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映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のダンスパーティ、時代考証が違うギターが使われたワケ…表現の自由を謳歌したエンターテインメントの教訓とは

集英社オンライン / 2024年7月3日 11時0分

1985年7月3日に公開された映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(日本での公開は1985年12月)はSF映画の最高傑作の1作として今なお絶大な人気を誇る。タイムスリップする本作の内容だが、主人公がクライマックスシーンで弾いたギターは製造年代が違うギターが使われていたのだとか…いったいなぜなのか。その理由に迫る。

【画像】時代には合わないはずのワミー・バー付きの赤いギターを求めた映画サイド

1955年にタイムスリップしたマーティが使っていたギターは1960年代に発売

LAにある老舗のギター・ショップ「Norman's Rare Guitars」。オーナーのノーマン・ハリスは、これまでジョージ・ハリスン、ボブ・ディラン、ジョン・フォガティ、ロビー・ロバートソンといったロック界のレジェンドたちにギターを売ってきた。

顧客は音楽業界だけに限らない。時にはハリウッドからも相談が入る。

あの大ヒット映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)のクライマックスのダンスパーティを覚えているだろうか。

30年前にタイムスリップしたマイケル・J・フォックス扮する高校生マーティ・マクフライが、指を負傷したギタリストの代役として、急遽エレキギターを演奏しながらロックンロールを歌うシーン。

初めて耳にするロックンロールに身体が踊り始める1955年の若者たち。それを見て「新しいサウンドが欲しいんだろ?」と言って、受話器の向こうのチャック・ベリーに聴かせるバンドメンバー。

その曲は1958年にリリースされて大ヒットとなる『ジョニー・B ・グッド』。

当時はこの映画に刺激されて、世界中で多くの若者が何度もビデオテープを巻き戻しながら、ギターの“完コピ”に励んだという。

『Back to the Future | Marty McFly Plays "Johnny B. Goode" and "Earth Angel"』Universal Picturesより

ところがよく見ると、マーティが使っていた赤いギブソンのギターは、1960年代になってから発売されたトレモロ・アーム付きの だった。

「1955年という時代考証には合わない」しかし、美術監督はお構いなし

「1955年にタイムスリップする映画に取り組んでいるので、楽器を貸してほしい」

ノーマン・ハリスが映画の小道具のスタッフから、そんな相談を受けたのは1984年のこと。映画に求められていたのは、その当時に少しだけ“近未来的”に映るギターだった。

「すぐに私の中で閃いたのが、ノブの仕様やP-90ピックアップの斬新さがうってつけだと思える<ギブソンES-5スイッチマスター>だった。私は小道具の責任者にそのギターを見せた。彼はそのクールで個性的なデザインを気に入り、抱えていたイメージにパーフェクトに合うと判断した」

には2100ドルの値札がついていたが、その責任者は買取ではなく、週300ドルでのレンタルを要求してきた。

しかし、レンタルされたギターはそのまま9週間が経過。経費がかさむことを心配したノーマンは、そろそろ買い取ったほうが得だろうと提案したという。

ところが「映画に豊富な予算があるので心配は無用」だと、小道具の責任者はその提案を軽く受け流した。

10週間が過ぎると、今度は小道具係が「10週間分のレンタル料を払うので、違うギターを探してくれ」と言ってきた。「ワミー・バーもしくはトレモロ・アームのついた、赤いギターを使いたい」というリクエストが入ったのだ。 

ノーマンはいずれの要望も「1955年という時代考証には合わない」という事実を突きつけた。しかし、美術監督はそういったルールなどお構いなしで、とにかくどんな種類のワミー・バー付きの赤いギターが在庫にあるのかを知りたがった。

「そこで私はギターを何本か挙げた。グレッチ6120を1本と、グレッチ・レッド・ジェット・シリーズのギターを1本と、最後にビグスビーのトレモロ・アームが付いた60年代初頭の<ギブソンES-345TDC>を提案した」

映画に貢献できるのは、“見た目のカッコよさ”?

ノーマンはハリウッドとの映画の仕事で、1975年に『ウディ・ガスリー/わが心のふるさと』で、時代考証に合った適正な楽器を提供して、各シーンに真実味を持たせて大きな貢献をした経験があった。

1955年を描く映画なのに、その時は存在していない楽器を使うことに対して、ノーマンにはどうしても抵抗感がつきまとった。

一方、3本のギターの写真を見た美術監督は、 を撮影に使うことを決めた。時代考証に合わないギターだと念押ししても、美術監督は考えを譲ることはなかった。

そのギターもまた4週間ほど、小道具のトラックに積まれたまま出番を待つことになった。かさむ一方のレンタル料はすでにギターの本体価格の数倍に達していたが、彼らは一向に気にせずに仕事を進めていた。

だから映画がクランクアップした時、ノーマンは正気の沙汰ではないような金額をレンタル料として受け取ることになった。

それからしばらくすると、またしてもスタッフからノーマンに連絡が入り、プロモーション資料用のために撮影したいからと、同じギターを貸してほしいという申し出があった。 はさらに3週間レンタルされた。

まともな神経では考えられないことだったが、それで誰もが満足して仕事はうまく進み、終始丸く収まったという。

映画は1985年7月3日に全米公開されて、そこから世界的な大ヒットを記録し(日本公開は同年12月)、1989年には続編も製作されて最終的に3部作となった。

そして再びノーマンのもとに、「もう一度ギターを貸してほしい」という連絡があった。 と映画は、もはや切っても切れない関係となっていたのだ。

ノーマンが得た教訓は、表現の自由を謳歌した『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のようなエンターテインメントでは、時代考証にそれほど目くじらを立てる必要はないということだった。それよりも見た目のカッコよさのほうが、映画には貢献できるということを学んだ。

それともう一つ。
ハリウッドとの仕事では、物品を貸し出すだけで相当に甘い汁を吸えることを、知ることができたそうだ。

文/佐藤剛 編集/TAP the POP

サムネイル/左:2014年6月25日発売『バック・トゥ・ザ・フューチャー ベストバリューDVDセット』(NBCUniversal Entertainment Japan)、右:Shutterstock

参考・引用/『ビンテージ・ギターをビジネスにした男 ノーマン・ハリス自伝』(リットーミュージック)

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