蓮舫氏「2位じゃダメなのか発言」の真相…5つの観点から分析する「報道のキリトリ」と「実際の発言」との相違点
集英社オンライン / 2024年6月18日 7時0分
蓮舫氏が「2位じゃダメなんでしょうか?」と発言した次世代スパコン事業仕分けの行政刷新会議(2009年11月13日)。およそ72分間に及んだその議論から、報道が「キリトリ」した部分と実際の蓮舫氏の発言について検証する。
【画像】民主党政権時代の蓮舫議員の「2位じゃダメなんでしょうか?」の真相を5つの観点から検証すると……
「2位じゃダメ」発言が飛び出した次世代スパコンの事業仕分
先月、蓮舫氏が東京都知事選(6月20日告示、7月7日投開票)への出馬を表明。その直後から「2位じゃダメなんでしょうか?」という過去の発言と共に蓮舫氏を揶揄する報道が相次いだ。
すでに発言から15年近くが経過し、当時のことを知らない有権者も増えているため、まずは問題の発言の経緯をおさらいする。
この発言は、民主党政権下の行政刷新会議(事業仕分け)のうち、2009年11月13日に開催された、次世代スパコン事業を対象とした第3WG(以降「当該会議」と記載する場合あり)で出たもの。
*事業仕分け:2009年に政権交代を果たした民主党政権の目玉政策の一つ。予算のムダをなくすため、各事業の要否を評価者(国会議員および民間有識者)が判定。わずか1~2時間の制限時間で、担当府省からの説明、評価者との質疑応答、判定(廃止、予算計上見送り、予算要求の縮減、予算要求通り等)までがスピーディーに一気に行なわれたこともあり、注目を集めた。
蓮舫氏は文科省・農林水産省・防衛省などが分類された第3WGで評価者(いわゆる「仕分け人」)を務め、「次世代スーパーコンピューティング技術の推進」(以降「本事業」)の評価も担当。同事業で説明を担当した文科省と独立行政法人 理化学研究所(以降「理研」)は、スピードが世界1位になる重要性を訴えて、翌年度(2010年度)予算として267億円(前年度比77億円増)を要求した。
しかし、わずか72分間の当該会議終了時に下された判定は、事実上の凍結。この会議の中盤に蓮舫氏の「2位じゃダメなんでしょうか?」発言が飛び出した。
その後、周知の通りテレビをはじめとする大手メディアは「科学に疎い蓮舫議員が、1位を獲るべき重要性を理解できず、『2位ではダメなのか?』と役人に質問した結果、次世代スパコン事業を事実上の凍結とした」という筋書きに沿った映像を繰り返し流した。今回の都知事選出馬をきっかけに拡散されている過去映像もおおむねこの筋書きに沿っている。
しかし、驚くべきことにこれは「報道のキリトリ」であって「実際の全容」とは大きなギャップがある。正しくは、「スパコン利用者2名を含む参加者全員の総意として、数々の不安要素が解消されず見直しが妥当な状況のため、凍結になった」に過ぎない。
このギャップは映像を視聴していただければ一目瞭然だ。
「報道のキリトリ」と「実際の議論」との相違点
しかしながら72分の議論を全て視聴する時間を捻出できない読者も多いと思われるため、本記事では5つの観点に絞ってそのギャップを説明していく。
<観点1:事業見直しを主導したのは誰か>
これは一般的には、「科学に疎い蓮舫議員」であったと報道されているが、正しくは「スパコンの利用者2名を含む参加者全員の総意」と思われる。
根拠は、当該会議の終了時に「事実上の凍結」と判定された際に評価者たち(国会議員および民間有識者)が残したコメント。実にすべてが本事業の経緯や妥当性に疑問を呈しており、大幅な見直しを求めている。
必然的に、評価者全12名の判定(1時間11分36秒〜1時間12分16秒)は以下の通り厳しいものとなった。
・廃止 1名
・予算計上見送り 6名
・予算要求の縮減 5名(半額3名、その他2名)
さらに、この評価者にはスパコンの利用者である民間有識者も2名含まれていた。
・金田康正 東京大学大学院教授 (円周率の桁数計算で世界記録を次々と更新した実績あり)
・松井孝典 東京大学名誉教授
*役職は当時
こうした民間有識者も本事業に否定的な結論を下したのだ。というか、専門的な知見を持っているからこそ文科省・理研の説明の矛盾を見抜き、当該会議全体を通して最も厳しい意見を繰り返した。
<観点2:事業見直しの理由>
こちらも一般的には、「蓮舫議員が1位を獲るべき重要性を理解できなかったため」と言われているが、正しくは「数々の不安要素を文科省・理研が説明で解消できず、見直しが妥当な状況だったため」と思われる。
以下の通り、本事業をめぐる不安要素は山ほどあった。
・当初は理研に民間ベンダー3社(富士通・NEC・日立)を加えた共同プロジェクトだったが、うち2社(NEC・日立)が撤退。NECとは損害賠償を準備するほど関係が悪化し、産業界との関係再構築、ニーズ把握からやり直す必要がある状況だった
*後にNECとの係争は現実化し、2年以上後の2011年12月に和解
・ベクトル型に強みを持つベンダー2社(NEC・日立)の撤退と関連して、ハードが複合型(ベクトル型+スカラ型)からスカラ型へ抜本的に変更。ソフトを同時開発する意義に疑問符が付いた
*スカラ型とベクトル型の違いは内閣府ウェブサイト参照
・仮に10ペタ(≒スピード世界1位)の性能を実現できても、アメリカ等の開発状況を加味すると他国にすぐ抜かれる可能性が高いため、日本が1位を維持できる期間はわずか
*ペタ:10の15乗(=1000兆)を表す接頭辞
*実際、2011年に日本のスパコン「京」は世界1位のスピードとなる10.5ペタを実現するも、1年後には抜かれた
これだけの不安要素が山積みの中、それでも1位を獲るべき理由を約6回質問されたにもかかわらず、文科省・理研は最後まで「とにかく1位を獲りたい」「なぜならば、世界一は国民に夢を当てる」等の抽象的な回答しかできなかった。そのため見直しが妥当な状況となったのだろう。
なぜ蓮舫議員だけが高圧的だったかのように言われるのか?
<観点3:「2位ではダメ」発言の発端>
一般的には「蓮舫議員が『2位ではダメなのか』に固執した」と言われているが、むしろ「1位(=2位ではダメ)に固執したのは文科省・理研」と思われる。
具体的には、蓮舫議員が「2位ではダメなのか」を問う質問は計3回(48分9秒〜50分6秒、55分10秒〜32秒、59分24秒〜1時間10秒)あったが、それらのすべては直前の質問者が「1位を目指す理由(=2位ではダメなのか)」を質問してもまったく回答できないため、蓮舫氏が言葉を噛み砕いたり、視点を変えて更問いしたのだ。ちなみに、1位になる必要性について、最初に質問したのは現立憲民主党代表・泉健太議員(45分49秒〜48分8秒)であった。
<観点4:「2位ではダメ」発言の意味>
一般的には「『1位になる必要性はない』という事業見直しの宣告」と言われているが、正しくは「『スピードでは1位になれなくても、利用者の使い勝手も含めて競争すれば事業の価値を見出せるのでは』という事業継続への助け舟」であった。
この助け舟を蓮舫議員は3回以上(53分33秒〜50秒、59分24秒〜1時間10秒、1時間5分10秒〜1時間8分15秒)も出したが、文科省・理研は1位を獲ることが目的化した回答を繰り返したため、事業見直しに至った。ちなみに、事業仕分けの約2年後(2011年)に文科省・理研が完成させたスパコン「京」は、この助け舟とおおむね同じ方向性で修正されており、蓮舫氏の助言は的確であったといえる。
<観点5:評価者の態度>
一般的には「蓮舫議員が特に高圧的だった」と言われているが、正しくは「注目される蓮舫議員の言動の一方、他の評価者に高圧的言動が見られた」であったと思われる。映像を見ればわかるとおり、文科省・理研は質問を無視したかのような一方的な言い分の主張が目立ったため、一部の評価者には以下のとおり厳しい言動が見られた。
・泉健太議員が文科省への質問中に「(説明に)責任が感じられない」等と苦言(28分15秒〜29分0秒)
・金田康正 東京大学大学院教授が事業発足時の目的を質問して文科省に回答させた後、「まったく違います」「歴史的経緯を理解していない」と全否定した後、正解を逆にレクチャー(39分4秒〜43分25秒)
・松井孝典 東京大学名誉教授が文科省への質問中に「説明が矛盾だらけ」「そんな馬鹿なことない」(53分55秒〜55分10秒)等と苦言
相手の要領を得ない説明姿勢を踏まえれば、どれも十分に理解できる範囲だが、特に金田康正教授のように相手に説明させた後で全否定して公衆の面前で正解を逆にレクチャーする行為(=相手に恥をかかせる行為)は、見方によってはハラスメントと捉えられかねない。
一方、全72分の映像を観れば明らかな通り、蓮舫議員は上記のように相手を責めたり、発言内容を否定したり、恥をかかせる言動は皆無。しかし、あたかも蓮舫議員だけが高圧的だったかのようにキリトリ編集した映像をテレビは流し続けた。それは、蓮舫議員がハッキリと意見を言う女性であることと決して無関係ではないだろう。
以上の通り蓮舫氏の「2位じゃダメ」発言は、「報道のキリトリ」と「実際の発言」に大きなギャップがある。とはいえ、これまで「報道のキリトリ」が広く拡散され過ぎたため、現実を受け入れることが難しい読者も多いだろう。その場合は、やはり映像を全編自分の目で見て判断して頂きたい。
*全72分の議論の詳細、虚像を拡散した報道の具体例は、筆者のtheLetter「【都知事選2024】蓮舫氏「2位じゃダメ」発言 15年越しの真実」(2024年6月9日)参照
文/犬飼淳
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