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200億円の公的資金期限内返済を半ばあきらめた「じもとホールディングス」…、ゾンビ化する傘下の「きらやか銀行」救済に未来はあるのか?

集英社オンライン / 2024年7月3日 8時0分

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山形県のきらやか銀行と、宮城県の仙台銀行が経営統合して誕生した、じもとホールディングスが異例の事態に見舞われている。公的資金の注入によって国が保有していた優先株が、無配転落によって普通株へと転換。6割超の議決権を握られ、実質的に国有化されてしまったのだ。2024年9月に200億円の返還期限を迎えるが、返済延期の協議を行っている。この問題の核心にあるのが、きらやか銀行だ。

【図を見る】2024年3月期に大幅に増えたきらやか銀行の234億円の純損失

もはや借り換えにも近かった3度目の公的資金注入

じもとホールディングスは3回の公的資金注入を受けてきた。1回目がリーマンショック後の金融危機にあった2001年に200億円、2回目が東日本大震災で被災した企業の復旧を目的とした2012年の100億円、そしてコロナ禍で影響を受けた会社を支援する特例制度を活用した2023年の180億円だ。そしてすべての資金は、きらやか銀行に投入されている。

ポイントは、きらやか銀行が1年前に180億円もの公的資金の注入を受けていたことだ。これについては、今年9月に1回目の200億円の返済が迫っていたことから、実質的な借り換えだとの批判もあった。

半ば国が救済した形だが、きらやか銀行は返済に行き詰った。わずか1年で180億円の血税を“溶かした”に等しい。この銀行に何があったのか。

じもとホールディングスは2024年3月期に234億円の純損失を計上している。2023年3月期は70億円の純損失だった。このほとんどが、きらやか銀行の損失によるものだ。仙台銀行は安定的に黒字を出している。

赤字の主要因の一つが貸倒引当金だ。

貸倒引当金とは、銀行が貸し付けた資金が回収不能になった場合に備え、あらかじめ積み立てるもの。債権の額に対して適正な比率の引当金があれば、融資先が大量に倒産して不良債権の山ができても危機が回避できる。

ただし、貸倒引当金は会計上、負債として扱われ、前もって費用として計上する必要がある。

きらやか銀行には国が保有する優先株の配当があるため、安定的に利益を出さなければならない。少なからず引当金を回避するという力学が働いた兆候を見出すことができる。

引当金が不十分で保全率が低い

きらやか銀行は新型コロナウイルス感染拡大が起こる前の2018年3月期、2019年3月期は貸倒引当金を計上していない。

貸倒引当金には個別の債権者ごとに見積もった個別貸倒引当金と、過去に回収不可能になった貸倒損失債権の割合に基づいて計算する一般貸倒引当金の2種類があるが、そのどちらもないのだ。不良債権処理のみを行っている。

その一方で、仙台銀行は2018年3月期に5億8900万円、2019年3月期に5億3100万円の引当金を積んでいる。

この違いは2社の保全率によく表れている。保全率とは、不良債権の残高に対して担保・保証によって回収が見込める分と、引当金によってリスクヘッジができる割合のことだ。

数字が大きいほど、安全だということになる。2019年3月期のきらやか銀行の保全率は72.0%。仙台銀行が92.4%だ。他の地銀と比較しても、きらやか銀行の数字は段違いに低い。

きらやか銀行の保全率は2021年3月期に62.3%まで低下した。コロナ禍の2021年3月期に、きらやか銀行は新規融資対応として849億円もの融資を行っている。そのうち767億円は保証協会制度融資によるものだが、81億円はプロパー融資で対応した。 

10年前倒しで計上した引当金で本当に十分なのか?

十分な審査能力があるのかという疑問もある。2024年3月期のきらやか銀行の不良債権比率は6.58%。仙台銀行が3.38%だ。山形銀行は1.20%、荘内銀行は2.16%である。県内の銀行と比べても著しく高い。

きらやか銀行の審査能力を象徴するのが2023年に発覚した、優良貸付先の一つだったトガシ技研の粉飾決算だ。トガシ技研は産業用ロボットメーカー。
 

業績は堅調だったが、過剰な設備投資や半導体などの部品調達が滞って製品を納品できず、資金繰りが悪化。2022年7月に民事再生法の適用を申請。架空売上が発覚した。負債総額は56億円に及んでいる。

2024年に入ってからも、きらやか銀行の貸付先である、スーパーマーケット運営の郷野目ストア、鎌田工務店、丸伸建設などが立て続けに倒産している。

こうした状況に危機感を抱いたのか、きらやか銀行は2024年3月期に185億円もの貸倒引当金を計上した。10年間で計上予定だったものを、一括計上したのだ。しかし、保全率は83.6%(仙台銀行は93.9%)と依然として低い。

結局のところ、これまでの十分とは言えない備えと審査能力が祟って大赤字を出し、それを180億円という公的資金で穴埋めを行ったことになる。そしてそれは血税なのだ。それでもなお、保全率が不十分という状況だ。

東北のゾンビ企業は増加中

帝国データバンクによると、2023年の全国の倒産件数は8497(「全国企業倒産集計2023年報」)。前年比33.3%の増加だ。増加率はバブル崩壊後で最も高い。同社の調査では、2023年のゾンビ企業も25万1000社に及んでいることが分かっている(「「ゾンビ企業」の現状分析」)。前年比17.1%上昇した。

ゾンビ企業とは、事業利益で利息の支払いがしきれない状態が続くことであり、実質的にその会社を金融機関が支えていることになる。エリア別ゾンビ企業の割合を見ると、東北が21.3%でトップに立つ。震災で金融支援を受けた会社が多く、借入負担が重いのだ。

そこにコロナ禍の金融支援が行われたのである。

山形県知事の吉村美栄子氏は、公式ホームページにて「新型コロナウイルスが3年以上にわたり、県内事業者に深刻な影響を及ぼし続けた中、県内金融機関は、事業継続に必要な資金を供給するなど、事業者に寄り添った支援を継続して来られたと認識しております。」とコメントしている(「きらやか銀行の政府の資本参加の申請決定に対する知事コメント」)。

確かに、地銀は中小企業を資金面でバックアップするという重要な役割を担っていた。しかし、現在は楽天銀行や住信SBIネット銀行などのインターネット銀行で事業資金を借り入れることができる。わざわざ来店する必要はない。

きらやか銀行は経営強化計画において、コンサルティング部門を強化し、融資先の課題解決や事業再生に向けた経営改善、支援に努めてきたと強調する。

つまり、資金の出し手としてではなく、コンサルティングを行うことで企業の発展に力を貸しているというわけだ。しかし、きらやか銀行の不良債権比率を他行と比較すれば、それが劇的な成果として表れていないのは明らかである。

じもとホールディングスは、4月26日に国と協議を開始したと発表している。返済期限延長の線が濃厚だろうが、返すべき資金はそれだけに留まらない。ステークホルダーだけでなく、国民が納得できる説明が必要だ。

取材・文/不破聡

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