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「壊れたから無料で直してよ」「その価格ならもう仕事はないと思って」ブラック歯科医に“つかわれる”技工士たちの悲鳴「1本銀歯を仕上げるのに3時間かかって800円」「結婚もできない」〈歯科技工士たちの悲鳴〉

集英社オンライン / 2024年6月20日 7時0分

〈どうなる?私たちの歯〉」「昔は儲けられたのが今は…」日本歯科技工士会会長が独白150分「歯科技工士不足は深刻化する一方」でも「人口に対して適正数が何人なのかはわからない」〉から続く

「入れ歯難民」という造語が定着するほど疲弊している歯科技工士業界。歯科医師からの「委託発注」で加工物を納める下請け構造がダンピング競争を生んできた。さらに技工士の高齢化や成り手不足も進行している。これまで3回にわたってこの問題を報じてきたが、末端の現場の窮状を伝えるにはまだ不十分という声が、多数寄せられた。都内で長年技工士を務めてきたベテラン2人の生の声をレポートする。

〈画像多数〉このままでは入手困難に…技工士の技が凝縮された入れ歯の制作作業

「40年以上前からほとんど技工料が上がっていない」

最初に話を聞いたのは、東京都内で技工所(ラボ)を経営している60代の男性。技工士の労働条件や収入、医師との関係性などについて、実情を話してくれた。

–––まずは歯科技工士の「栄枯盛衰」についてお伺いします。歯科技工士は、実際に稼げなくなっているのでしょうか?

私は技工所を始めてもう40年以上が経ちました。技工士になったころは、上の世代の人たちは稼いでいましたし、私も普通に働いていればそれなりに稼げていました。それが少しずつきつくなっていった、という感じです。

正確には「稼げなくなった」というよりも、40年以上前からほとんど技工料が上がっていないんですよ。物価上昇で材料費や家賃といった諸経費がどんどん上がるのに対して、実入りが変わらないので、相対的に稼げなくなっているのが実情です。

たとえば、保険適用のメタルZインレー(銀歯)の場合、技工料は1本1000円を切ります。もちろん技工所によって価格は違いますが、うちでは800円程度で受けていますね。でも、それを1本仕上げるのに3時間近くかかるんですよ。

何本か同時並行で作業するので一概に計算はできませんが、時給で考えたらコンビニで働いたほうが稼げるのではないかと思うくらいです。だから、受注量を増やしてカバーするしかなくて、1日10本くらいは仕上げています。

保険適用のものだけではなく、インプラントやセラミックなど自費診療のものも引き受けていますが、やはりそちらのほうが利益率は高いです。インプラントやセラミックのインレー(詰め物)などは、1万円~2万円くらいの技工料になりますから。

–––歯科医師との関係について、ダンピングが問題になっていると伺っています。

昔からの構図なのですが、歯科医師あっての技工士なので、技工士は歯科医師よりも(立場が)下なんです。なので、平気で「これ、ほかの技工士は1000円以下でやるって言っていたよ。その価格なら、もう仕事はないと思って」とか言われますよ。

ほかにも、たとえばインプラントの場合、患者が自費で30〜40万円の高額な費用を支払うので、3年間の補償期間などを歯科医師が設けることがあるんです。技工士には何の相談もなくやっているのに、「作ってもらったインプラントが壊れたから、無料で直してよ。補償期間だから、患者からお金を取れないんだ」と持ってくることもあります。

さすがに無償はしんどいので、そのときは「2000〜3000円でいいからください」と言い返してから対応していますけどね。

「月収20万円以上」の募集でも、実際は… 

–––実際のところ、歯科技工士の労働時間と収入はどれくらいなのでしょうか?

ほぼ無休で毎日夜11時以降まで働いて、そのうえ納期に追われているときは技工所に泊まりこんで作業して、稼げる月で月収60万円ほど。仕事の内容や発注が少ないと、月収30万円ほどになるときもあります。

それでも私は独立してやっているからマシなほうで、ラボなどに雇われている人はもっと稼げない状態です。技工士学校を卒業したばかりの子らの初任給は手取り14~15万円程度ですし、10年近く経験している30代の技工士でも、朝から晩まで働いて手取り17~18万円という人もいます。

募集の時点では「月収20万円以上」としている技工所でも、蓋を開けると出来高制で、ピンハネがひどいところも多い。「技工士をやっていると結婚もできない」と口にする人もいますね。

–––「技工士7割、歯科医師3割」という大臣告示は守られているのでしょうか?

「概ね7対3」と定められているといっても、それは技工士によって異なります。私の場合は、4割や3割しか技工料をもらえないこともザラにありますよ。元々が安く設定されてしまっているんですが、それでもきっちり7割もらえれば、だいぶマシになるとは思いますけどね。

ときどき「なんで技工士になんてなってしまったんだろう」って思います。私は人と接さないで黙々と作業するのが好きな性分なので、仕事内容自体は向いていると思いますが、いかんせん作業に対して儲けが見合わないですね。

それこそ日本で働くことを見限って、自由診療の米国に行った技工士もいますよ。日本だと歯科医師は技工士を下に扱って、言うことを聞くのが当たり前と思っている人も多いですが、米国だと対等な立場で接しているみたいです。

大臣告示の「概ね7対3」はほぼ守られていません。 

次に話を聞いたのは、都内でラボを経営している70代の男性。成り手不足が深刻化している業界について、「保険診療・自由診療にかかわらず、技工士に対する対価が低すぎる。最低でも今の倍は支払われないと…」と憂慮しながら、現状と将来について語ってくれた。

––––「技工士は長時間労働をしないと稼げない」と聞きますが、やはり労働条件は過酷なのでしょうか?

うちの場合は、歯科技工士の資格を取得して初任給が月収22~24万円くらいで、ここから社会保険などが引かれます。業界ではこのくらいが水準となる額ですが、実際には10万円台後半というラボも多いと聞いています。

昔は労働条件が厳しい職場のことを「3K(きつい、汚い、危険)職場」と言いましたが、さらに給料も安い。

––––給料が安い原因は、どこにあるのでしょう?

歯科医師からのダンピングもありますが、それよりも、業界に「働き方を改革しよう」という動きがないのが問題ですね。

私は開業して50年以上になりますが、ここまで続けられたのは、理解のある歯科医師を相手に仕事できたおかげです。そんなうちでも技工料の割合は6対4くらいですから、大臣告示の「概ね7対3」はほぼ守られていません。

––––「入れ歯難民」という言葉も耳にします。入れ歯を作る技工士は実際減っているのでしょうか?

今は、とにかく若い技工士たちが入れ歯に手をつけたがりません。なぜなら、作業に時間がかかるのに、保険でも自費でも単価が安いんですよ。模型作りから始めて、1本の部分入れ歯の義歯を作るのに、だいたい5〜6時間はかかります。

総義歯を作る場合、うちでは技工料が1万2000円くらいですが、これが埼玉県とか茨城県とかに行くと、6000円くらいでやらされてしまう。

そもそも、今の若い方は技工士学校でデジタル技工も習うので、その時点で入れ歯が「単価と労働力が見合わない」とわかってしまう。だから若い世代は、デジタル技工で作る自費の被せ物やインプラントに流れていくんです。

ただ、これらは高額ですし、すべての患者さんが入れられるものではない。高齢化が進む日本では保険適用の入れ歯を希望する患者が多い一方で、その作り手が減っているわけですから、数年後には「入れ歯難民」はもっと増加するんじゃないですかね。

––––入れ歯はデジタル技工では作れないのでしょうか?

入れ歯に関しては、口の中は動いて形が変わってしまうので、現状は機械で作成するのは難しいかと思います。最先端技術をもってしても、今はまだ無理ですね。

そういう意味でも、入れ歯に関しては技工士が「ちょっと単価を上げます」と言っても歯科医師に怒られない状況になりつつあります。通常はデジタル加工のほうが高単価なんですが、手作業の技工の中で、入れ歯に限っては「売り手市場」だということです。これから技工士になる方にとっては、入れ歯に取り組めば儲けられる時代なのかなとは思います。

––––技工士の引退理由としては何が挙げられるのでしょうか? 

一番多いのは、体を壊してしまうというパターンでしょうね。身体的にきついからなのか、精神的にきついからなのかわかりませんが、体を壊してしまう人は本当に多いです。納期に追われたり、お金のことなどいろいろと考えたりしてしまうのが原因かもしれません。

仕事はあるのに、人を使って作業にあたっても儲からない。そうなると、とにかく量を増やすしかなくなりますから。ずっと細かい作業をしていると、目も悪くなりますしね……。

                   ※
われわれの「歯の健康」を脅かす、これらの構造的な問題が解決される日は来るのだろうか。

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取材・文/集英社オンラインニュース班

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