〈ホス狂は病気か?〉「薬は効かない。必要なのは我慢と根気そして…」回復施設を運営し、これまで500人のホスト依存症患者を治療した医師が“ホス狂”とその家族に伝えたいこと
集英社オンライン / 2024年6月23日 17時0分
新宿・歌舞伎町にあるホストクラブ約200店舗は、今年4月から売掛制度(ツケ払い)を撤廃した。全国的にも悪質なホストクラブの取り締まりが強化されている一方で、新たな手口も次々と出現しており、被害は減らない状況にある。依存症治療専門機関「大石クリニック」の大石雅之院長は「ホストクラブの規制も重要だが、それだけでは被害にあった女性たちは救えない」と指摘する。全国的にも珍しい“ホスト依存外来”に訪れる女性たちの特性や、万が一、自分の子どもがホストにハマってしまったときの対応策などを聞いた。
ホストにハマり借金は5000万円まで膨れ上がった…グループホームで過ごす元ホスト依存症の女性に密着
売春すればお金が稼げてしまうため歯止めが利かなくなった
アルコールや薬物、ギャンブル依存などを専門的に治療する医療機関は数多く存在するが、神奈川県横浜市にある「大石クリニック」は、ホストに依存する女性患者、またはその親が訪れる外来棟をはじめ、「回復施設」と称したグループホームなどの施設を複数展開している。
同クリニックの大石雅之院長は、ホストに強く依存してしまい、自らの衝動を抑えられない「強迫的性行動症」と診断された500人以上の患者の治療にあたってきた。
――俗にいう“ホス狂”の診断名である「強迫的性行動症」とは、どんな病気なのでしょうか。
大石雅之院長(以下同) 医学界では、世界保健機関(WHO)が病気を分類して初めて病名がつきます。2018年6月にこの国際疾病分類が最新版(ICD-11)へと改訂され、ホスト依存は「性嗜好障害・強迫的性行動症(性依存)」という病名になりました。
この病気は、芸能人やスポーツ選手によるセックス依存や度重なる浮気行為が報道されたことで昨今話題になりましたが、端的に言うと「やめたいのに性的行動が抑制できなくなる」という状態の一種です。
従来は男性の風俗やキャバクラ依存が目立っていましたが、もちろん女性にも生じることがあります。その一つが、近年問題となっている“ホス狂”です。
――ホストクラブは50年以上前から存在していますが、なぜ昨今になって、悪質な売掛金による女性の性的搾取が社会問題にまで発展したのでしょう。
私の知る限り、30年ほど前にも「娘がホストにハマった」というケースはありました。なので、これまでも闇に消えていただけで、同じような問題は存在していたはずです。
当時との大きな違いとしては、現在はお金のない若い子でも、パパ活や交際クラブといった風俗以外の手段で気軽に稼げるようになってしまい、それにホストが便乗する図式が出来上がったことが挙げられます。
社会性がなくても、売春すればお金を稼げてしまうため、歯止めが利かなくなってしまいます。
――こちらのクリニックには、ホスト依存になってしまった患者本人が1人で診察に来るのでしょうか?
多くの場合は、患者の親だけが来たり、ホストに捨てられ傷ついた状態の娘さんが親と一緒に来たりしますね。
本人が来るとしても、かつてホストクラブに通っていた子が、次は薬物依存になっていたり、市販薬をOD(オーバードーズ)して精神病院に入退院を繰り返したりしたあとに訪れてくるケースがほとんどです。
「グループホームに入ったものの、心はホストから離れてなかった」
――そうしてクリニックに辿り着いたのは、どういった女性たちなのでしょうか。
ホストクラブに行った女性全員がホス狂になるわけではないですよね。むしろ「あぁ楽しかった」で終わる人がほとんどです。では、なぜ歯止めが利かなくなるほどハマってしまう人がいるのかというと、もともとその人がホストにハマってしまう性質を持っているからなんです。
――どんな性質なのでしょうか。
成育や家庭環境に起因していることが多く、それに加えて発達障害や境界知能などで生きづらさを感じている、というケースがほとんどです。
周囲とうまく馴染めなくて孤立していたり、抑えられない衝動性を持っていたり……。そんな人がホストから恋愛の絡んだ営業をされ、お店で優しくチヤホヤされると、そこに依存してしまうのです。
「この子はイケる」とか、ホストもわかって相手を選んでいるはずですよ。だから彼らに選ばれた子がホスト依存になっていると、私は見ています。
――では、その患者さんにはどのような治療をするのでしょうか。
まず医師が問診や行動観察、心理検査などを行ないます。当院を訪れる患者さんは、関心のある対象、つまりホストのことで頭がいっぱいで、視野狭窄状態に陥っていることがほとんどです。そのため、まずは患者さんの問題や思考を整理し、広い視野を取り戻すために集団精神療法やカウンセリングなどを行ないます。
そのうえで、ホストクラブから距離を置くことが大事なため、週1回は通院してもらうか、場合によってはグループホームに入居してもらい、対象に近づけない生活習慣を作っていきます。でも、通院の場合は自由にスマホが使えてしまうので、なかなか対象と関係性が切れないケースも多いです。
――グループホームには現在、ホストによる「強迫的性行動症」の患者さんが何名いらっしゃるのでしょうか。
当院のグループホームは2年前に開始しましたが、「強迫的性行動症」だけでなく、アルコールやギャンブル、クレプトマニア(病的窃盗、万引きなど)など、さまざまな依存症を持つ方々がいます。
皆さんアパートのような集合住宅の中で規則正しい生活をしていますが、その中で、ホスト依存の患者さんは現在2名です。グループホーム内には、スマホは持ち込めません。
「薬は効かない。必要なのは我慢と根気、そして勉強です」
――ホスト依存による「強迫的性行動症」は、どのように回復していくのでしょうか。
まずはホストとの関係性を断ち切り、お金を稼ぐために昼夜逆転してしまった生活を正します。就労支援を利用して昼間の仕事に就かせ、規則正しい生活習慣を取り戻すのです。
そして使えるお金を限定し、これまでの1万円が100円のように感じていたであろう、おかしくなった金銭感覚を元に戻していきます。さらに仕事を介して働く喜びや、自分が誰かのためになっているという感覚を得ることで、自己肯定感も上げていき、社会的な復帰を目指していきます。
――薬による治療などは行なわないのですね。
薬は効かないんですよ。発達障害の症状が強かったり、ODによって幻覚や幻聴が出ていたりする場合は処方することもありますが、一番は真っ当な暮らしや仕事をする中で、自分が一人前になったんだと思えること。そういう体験が必要なんです。
――とても時間がかかりますね。今グループホームで生活している方は、どのくらいの期間、入居しているのでしょうか。
1人は2年ほど生活していますね。治療にはとても時間がかかります。20代の子だったら、人生を書き換えるような大変な治療になるので、根気よく続けていくことが大切なんです。
――今まさにホス狂の子どもを持つ親御さんは、どんな行動を取ればいいでしょうか。
必要なのは我慢と根気、そして勉強です。
まず当事者にホストを否定させ、縁を切るように言い聞かせようとしても無駄です。そうすると当事者は家出し、今度はホストが「同棲しよう」などと口説いて囲い込まれてしまいます。
この仕組みは、宗教団体などが当事者を洗脳し、家族や周辺の言葉を届かなくさせる手口と同じです。
こうなると深みにハマってしまうので、家族は当事者を否定せず、受け入れて待つ。ホストはお金を取るのが商売ですから、やがては必ずホストと当事者間に亀裂が入るときが訪れます。
そうして傷ついて家に帰ってきたときに、精神科でも治療で応用される「動機づけ面接」という、自発的に回復を促す話法で受け入れるのです。
――「動機づけ面接」とは?
対象の葛藤を明らかにし、自ら変化しようと働きかけるためにさまざまな話法を使ってアプローチする方法です。とはいえ「動機づけ面接」そのものは非常にテクニックのいる話法で精神科医でさえ何年もかかるほど。
その代わり「動機づけ面接」の簡易版とも言える話し方を教えるワークショップや講習会などは様々なクリニックなどでも行われていますので、それらに通い、家族も学んでいくことが大事です。
************
非常に根深い問題である、「強迫的性行動症」によるホスト依存。大石先生は「のめりこんでしまう女性たちの支援や背景についても議論する必要がある」という。
#2では、かつてホストクラブに依存し、5000万円以上もの借金を抱えて「大石クリニック」の診察を受けたあと、現在グループホームで生活する女性(26)に話を聞いた。
※「集英社オンライン」では、ホストにまつわる事件、トラブルについて情報を募集しています。下記のメールアドレスかX(Twitter)まで情報をお寄せ下さい。
メールアドレス:
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X(Twitter)
@shuon_news
取材・文/集英社オンラインニュース班
〈〈密着・脱ホスト依存〉借金総額5000万円。風俗、闇金、個人融資を駆使して…ホス狂だった元女性会社員(26)が“回復施設”に入居して思うこと「未練がないと言ったら嘘になる、でもこれが最後のチャンス」〉へ続く
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