なぜいつもスケスケの服を?「異性ウケしようと思っているわけじゃない」自分らしく生きるパリジェンヌのメッセージ
集英社オンライン / 2024年7月5日 11時0分
ルイ・ヴィトンのパリ本社のPR部門で約20年間働いた藤原淳さん。自身の体験と自分らしく生きるパリジェンヌの特性をつづった書籍『パリジェンヌはすっぴんがお好き』が話題だ。
書籍より一部抜粋・再構成し、毎日スケスケの服を着こなすパリジェンヌのありのままの気持ちを解説する。
なぜいつも彼女はスケスケを着ているのだろう
ミレイユが廊下を歩いてくると、見なくてもすぐわかります。とにかく声が大きいのです。彼女はすれ違う人に声をかけ、歓談をしていきます。会議はすでに始まっているのですが、気にする様子もありません。
ミレイユはいつも遅れるので、会議を設定する側もそれを先読みして時間配分をしているようです。とがめる人は誰もいません。やっとのことで会議室に登場したミレイユはほがらかに挨拶をし、しばらく無駄話をしています。
そんなミレイユは広報部ではなく、スタジオに勤めています。スタジオは、ファッション・デザイナーとデザイン・チームが仕事をする場所です。
そのスタジオがある階は、普通の社員はなかなか足を踏み入れることができない、聖域のようなところです。
そこには「凡人が最先端を生きるクリエイティブな人の仕事を邪魔しちゃいけない」、そんな空気が流れています。スタジオに行き来することが許されている人は、一目瞭然。それぞれにめちゃめちゃ個性的な格好をしている、カッコいい人達ばかりです。
ミレイユもそんなスタジオ人間です。
ファッション・ショー、広告、プレス・デー等のイベントは、スタジオと広報部が二人三脚で進めなければ始まりません。そのためには、まずデザイナーの意図を広報部にわかりやすく説明しなければなりません。そんな難しい役回りをしているがミレイユです。
午前中の会議に登場した彼女は、下はボリュームがあり、風船のように膨らんだ、「超」のつくミニスカートを穿き、上はブラも丸見えのシルク・ブラウスを着ています。そう、ミレイユのトレードマークはスケスケの服なのです。
スラリとしているミレイユは私など惚れ惚れしてしまうような体型です。お尻も胸も大きすぎず、小さすぎず、綺麗な湾曲を描き、まるでよく出来た絵画のようなのです。
露出度が高いミレイユですが、なぜかイヤらしい感じがしません。これは私だけではなく、職場の同僚も全く同感のようでした。
人を褒めたりしないパリジェンヌですが、皆さん、ミレイユには一目置いています。ミレイユの服装を下品と批判する人はなく、「あんな身体していたら、そりゃ見せるわ」と、誰もが納得し、憧れのまなざしを向けています。
不思議なことに、男性より女性の目を引くミレイユなのです。
私はこういう人間ですが、何か?
そのことが長い間気にかかっていた私ですが、ある日、同じ広報部に勤めるロベールに質問を投げかけてみました。男性が少ない広報部で昔から頑張るロベールはアーカイブ部門の責任者。
『ウォーリーを探せ』のウォーリー似の彼は実に多才。プロのフォトグラファーでもあり、私が企画するプレス・ツアーにもよく同行してくれていたので、いつしか気の置けない仲間になっていました。
ミレイユの大きな笑い声がいつものように廊下に響き渡っていたある日、私はロベールに聞いてみました。
「ね、ミレイユっていつもスケスケだけど、目の置き場に困ったりしないの?」
ロベールは、うーんと少し考えた後、言いました。
「しないね。なんていうか、あそこまで露出されると、男には響かないんだよ」
「色っぽくないっていうこと?」
「うん。ちっとも色っぽくない。でも、別に異性ウケしようと思ってスケスケ着てるわけじゃないでしょ」
そう言われてみれば、ミレイユにはそんな意図はなさそうです。
「じゃー、どうして色っぽい格好をしているのかしら?」
と私が呟くと、ロベールは首を横に降り、「君は全くわかっていないな」という顔をしながら言いました。
「彼女がスケスケを着るのは、こびるためじゃない。これが私です、っていうメッセージみたいなもんだよ」
フォトグラファーのロベールは視点が鋭く、物事の本質を見抜くのが得意です。彼の目に映るミレイユは、スケスケを着て自分をさらけ出す、等身大の女性です。「私はこういう人間ですが、何か?」と割り切っているパリジェンヌです。
なんとも爽快ではありませんか。ミレイユのスケスケがちっともイヤらしい気がしない理由がやっとわかり、私は快哉を叫びたい気持ちでした。彼女が女性ウケするのも無理ありません。
媚びない、ありのままのその姿はロベールが指摘したように、強いメッセージを発信しているのです。
「私は私です。これでいいんです」
肩で風を切って生きているミレイユは、素の自分を衆目にさらけ出す勇気を持ち、逃げも隠れもしないという覚悟を持つ女性です。
そんな彼女の真の魅力を理解した私は、「あんなふうに生きてみたい」と憧れるのですが、どこから初めていいのかわかりません。スケスケを着ればそれでよい、という次元の話ではありません。問題はそこです。
どうすればありのままの自分をさらけ出すことができるのか。私は図らずも命題にぶち当たってしまったのです。
写真/shutterstock
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