日本人の8人に1人が弱者男性…「キモくて金のないおっさん」は本人の努力不足が原因なのか? 調査で見えてきた「日本の男性の現在地」
集英社オンライン / 2024年7月25日 17時0分
現代の婚活や就活事情に詳しいライターのトイアンナ氏によると、日本人の8人に1人、男性の4人に1人が「弱者男性」だという。
氏の書籍『弱者男性1500万人時代』より一部を抜粋・再構成し、弱者男性とはどんな男性のことを指しているのか、その実態を明らかにする。
日本人の8人に1人は弱者男性
まずはじめに、「弱者男性」という言葉が生まれた時代背景に触れてみよう。急激な社会情勢の変化に伴い、一億総中流と言われた日本は過去の遺物となった。2018年のデータでは、日本人の6人に1人が世帯年収127万円以下の貧困状態にある。
なんと、100人に1人の日本人は、1日210円未満で暮らしている。弱者男性とは、こうした社会の荒波にまぎれ、インターネットから新たに誕生した言葉である。
かれらは、日本社会のなかで独身・貧困・障害といった「弱者になる要素」を備えた男性たちだ。ただし、年収○○万円以下といった数値で厳密に定義されているわけではない。
弱者男性がネットスラングから誕生した言葉であるからには、数字で割り切れる定義を持たないのだ。逆に、「誰が弱者男性か」を数量的に定義してしまうことで、弱者男性の枠から切り捨てられてしまう男性が出てきてしまう。
むしろ、あらゆる男性が持つであろう「弱者性」にハイライトを当てるため、この言葉が生まれたといっていい。
たとえば、年収2000万円の男性がいたとしよう。それだけの年収があれば初見では間違いなく「強者男性」と呼ばれるだろうが、その年収の大半を妻からのDVによって奪われ、本人に経済的自由がまったくない場合はどうだろうか。
そのような男性のことを、決して「強者」とは呼べないのではないか。弱者男性とは、こういったさまざまな事情を抱えた男性を包含する、大きな言葉であることをまず明確に示したい。
このような大前提を置いたうえで、それでもあえて本書では『弱者男性の人口』を推定する。背景には2つの理由がある。まず、多くの人が弱者男性の数を少なく見積もっており「気にするほどでもない数」と、切り捨てている可能性があるからである。
2点目は、本稿を書くにあたり、筆者は500名を超す対象へのアンケート調査、50名以上のインタビューを重ねた。そして、インタビューでは驚くほど「しっかり弱者男性を定義してほしい」との声が上がった。
かれらの多くは「どうせモテないだけの男性が、寝言を言っている」と言われ、過小評価されてきた。そのため、「これ以外は弱者ではない、という切り捨て」は行わないものの、ある程度弱者になり得る要素をカテゴリーとして明記してほしい、という要望があったためである。
結論から書くと、日本には最大1504万人の弱者男性がいる。2022年時点で日本の人口は、1億2494万7000人。うち男性は6075万人。つまり、男性の約24%は、何らかの弱者性を抱えている。「弱者男性」はマニアックな少数派ではない。私たち日本人の、8人に1人の話なのである。
弱者と自認する男性は1600万人
とはいえ、上から目線で勝手に「この条件があるから弱者男性だ」と決めつけるのも望ましくない。そこで、本書では別途15〜99歳の500名の男性へアンケート調査を実施し、男性の何%が「自分は弱者男性だ」と感じているかを確認した。
その結果、男性の約26.2%が自分を弱者だと認識しており、全国民に当てはめると約1600万人が該当することがわかった。推計値と矛盾しない結果である。人口全体では12.8%、つまり日本人の8人に1人、男性の4人に1人が、弱者男性を自認している。
また、自分で自分を弱者男性だと認識する理由の最たるものには「年収が低い、貧乏である」が挙げられており、続いて「友人が少ない」と「人と話をするのが苦手だ」がトップ3に入った。
つまり、男性は自分の年収が低く、さらに人の縁に恵まれないと「自分は弱者である」と認識しやすいと考えられる。
なお、筆者は「男性が、自分を弱者男性だと思っている割合」をそのまま弱者男性の比率とみなすこともしない。なぜなら、男性は自分が弱者であると認めづらい、認めることが恥ずかしいとされる社会の中で育っており、その精神そのものが、弱者男性差別の重要な要素となっているからである。
自分が弱者男性だと感じている方、認められる方「だけ」でも1600万人である。
キモくて金のないおっさん
続いて、弱者男性という言葉が現代社会に生まれるに至った歴史的経緯を押さえておく。そのためにはまず、2015年にネット論客の一柳良悟氏が生んだ「キモくて金のないおっさん(KKO)」という概念について語る必要がある。
この言葉自体がドギツイ響きを持っているが、まずはぐっとこらえて読み進めていただきたい。
「キモくて金のないおっさん(KKO)」とは、容姿に恵まれず、年収が低い中年男性を指すネットスラングであり、先述の弱者男性より先行して生まれた言葉である。略して「キモカネ」と呼ばれることもある。
X(旧:Twitter)上で「オッサンの貧困を最近扱っているけど、驚くほど共感を得られない。性の商品化が問題などと言う人もいるけれど、買えない、売れない、キモくて金のないオッサンのほうがどう考えても詰んでると思うのは俺だけ?」と一柳氏がつぶやいたことが発端となり、一気に世の中に広まっていった言葉だ。
人々の間で「キモくて金のないおっさん」概念が認知されていった背景には、2000年ごろから問題視されるようになった孤独死問題、2008年に起こったリーマン・ショックを経てテレビを賑わせた年越し派遣村問題などがある。
それまで、世間一般から見て「強者」として君臨していた男性が、実は社会的弱者の場合もあることが、少しずつ認識され始めたのだ。
そして近年、「キモくて金のないおっさん」という言葉が差別的であるとして「弱者男性」と言い換えられ、今に至る。だが、そのエッセンスを見失ってはいけない。容姿に恵まれない、お金がない、中年であるといった要素が「キモい」と、軽蔑して扱われるという現実を鋭く切り取ったのが、この言葉だったからである。
そして、「弱者側に追いやられる男性がいる」事実への注目度は、女性や子どもの人権問題と比較して、かなり低い。そして、弱者男性の存在は世の中に認知されてはいるものの、支援の手はあまりないのが現状だ。
その理由に、「かわいそうランキング」の存在が指摘されている。「かわいそうランキング」とは、文筆家・ラジオパーソナリティである御田寺圭氏が提唱した言葉である。
簡単に書くと、人は同じ境遇にある人でも「よりかわいそう」「そうでもない」といった序列をつけている、といった思想である。そして、御田寺氏はかわいそうランキングの下位には弱者男性が置かれているとされ、不平等・不公平な配分がなされてしまうことを指摘した。
というのも、弱者男性は得てして「自助努力が足りないから弱者になった」と言われているからだ。だが、「キモくて金のないおっさん」は果たして、自分のせいでそうなっているのだろうか。
たとえば、両親が大卒だったグループと高卒だったグループに分けたとき、高卒以下の親から育った人の貧困率は大卒グループの約3倍となる。親の学歴は自分で選ぶことができないのに、「金がない」のは自己責任なのだろうか。
あるいは、自分の顔がどうあがいても美しいとは言えず、そのせいで辛酸を舐めてきたとして、それは自分のせいだろうか。新しい服を着て、ひげをそり、眉毛を整えても、毛の濃さや肌の荒れやすさから「美」に近づくコストが高い方はいる。
男女問わず、これを「努力不足」と一蹴してもよいものだろうか。たとえば「百点満点中、60点の美しさ」にたどり着くために、必要なコストが人によって違いすぎるのではないだろうか。特にそれを、貧困や虐待などのストレス下にありながら、実現するのはかなり難しいのではないだろうか。
だが、こういったことを男性が発信することは稀である。SNSで声を上げようものなら「言い訳がましい」「そんなことを言ってる性格だからモテないんだよ」と、加害されるのが関の山だからである。
決して自分のせいだけではないにもかかわらず、弱者男性は社会から、世間からないがしろにされやすい。特に女性と比べたとき、弱者男性はかわいそうだと思われにくい。男性は元来、強者だという前提があるからだ。
結論、キモくて金のないおっさんは、かわいそうランキングの下位に置かれる存在である。だが、同情されにくいからといって、支援から遠ざけられてよいのだろうか。そういう視点から生まれたのが、「弱者男性」という言葉だといえるだろう。
図/書籍『弱者男性1500万人時代』より
写真/shutterstock
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