〈鹿児島県警・情報漏えい〉「警察そのものがよくない」“第一の漏洩”「医師会職員の強制性交事件」の不審捜査で逮捕された元巡査長は被害女性側に謝罪していた
集英社オンライン / 2024年6月18日 17時57分
〈〈鹿児島県警・情報漏えい〉「本部長が警察官の犯罪を隠ぺいしようとした」逮捕された元警視正は悪徳警官か、勇気ある告発者か…発端は謎の不起訴となった看護師への強制性交事件か 〉から続く
鹿児島県医師会元職員による強制性交事件の隠蔽を、鹿児島県警が図った疑いがある――そう報じたニュースサイト「ハンター」に県警が家宅捜索を行なっていた。同サイトに警察内部資料を提供したとして逮捕、起訴された元巡査長が、資料提供前に被害女性側に「県警の捜査は異常だ」と謝罪していたことが分かった。
ガサは内部通報者と報道機関へのみせしめか?
県警は地方公務員法違反容疑で元巡査長、藤井光樹巡査長(49)=後に懲戒免職、起訴=を4月8日に逮捕した直後、「見返りの情報提供を期待して資料を提供した」と藤井被告が供述したと発表していた。しかし資料提供の前に県警の行動を謝罪していたことから、関係者は「県警内の不正を明らかにしようとする正義感から行なった公益通報だ」と指摘している。
県警は藤井被告の逮捕と同じ4月8日に、福岡市にあるハンターの中願寺純則代表の自宅を捜索してスマートフォン2台やパソコン、取材ノートなどを押収した。
このとき押収されたパソコンには、今年3月に退職した同県警元警視正の本田尚志・前生活安全部長(60)が北海道のフリージャーナリストに郵送した別の事件の捜査記録のデータもあり、この記録の流出に気づいた県警は5月31日に本田容疑者も国家公務員法違反容疑で逮捕した。
しかし本田容疑者が「県警警察官の犯罪行為を、野川明輝本部長が隠蔽しようとし、いち警察官としてどうしても許せなかった」と資料持ち出しの動機は不正告発だったと主張したことで、逮捕は内部告発をつぶす目的ではないかとの見方が噴出している(♯1)。
中願寺代表によると、県警捜査員は差し押さえの際、令状の提示をせず、パソコン内にあったデータの一部を同意なしに消去している。
「ハンターへの強制捜査の異様さが徐々に明らかになり、このガサ自体が、内部通報者と報道機関に対する見せしめ目的だった可能性が強まっています。
県警は藤井被告と本田容疑者の2人の公益通報をつぶすために捜査権を行使したのではないかとの疑惑の弁明に追われる状況になっています」(社会部記者)
発端は医師会職員の看護師への強制性交事件
発端となった強制性交事件は2021年9月、新型コロナウイルス感染者の療養施設で医師会職員だった男性A氏が民間病院から療養施設に派遣された看護師の女性Bさんを複数回襲ったとされるものだ。
男性は普段から自分の父親が警察官だと周囲に話しており、Bさんは被害を訴えることを当初ためらったが、様子がおかしいことに気づいた同僚に被害を告白した。これを受け勤務先でBさんを支援するCさんが21年12月にA氏を呼び問いただすとA氏は「強姦です」と認めたという。
「Aはそのとき平謝りでした。しかし直後に慰謝料を25年の分割で払うと言い始め、さらにその後『合意だった』と主張を変え周囲に吹聴しはじめました。
Bさんは22年1月に鹿児島中央署に告訴しましたが、一度は女性警察官に『望む結果にならない』と言われ拒まれています。弁護士の支援を得て告訴状を提出すると、今度は当時の県医師会会長が『同意があった』と主張してA氏をかばう動きを見せました」(Cさん)
結局、医師会は22年9月、「同意があった」との主張を曲げないまま、A氏の行為は不適切だったとして停職3か月の懲戒処分を出し幕引きを図った。A氏は翌10月に依願退職したが、医師会有力メンバーが経営する施設に再就職している。
被害者の支援者のもとに藤井被告が訪ねてきた
強制性交事件に対して県警の捜査は進まなかったことから「県警と医師会の体面を保つため立件回避を図っている」と追及するハンターのキャンペーン報道は続いた。
また、立憲民主党の塩村あやか参院議員が23年3月から国会で警察の対応を質し始めたことで問題は徐々に知られるようになっていった。
その時期にCさんを職場に訪ねてきたのが、面識のなかった藤井被告だったという。
「23年5月ですね。藤井さんから『会いたい』と言ってきて、何が目的か分からなかったのですが会いました。そうしたら、とにかく彼は謝罪をされるわけですよ、一生懸命。
『自分は警察を代表する立場でもなんでもないんだけど、被害に遭われた女性に関しては、本当にうちの警察はよろしくない対応を取って、誠に申し訳ありません』と」(Cさん)
「刑事部長というより警察そのものがよくない」
藤井被告は、問題の鹿児島中央署長から県警本部刑事部長に栄転した直後だったX氏の名を挙げ「Xの考えがあって、いろんなよくない指示が起きてるんだろうと思います」と口にしたという。
ただCさんは「そのとき藤井さんは、Xさんというよりも警察そのものがよくない、という話をしていた記憶があります」と振り返る。
この面会があった翌6月、県警は告訴から1年半ぶりにA氏を書類送検したのだが、その3日後に藤井被告はA氏の事件を含む『告訴・告発事件処理簿一覧表』を持ち出しハンターに提供している。
処理簿一覧表には鹿児島中央署長時代のX氏が主導しA氏の立件回避を図るかのような指示があったとの内容もあり、ハンターはこの疑惑の追及を4か月後の23年10月から本格化させる。
「書類送検が行われたのに藤井被告が書類をハンターに渡したのは、不審な捜査指揮を明るみに出し、地検にまともな処分を促す狙いがあったのかもしれません。
しかしハンターの報道を他のメディアは後追いせず、鹿児島地検はその年の12月、A氏を嫌疑不十分で不起訴処分にしました。Bさんは不起訴は不当だとして検察審査会に審査を申し立て、A氏に相手に損害賠償請求訴訟を起こし独自に責任追及をしてきました」(社会部記者)
藤井被告は複数のルートで資料を出したとみられる。県警は今年3月になって個人情報の流出を発表。ハンター以外のウェブメディアが、漏洩した多数の資料の写真を掲載したのに押されて捜査を50人態勢に強化し、藤井被告の逮捕とハンターへの捜索に至る。
昇進していない巡査長が「評価を高めたかった」に違和感
「藤井被告は公安畑の警察官で、県警は藤井被告が『情報を漏らす見返りに捜査にかかわる別の情報を得ようとした。組織内で自分の評価を高めようと思った』と供述したと説明してきました。しかしこれには違和感があります」と地元記者は話す。
「理由は藤井被告の巡査長という階級が警察の正式なものではなく、まったく昇進しない警察官の“名誉階級”のようなものだからです。
実際には最下位の「巡査」と同じ階級です。公安というセンシティブな部署に配属される藤井被告なら昇任試験を受け階級を上げようと思えばできたはずですが、49歳まで事実上一階級も昇進しておらず、出世に関心がなかったとしか思えません。そんな人が評価を欲するでしょうか」(地元記者)
実は鹿児島県警は、藤井被告を逮捕した4月8日に、Cさんに対する捜索も行なっている。スマートフォンを押収されたCさんは複数回、参考人としての事情聴取も受けた。
「警察は私が藤井さんに漏洩をそそのかしていないか疑ったようです。結果、そうした行動も金の動きもないことが確認されています」(Cさん)
さらに、藤井被告と本田容疑者の情報持ち出しが続いたことについて、Cさんは続けた。
「強制性交事件の捜査の問題に共感をしてくれた警察内部の人が、組織をよくしたい、という思いで(情報提供を)やり、それが広がって今(の本田容疑者の事件)があるんでしょう。
本田容疑者が全く同じことをやったというのは(藤井被告の)影響を受けたんだろうなと思います。『おれもやったるわ』と思ったのでしょうね」
「藤井被告が本当の動機を言うかどうかは分からなくなってきた」
目を引くのは、初公判も迎えていない藤井被告が既に保釈されていることだ。6月12日、藤井被告は地元テレビ局に直撃され、本田容疑者とは「全然面識がない」と言いながら、「逮捕容疑に間違いはないので、裁判の中で申し上げることになる。それしか申し上げられない」「県民の方に非常に迷惑をかけた。組織に対しても迷惑をかけたのは間違いなくある。申し訳ありません」と話した。
「警察組織にたてついた人物の身柄拘束がこれほど早く解かれたことに注目しています。警察や検察が満足する供述を藤井被告がしているということでしょう。公判で本当の動機を言うかどうかはわからなくなってきたと思います」(社会部デスク)
藤井被告と本田容疑者。相次いで県警の不祥事を外部に知らせた二人の行動は歴史にどのように記録されるのか。市民の知る権利や報道の自由も絡み、波紋は広がっている。
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取材・文 集英社オンラインニュース班
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