12万人を超える程度です。実際に働いているのは3万3000人ぐらいで、50歳以上が5割以上と高齢化しています。毎年1000人弱の新規合格者が出ても、転職者が多いという印象があります。

実際にデータを取っているわけではないのですが、ほかの業界に比べると離職率が高いという自覚はあります。正確な数字がつかみにくいのは、卒業生の「その後」をフォローするべき養成学校が、経営難から毎年数校ずつなくなっているのも理由の一つですかね。

その根底には、「日本の歯科医療費が安い」という問題があります。日本歯科医師会の調べでは、米国では約40万円の総入れ歯が、日本では約2万5000円で手に入る。

保険を使って一割負担なら2500円、上下合わせて約5000円で入っちゃうんですよ。米国なら上下で80万円かかるのに。米国は自費で自由診療、日本は国民皆保険の中の技工ということになりますが。

——材料費は高騰し続けていると思いますが、それに応じて料金改定はないのでしょうか。

保険点数改定が2年に一度なので、その間に電気代や物価が上がったとしても即応はできませんね。ただし、金、銀等の貴金属材料の保険点数については国際価格の変動を受けて年に数回見直される制度があります。

われわれの職業(歯科技工業務)自体、もともとは歯医者さんが全部やっていて、そこに助手として入ったわけです。その後1955年に歯科技工士が資格制度になった。助手、補助者としてスタートした仕事が、時代の変化で独立した一つの職種として認められた。

一方で、歯科医の国家試験から歯科技工の実地試験がなくなり、若い歯医者さんの中には技工をやらない方も多くなっています。完全に分業になってきているんです。

「技術屋である以上、技術、知識なくして稼げないでしょ」

——これまでの取材から、歯科医が保険適用の入れ歯を作れる技工士を探し回っているのが現状だと聞きました。保険で入れ歯を作ってもらえない、“入れ歯難民”になっている患者さんがどんどん増えている、と。“入れ歯難民”が増えている理由はどこにあるのでしょうか。

若い世代の技工士が入れ歯作りをやりたがらないのが、一番の原因ですね。それに年配世代の方々が引退した時期から、実際に入れ歯を作れる技工士が深刻なほど少なくなってしまったんですよ。

——入れ歯を作りたがらないというのは、手作業で大変だし、報酬も安いからということですか。

これは感覚的な問題なんですよね。しかし、入れ歯の製作は現状、一つひとつ手仕事で、機械(デジタル)でつくるものじゃないので、ある人にとっては効率のいい仕事でも、ある人にとっては効率の悪い仕事になる。

私は現役の歯科技工士ですし、仕事もしています。「技術屋である以上、技術、知識なくして稼げないでしょ」という信念もあるし、当然収入にも差は出ると思っています。差が出るから勉強するわけで。だから「技術屋にとって棚ぼたはない」と思っているんですよね。

——入れ歯問題とは別に、技工士の「技術料」としての取り分が、国が定めた技工士7割、歯科医3割という基準があるにもかかわらず、ダンピング競争のせいで守られていないという声を、取材でも多く耳にしました。

たしかに7対3というのは大臣告示で出ているんですが、市場経済の括りの中で「歯科医院と交渉してください」ということになっているんです。しかもその割合は「概ね」ですから、交渉次第になっているわけです。

難しいのは、我々は患者さんと直接対峙しているわけではない、というところ。薬の場合は、医薬分業なのでお医者さんが処方箋を書いて、患者さんはそれを持ってどこの薬局に行ってもいいんです。我々は歯科医院と交渉するわけですが、そこに存在する「差」は技術力、知識力ということになる。

「他力本願じゃなくて自分自身を磨いていかないと食っていけないよ」

——歯科医も数が増えていて、昔と比べて稼ぎづらくなっている中、コスト削減しやすい部分が歯科技工料ではないかと指摘する人もいます。

そのような方もおられるでしょう。ただそれは何年も前の、技工士がまだ多かった時代の話で、歯科技工士が減少している今は少なくなっているでしょ。

しかし、これには地域差があって、地方では歯科医院との上下関係で料金を下げざるを得ない側面もある。しかしながら、仕方ないにせよ、安い歯科技工料金を容認しているのも技工士、文句を言っているのも技工士なんです。料金交渉には技術力のみならず、理論武装も必要になると私は思います。
国民皆保険というのは世界にも類を見ない制度ですし、歯科でいえば歯科技工士や歯科衛生士のような縁の下の力持ちがいるから成り立っているというのも事実だと思うんです。

たとえば、われわれは「入れ歯が壊れた。食べれない」という患者さんの声を聞けば、「ちょっと待ってな。寝る時間を割いてでも直してやるよ」という人ばっかりなんですよ。「もう時間遅いんで、明日朝9時に出直してください」とは言わないんですよ。

そういう人たちの集まりだけに何とかしないと、と思う反面、他力本願じゃなくて自分自身を磨いていかないと食っていけないよ、とも思う。

「法的にしっかりお金が入ってくる制度を作ってくれ」と要望する人には「制度ができて、料金が定額となったら、あなたに仕事が来るの?」って。

口を開けたらボタモチ入れてくれる人なんていないんだから、「まずは技術力、知識力だよ」とも言いたくなるわけです。

**********

同業者に対してときに辛口な指摘を挟みつつも、森野会長率いる歯科技工士会は今年6月の診療報酬改定では、人材確保につながるベースアップが決まった。そこには歯科の初診料と再診療に歯科技工所の従業員の給料を増やすための人件費が加算されることになった。
詳細はインタビュー後半に続く。

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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

〈どうなる?私たちの歯〉」「昔は儲けられたのが今は…」日本歯科技工士会会長が独白150分「歯科技工士不足は深刻化する一方」でも「人口に対して適正数が何人なのかはわからない」〉へ続く

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