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「40代後半でカネもない独身のおっさんに人権なんてないんです」年収の価値基準が高すぎる男性社会の地獄とは?

集英社オンライン / 2024年7月26日 11時0分

日本人の8人に1人が弱者男性…「キモくて金のないおっさん」は本人の努力不足が原因なのか? 調査で見えてきた「日本の男性の現在地」〉から続く

「外見」と「年収」に集約されがちな男性の価値基準。歳を重ねるごとに年収に占める比率は増えてくる。

【図】両親の学歴と子の収入の相関図

弱さを語ることもできず、追い込まれていく弱者男性の実態を『弱者男性1500万人時代』より一部抜粋・再構成し紹介する。逃げ場なき男性社会の地獄とは。

収入という「目に見えすぎる上下関係」

臨床心理学研究者の森裕子氏とお茶の水女子大学人間科学系准教授の石丸径一郎氏の論文によると、女性は自分の優位性を示すとき、3つの軸があるという。

伝統的な女性らしさを持つ女性vs自立した地位ある女性vs性的魅力を持つ女性のうち、どれかに秀でていたとしても「でもあなたは○○がないから」と他の軸で自らの優位性を示すことができる。そのため、女性同士の優位性には勝ち負けが表れにくく、競争や格付け争いが複雑化しやすいというものだ。

それに対して、男性の価値基準は概ねシンプルである。

•年収
•外見

総じてこのいずれかである。たとえば、男性が男性に年収を自慢されたとき、「でもお前は育児に参加していないから」と反論しても優位性は誇示できない。また、「お前、100㎏のバーベルも持てないくせに」と肉体的男性らしさをアピールしても、ギャグに映るのではないだろうか。

このように、男性社会における勝ち負けは実にシンプルである。また、年を追うごとに年収の価値も上がっていくため、中年男性においてはもはや「年収」の一極でもよくなってくる。

ところが、このわかりやすすぎる勝敗は「弱者性」と相容れない。負けた側は、勝った側と公平なスタートラインに立ち、能力不足で負けたとみなされやすいからだ。

だが、実際にはそうではない。たとえば、お茶の水女子大学が発表した「保護者に対する調査の結果と学力等との関係の専門的な分析に関する調査研究」によると、親の年収は子の学歴に比例するという。

また、厚生労働省がまとめた「令和4年賃金構造基本統計調査」によれば、学歴別の賃金の平均は、高校が27万3800円、専門学校が29万4200円、高専・短大が29万2500円、大学が36万2800円、大学院が46万4200円である。つまりは学歴の高さと年収にも相関関係があるということだ。結果として、親の年収は子の年収に相関関係があると推測される。

東京大学学生委員会が行った「2020年度(第70回)学生生活実態調査」でも、東大生の親の42.5%が平均世帯年収1050万円以上だということがわかっている。年収アップに手堅い要素である学歴の最高峰においても、親の学歴が相関しているのである。

アメリカのデータでは、起業家の数には「親の年収」と明確な正の相関がある。親の年収が上位15%だと、起業家率がぐっと高くなるのだ。また、成功する起業家の年収は、親の年収と相関することもわかっている。

このように、年収とは親世代から受け継ぎやすいものだといえる。関連を考えても明確で、そもそも経済的に成功した者のもとに育てば、高年収になるコツを身近で学ぶことができる。

学歴を得るための支援も受けやすい環境だ。少なくとも「勉強している暇があったら親の面倒を見ろ」とは言われない。周りにドロップアウトを誘うような仲間も少ない。

奨学金があろうが、支援者がいようが、その情報自体を知らなければ、そしてリーチできなければ意味はない。貧困家庭に育つということは、単純に金銭面だけではなく情報面でのハンディも背負う。だが、現状ではそれが勘案されていない。

弱さを語ることは「男らしくない」

世の中には、弱さを語ることに対するバッシングもある。『男がつらい!』や『非モテの品格』の著者である、批評家の杉田俊介氏は「男の弱さとは自分自身の弱さを認められない弱さ」と語る。

フェミニストはよく、男性が弱さを認められないことから、DVやいじめといった攻撃性に転嫁するありさまを「有害な男らしさ(Toxic Masculinity)」と呼ぶ。

「男性は強くあるべきだ」「男性は泣いてはいけない」など、「男性はこうあるべき」という古い価値観が、男性自身を苦しめるというのだ。男らしさ、女らしさを求める旧来の社会における反省から、「男らしさから降りよう」という提言がなされることは多くあった。

だが、仮にこういった「男らしさ」の有害な側面を認めたところで、現状の日本男性にとって男らしさから降りるメリットはない。実際に降りてしまった後、どうしたらいいのか。結局は生きていく道がなく、逃げ場はない。同性である男性同士でその悩みを分かち合うことも難しい。

その点について、実際にいっとき、男らしいとされる行動から距離を置いた松尾昭一さん(仮名)から話を聞いた。

――男らしさから「降りる」ということについて、どう思いますか。

松尾さん(以下同) 昔は惹かれる面もありましたけど、何もいいことはなかったです。まずモテない。たとえば「男だからって、初デートでおごらなくていい」みたいなことを言う女って、クソだと思うんですよ。

だって初デートで割り勘して、次につながるわけないじゃないですか。そういう提言をしている女だって、おごられるほうがいいんでしょ。というか、そういう男と結婚してるでしょっていう。

そもそも、上位のオス以外に存在価値なんてないんですよ。動物ってそうでしょ。メスに選ばれたオスにしか、子孫は残せないんですよ。メスは強いオスとしかつがいになりたくない。

これはもう真実です。マッチングアプリを開いたら、女はそこから上位の男だけを選んでいいねするでしょ。それでアルファ(上位の男)に遊ばれたとしても、俺みたいな下位の男と寝るより、ずっとマシなんですよ。むしろ俺だったら、金をもらってでもやりたくないって言われるだけですよ。

みんなが結婚できる時代って、終わったわけじゃないですか。恋愛結婚って、動物の世界に逆戻りしたのと同じです。つまり、アルファオスが女を独占して、下位のオスは黙って死ぬしかないんです。

女はそれで、「男はみんな浮気してる」とか言うじゃないですか。俺らのことが見えてないんです。俺らは透明な存在なんですよ。アルファ以外の男は、視界に入らないんです。だから選ばれない。

俺らみたいな下位オスができることって2つしかなくて。ひとつは諦めて死ぬ。もうひとつは自分がアルファになることです。ナンパ師みたいな人たちって、必死で整形して、服全部買い替えて、話術も鍛えてて、すごいですよ。(ナンパ師を)バカにする人もいるけど、結局セックスできてるのはどっちだ、って話なんです。

男性は「男らしさ」から降りられない 

――「女性から選ばれない」ことが、そこまで不幸感につながっているのはどうしてだと思いますか。

40代も後半になったらわかりますよ。毎日同じ仕事をして、割引になった惣菜買って、安い焼酎を買って……って繰り返してみなさいよ。同級生は3人目の子どもが生まれて、家を買って、小学校の卒業式の写真をアップしてるんですよ。

それを見ながら酒を飲んで、ソシャゲのログボ(定期的にゲームを起動することで得られる特典)だけ回収して、クソして寝る。このどこに幸せを見いだせって言うんですか。

今さら趣味のサークルに顔を出したって、公園でただ日向ぼっこしてたって、下手すりゃちゃんと金払って居酒屋で飲んでても、俺みたいなのは不審者ですよ。

いいっすか、独身のおっさんに人権なんかないんです。そこにいるだけで怪しくて、やばいんですよ。だからこのインタビューを見てくれる人には言いたいですね。死ぬ気でスペック上げろ。女を抱け。そうしないと人生終わるって。

松尾さんの言葉には、インパクトがあった。とてもではないが、筆者に否定する力は起きなかった。この数十年で「独り身の女性」の待遇はかなり変わった。

オールドミスなどとバカにされた時代から、趣味や仕事を楽しむ「ソロ活」としての自分を認めてもらえる時代に変化しつつある。さすがに女性一人でディズニーランドや焼き肉店へ入るのは抵抗があるという女性もいるだろうが、たとえ行動したとしても、わかりやすい悪口を聞かされることはない。

それと比較して、独り身の中年男性は確かに冷遇される。通学路、公園、夜道、どこにいても「怖い、危ない」存在に映るからだ。通報されるリスクは高い。

2023年に、Xではこんな話題が出た。「男らしさから降りればいい」と言う女性に対して、ある男性が「だったら、怖い人に絡まれたときに怯えて逃げる男性と添い遂げてほしい」と反論が届いたのだ。それに対して、元の発言をした女性は「それは弱い男ではなく、卑怯な男だ」と切り返した。

だが、そうだろうか。「土壇場では男は女を守るもの。そうでなければ卑怯である」という前提がそこにはないだろうか。女を置いて逃げる男は、男ではないと認識していないだろうか。

そこに、男性が「男らしさ」から降りられない構造がある。そして、未婚であることが社会的に大きなスティグマとなり得る男性にとっては、女性から恋愛対象として“ないわ”と軽蔑されることが、あまりにも大きなマイナスとなるのだ。

もし、本当に「男らしさから降りて」も平等に扱われるなら、降りたい男性は多いだろう。だが、暴漢に脅されて泣きながら女性にしがみつく男性は、モテない。同じシチュエーションでも女性なら立ち向かおうが、泣きつこうが恋愛対象になるのとは対照的である。

念のため付記するが、日本で女性に対する差別がないとは言っていない。ただ、この数十年で女性が「女性らしさ」から少しずつ解放されてきた流れとは裏腹に、男性はまだ男らしさの呪縛に、がっちりと囚われている。

男らしさは構造的な問題であるがゆえに、男性個人が「降りた」と反旗を翻すだけでは、価値観を引っくり返せないのだ。


図/書籍『弱者男性1500万人時代』より
写真/Shutterstock

弱者男性1500万人時代(扶桑社新書)

トイアンナ
弱者男性1500万人時代(扶桑社新書)
2024/4/24
1,012円(税込)
256ページ
ISBN: 978-4594097417

「弱者男性」の75%は自分を責めている。“真の弱者”は訴えることすらできない――。
「40代後半でカネもない独身のおっさんに人権なんてないんです。そこにいるだけで
怪しくて、やばいんです」(本書インタビューより)

1 弱者男性とは誰のことか
日本人の8人に1人は弱者男性/弱者と自認する男性は1600万人/キモくて金のないおっさん/「弱者男性」の歴史的背景/国内統計データから見る未婚男性の不幸度/諸外国との比較/日本で男に生まれたら不幸、さらに未婚はもっと不幸/諸外国でもシングル差別はある/就職氷河期が破壊した男性の結婚願望/透明化される被害経験/支援団体が定める「弱者男性」の定義

2 男性の弱さ
男性は死にやすい/男性は病院へ行くのを渋り、セルフネグレクトへ/男性は3K労働に就きやすい/男性は戦場で兵士になりやすい/男性は女性よりも殺されやすい/男性のASD・ADHD・LDのなりやすさ/男性は遺族年金で差別されやすい

3 弱者男性の声
「男たるもの」に苦しめられ、双極性障害、自己破産へ/一見エリートでも、家族起因で弱者側に追い込まれる男性/年収1000万円のハイスペでも男性が「生きづらい」理由/妻から皿を投げつけられ、涙が止まらなくなった/ごくわずかな弱者男性だけが、女性差別をする/弱さを認めてもいいと知って、救われた

4 弱者男性の分類
SPA!でのアンケートをもとに弱者男性を分類/なぜ弱者男性は自分を責めるのか/弱者性の主なカテゴリー

5 弱者男性になってしまう
弱者性を生む「家族・地域・制度」からの縁切り/コミュニケーション弱者の男性は迫害されやすい/男性は女性と比べて「加害者」になりやすく、孤立しやすい/弱者男性を救いたいと思う者がいない/社会で失敗したときに復活しづらい/SNSで生まれた「高み」の虚像が生む「弱者という実感」

6 弱者と認めてもらえない
女性・子どもという「理想的弱者」の存在/「かわいそうランキング」の最下位/収入という「目に見えすぎる上下関係」/弱さを語ることは「男らしくない」/自分でも自分を弱者と認めたくない/軽んじられる男性の被害

7 弱者から抜け出せない
ガラスの天井に阻まれる女性、ガラスの地下室に落ちる男性/日本人男性の異常な労働時間、労働条件/体を売っても貧困から抜け出せない/階級の固定化:貧困家庭が貧困弱者男性を生む/新卒一括採用で失敗したら復活できない/独身男性が「介護する息子」になる/男性には「玉の輿」のチャンスがない/頂き女子のカモにされる?/宗教も政治も弱者男性を助けてくれない

8 弱者男性とミソジニー
弱者男性=ミソジニストであるという誤解/「それもこれも女が悪い」神話/女性嫌悪集団「インセル」/女性の社会進出と弱者男性に関係はあるか/フェミニズムと弱者男性の食い合わせの悪さ/弱者男性の現状は、かつての女性の姿と重なる

9 弱者男性に救いはあるか
サバルタンは語れない(本当の弱者は訴えることができない)/今ある自助グループの限界/3つの縁のうち「行政」をつなぐ/支援の原則/「弱者です、助けてください」と言いやすい社会づくり/助けを求めるコミュニケーションの訓練/自分が執着する相手との会話/支援者の支援:バーンアウト対策/最後に、弱者男性が訴えた「本当にほしい支援」

巻末付録・推計:日本国内にいる弱者男性の数

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