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〈どうなる?私たちの歯〉」「昔は儲けられたのが今は…」日本歯科技工士会会長が独白150分「歯科技工士不足は深刻化する一方」でも「人口に対して適正数が何人なのかはわからない」

集英社オンライン / 2024年6月15日 8時0分

〈どうなる?私たちの歯〉「入れ歯難民が増えるってなぜ?」「歯科医との上下関係がある?」日本歯科技工士会会長に“人材不足”と“業界の構図”について聞いてみた〉から続く

業界の構造的な問題から生活が立ちゆかないなどの苦境に立たされ、現場から悲痛な声が上がっている歯科技工士。しかし、公益社団法人日本歯科技工士会の地道な運動もあり今年6月より、歯科の初診料と再診療に技工士の「取り分」が明確に加算されることになったという。前編に続き、同会の森野隆会長のインタビューとともに解説する。

〈画像多数〉このままでは入手困難に?技工士の技が凝縮された入れ歯の制作作業

日本歯科医師会にお願いしたいこと

——2024年6月1日施行の社会保険歯科診療報酬改定で、40歳未満の勤務医(歯科含む)や勤務薬剤師、事務職員に加え、歯科技工所等で勤務する従事者への賃上げ措置として保険点数が引き上げられました。



ええ。ベースアップとしては2024年度に2.5%、2025年度にはさらに2%を目標としています。

——しかし、歯科医師側がきちんと払うでしょうか。

そうですね。そこは検証しないといけません。厚労省も2年後の調査時に反映されているかどうかを調査すると明言しています。

その際に歯科技工士従業員の給与が上がっていないようであれば、次の診療報酬改定では、引き上げられた保険点数は削るでしょうね。「せっかく上げたのに、歯科医師が懐に入れたら引き上げた意味ないよね」となりますね。

ですから、われわれが歯科医院の先生方にお願いしたのは「歯科技工所がベースアップ、料金を上げたいと交渉に来ると思います。そのときには、今回の点数加算が行なわれたことを踏まえて真摯に対応してください」ということです。

日本歯科医師会に地方の会員までしっかり伝えてください、という要望書を先日出しました。

ただ、現状ではこれがわれわれにできる精一杯なんです。「要望書を出しましたから、きちんと歯科技工料を上げる交渉をして下さい」までが、最終的には、歯科医院と技工所の交渉になるので。

——歯科医に要望書を出すような流れになったのは、賃金が安いという現場の声が多かったからですか。

それよりも、技工士のなり手の数が少なくなったことが大きいですね。ただこれは歯科医も同じことで、歯科医師は年間約3000人しか誕生しないから高齢化も進んでいるし、後継者不足も深刻と聞いています。中には開業しても、億単位の借金を背負ってしまう歯科医もいる。

そういう意味では、歯科技工士はまだいいと思うんですけどね。我々は地域に縛られず営業ができます。人によって違うと思いますが、1人の技工士が食べていくためには、仕事量によっても違いますが、取引先が10軒もあれば十分だと思いますから。

「すべての数値が疑わしいんですよ」

——技工士には定年はないものの、70歳ぐらいの方たちが「ヤメどき」を探しているとも聞きます。さらに養成校もピーク時の3分の2以下に減っている現状では、技工士不足はこれから深刻化してくると思いますが、そうなると一般の方にはどんな影響がでますか?

単純に今と同じようには歯が入らなくなりますね。ただ、難しいのは人口も減っているし、歯が悪い人も昔より減っているんですよね。

「8020運動(80歳になっても20本以上自分の歯を保とう)」の達成率が52%と言われているこの時代に、人口に対して歯科医師が何人必要で、歯科医師に対する技工士の適正数が何人なのかもはっきりわからない。

われわれは2年に一度、就業を届け出することになっていますが、届けてない人もいる。そうなると、すべての数値が疑わしいんですよ。

ただし技工士が高齢化しているのは間違いないし、その人たちの引退が遠い未来ではないのも事実です。そうなれば技工士の数は一気に減ります。

——30年ほど前は、歯科技工士は人気職種だったはずですが、ここまで“なり手不足”が進んだのはなぜでしょう。

これは本当に単純な話で、逆になぜ人気だったのかといえば、「儲けられたから」だと思いますよ。私が技工士になったころは、歯科技工所オーナーは実際に儲かっていました。

今と何が違うかといえば、昔は自費負担(金歯)も多く、そのため収入も多かったと聞いています。しかし歯科技工所の数も多くなり、保険技工では価格競争が始まり、低賃金、長時間労働等の噂が広がったことも原因の一つだと思います。

また、たとえば保険の利かないセラミックの前歯(自費)は、私が技工士を始めた約40年前にはだいたい10万円だったのが、今は6〜7万円ですよ。ほかの物価と比べたら20万から30万ぐらいになっていないとおかしいのに。

インプラントも然りで、出始めのころはウワモノまでついて30〜40万円だったものが、今は半分で入る歯科医院もあります。

要するに歯科医も自費の料金を低く設定し始めているんです。そういう意味では、歯科医の考え方が変わらないとわれわれの業種もきついんですよ。

——かつての「良き時代」にも保険はあったかと思いますが、儲かっていたのは自費の部分が大きかったと。

当時は単純に、需要に対して技工士の数が少なかったんでしょうね。歯科医師会立の学校ができましたからね。「これからは技工士が必要」ということで、歯科医師会が各会館に技工学科を作ったんです。

つまり、「産めよ殖やせよ」の時代だったんですよ。さらに以前は歯科技工所に仕事を依頼するため歯科医が直接模型を持って来ていたと聞いています。

それが技工士の数が増えて、単純に過当競争になり、料金競争にさらされるようになった。しかし、今でもしっかり保険であれ、自費であれ儲けを出している歯科技工士はたくさんいます。要は、自身の技術力、知識力だと思いますね。

「技工士の仕事はゼロからスタートするものではない」

——技工士から「保険点数を直接請求したい」という声は上がらないのでしょうか?

今は、患者さんの口に入る入れ歯や差し歯の全責任を歯科医師が負っています。技工士は歯科医から委託された技工物を作っています。それを直接請求するようになれば、われわれにも製作者としての責任が出てきますよね。

そもそもわれわれは、歯科医師から入れ歯の型や歯を形成した模型を預かって作るわけですが、型そのものがしっかり取れていなければ、世界一の技術をもったと言われる日本の技工士が作ってもきっちりとは入りません。

技工士の仕事はゼロからスタートするものではないんですよ。例えば、陶芸家が土を探し、こねて焼いて最初からやるのとは違うんです。我々の仕事のスタートである、患者さんから直接型をとるのは歯科医です。

そこに製作したものに対し責任が発生するとしたら、われわれは怖くて仕事を受けられなくなってしまうことも出てくると思います。

歯科技工士と歯科医師、歯科衛生士が力を合わせたチーム医療により、患者さんにとって満足のいく入れ歯、差し歯を提供していきたいと思います。

——技工士の多くが「ここを実現できたら」と要望されているのは、やはり7対3(技工料の取り分が技工士7割に対して、歯科医が3割)の部分でしょうか。

確かにそのような意見もあります。「概ね7対3」というのは1988年に大臣告示されたわけですが、「これを法制化して、歯科医にしっかり7割を歯科技工所に支払うようにしてくれ」というところじゃないでしょうか。

ただ、なぜ配分が7対3かというと、概ね7割が製作技工で、概ね3割が管理だからという決めごとなんです。診療報酬では、どこからどこまでの範囲というような細かな杭打ちが明記されていないのが現実です。これらを含め、難しい問題がたくさんあるから、36年たった今日でもこの問題が出てくるのだと思います。

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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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