パリジェンヌが産後に必ず“膣トレ”をする理由とは? 「母親である前に、私は私だから」保険適用も可能、フランス流の産後セルフケア
集英社オンライン / 2024年7月6日 13時0分
〈なぜいつもスケスケの服を?「異性ウケしようと思っているわけじゃない」自分らしく生きるパリジェンヌのメッセージ〉から続く
元ルイ・ヴィトンパリ本社PRディレクターである藤原さんは、フランスで子どもを授かった。同僚と話すなかで感じた日本人との感覚の違いとは?
書籍『パリジェンヌはすっぴんがお好き』より一部を抜粋、再構成し、フランス人女性がとある体操に傾倒する理由を解説する。
「38歳で出産、自分の世界観がひっくりかえる」
ラグジュアリー・ブランドの世界に飛び込んで以来、私はいくつもの修羅場を潜り抜けてきました。出張でレバノン、キューバ、イースター島と、予想外の場所を訪れ、世界各地でいろいろな価値観の人と出会いました。
社会の変革を唱えるリーダー、既成概念を破るアーティスト、全財産を慈善事業に注ぎ込む実業家など、スケールの大きい人達との出会いにも恵まれました。
だからといって私の世界観が変わったかと言えば、そうではありません。キャリアを通じて学んできたことは私の血となり、肉となり、糧となってきましたが、私を根本的に揺るがすことはありませんでした。
私の世界観を覆す出来事は、私が38歳になった時、キャリアとは全く別の次元で起こりました。再婚相手との間にできた娘の誕生です。
正直言うと、それまでの私は「子供が欲しい」などと考えたこともありませんでした。仕事に無我夢中でそんなことを考える余裕すらなかったと言ってもよいかもしれません。
周りから「そろそろ産まないの?」という類のプレッシャーが一切なかったことも影響していると思います。
娘が産まれた瞬間、私はそれまで信じていた天動説が地動説にひっくり返されたような衝撃を受けました。これまで自分のキャリア、自分の幸せを中心に回っていた世の中が、娘を中心に回り始めたのです。この世界に自分よりも大切な存在が出来てしまったのです。
4ヶ月の産休はあっという間に過ぎてしまいました。娘を預けてイザ、出社する初日、私は身を引きはがされるような思いでした。これだけ自分を必要としている小さな、小さな生き物を置いていくのです。
自分の血を分けた無力で、無垢な赤ん坊。その我が子を「はい、よろしくね!」と他人に預けて颯爽と出勤する気にはどうしてもなれないのです。それは今までに経験したことのない苦しみでした。
(何かが間違っている……)
そう思いながら出勤する足取りは重く、その場で辞表を提出したくなってしまったくらいです。
みんなやってる骨盤底筋体操
ちょうど同じ時期に産休で会社を離れていた同僚がいました。マーケティング部門に勤めているアリスです。彼女が手掛けるバッグは必ず大当たりするという、いわゆる「デキる女」のアリスは私が出産した3週間後、同じ産院で男の子を産んでいました。
私はある日、昼休みを利用して彼女の家を訪ねることにしました。出産祝いを渡すという名目もありましたが、何よりも新米の働く母親どうし、授乳や夜泣きに関する苦労や悩みを語り合いたかったのです。
ところがどうでしょう。
「ね、あれ、やってる?」
アリスは開口一番に聞いてきます。てっきり母乳の話かと思って、
「もちろん!」
と即答した私ですが、全くの見当違いでした。アリスが言及しているのは、母乳のことではありません。彼女が持ち出してきたのは、パリジェンヌがみんな産後にやっていることですが、私は考えもしなかったことです。
それは骨盤底筋体操です。俗に言う、膣トレです。
フランスではこの膣トレが保険診療の対象ともなり、産後に助産師や「キネ」と呼ばれる理学療法士に指導してもらうのが一般的です。
私も産院で勧められていた記憶はありましたが、授乳に精一杯でそんなことにまで頭が回っていませんでした。そう、私にとっては「そんなこと」だったのです。
アリスは先ほどからその話ばかりしています。膣トレをして下腹部がみるみる引き締まってきたこと。インナーマッスルが鍛えられて腰痛も解消したこと。ズレてしまった骨盤もきちんと元に戻るらしいから、続けるのが肝心なこと。
まるでマーケティングのプレゼンをしている時みたいに、アリスは理路整然と、そして熱心に語っています。私など口を挟む暇もありません。
アリスの家を後にした私はしばらく考え込んでしまいました。いい母乳が出るように食生活に気をつける以外、自分のケアなんてこの数ヶ月、すっかり忘れていた私です。我が子のことで頭が一杯。自分のことなんか「どうでもいい」とすら思っていました。
アリスに限らず、パリジェンヌは産後のセルフケアを怠りません。赤ん坊の健康管理と同じくらい、自分の身体のダメージ、そして心身の不調に細心の注意を払います。
無痛分娩が当たり前のフランスですが、それでも数ヶ月にわたる妊娠、そして出産は身体にかなりの負担をかけるものとされ、「自分を労るため」の努力は惜しみません。産休はそのための期間であるという認識があるくらいです。
「自分らしい身体に早く戻りたいのよ。母親である前に、私は私だから」
そう言い切るアリスは、自己犠牲をしてまで子育てをする気はないと言います。言い方を換えれば、パリジェンヌは母親になっても、私のように天動説がひっくり返るようなことはないのです。
宇宙はいつだって自分を中心に回っています。
写真/shutterstock
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