〈警察官の胸をハサミで何度も…〉「ふざけんじゃねえよ」殺人未遂で逮捕された路上生活の女は公園からあぶれたトラブルメーカー。背景に再開発で苦境に立たされる「新宿の路上生活者事情」
集英社オンライン / 2024年7月2日 11時0分
JR新宿駅の地下1階にある西口交番付近で、男性警官に向かってハサミを突きつけ、馬乗りになって何度も胸を刺し……そんな凶行に走ったのは、ここで長年にわたり路上生活をしている52歳の女だ。その後、駆けつけた別の警察官が身柄を確保し、警視庁新宿署は27日に殺人未遂の疑いでこの女を逮捕した。
路上生活者が生活する公園の付近で“税金の無駄遣い”と叩かれた新宿・東京都庁のプロジェクションマッピングがこの日もピカピカと輝いていた
「警察官とは日常的にトラブルになっていた」
事件が起きたのは、27日午前5時15分ごろ。きっかけはこの女に対する、男性警察官の職務質問だったという。
「JR新宿駅の地下にある西口交番に勤務する男性警察官が、以前からこの付近で路上生活している52歳の女に声をかけたところ、数分にわたって話をしたのち、女がハサミを取りだして突きだしてきた。
そこで危険を察知した男性警察官が距離を取ろうとすると、横転して後頭部を打って意識を失った。男性警察官が倒れたとみるや、この女は馬乗りのような体勢になり胸をハサミで複数回突き刺そうとしたが、防刃ベストを着用していたためかすり傷で済んだ」(社会部記者)
その後、通報を受けた西口交番の警察官が手に血の付いた女を発見。声をかけたところ「ハサミで(男性警察官を)刺した」と話したため、警視庁新宿署は同日午後に殺人未遂の疑いで女を逮捕した。
同署の調べに対して、女は「ハサミで刺したことは間違いない。殺してやるという気持ちもあったと思う」と容疑を認めているという。
早朝の新宿駅で凶行に走ったこの女は、界隈ではよく知られた存在だった。事件現場の近くで働く50代男性は「とにかく感情の起伏が激しくて、毎日のように騒いでいた」と語る。
「彼女はいつも階段の横スペースに車椅子を停めて、そこに座りながら編み物をしていました。外見は、白髪交じりのおばあさんという感じですね。基本的には静かなのですが、感情の起伏が激しいといいますか、一日に何度か『ワー!』って騒ぎだすんです。
べつに誰かに対して罵声を浴びせるとかではなく、独り言で『バカ野郎!』とか『ふざけんじゃねえ!』とか汚い言葉を叫んだり、なにを言ってるのかわからない奇声も発していました」
新宿駅を巡回する警備員の男性も、ふだんからこの女の存在には手を焼いていたという。
「誰に対してなのかわかりませんが、とにかく毎日のようにキレ散らかしていました。この辺り(=新宿西口の地下)は終電近くなると、雨風がしのげるので多くのホームレスが集まるんですけど、そうした同じような生活をしている人たちにも『バカ野郎!』と怒鳴っている姿を見たことがあります。
ベビーカーのように車椅子を押しながら一人で奇声をあげていることもあった」
また、現場付近で働く40代女性は、事件以前から女が警察とトラブルになっている光景をたびたび見かけていたという。
「あの車椅子の女性は、基本的には静かに過ごしているのですが、警察の方に声をかけられるたびに激昂していました。
『お母さん、ここにはいちゃいけないんだよ、知ってるでしょ?』みたいな感じで注意をすると、『うるせえ!』とか『ふざけんじゃねえよ!』と怒りだすんです。
テレビの報道では『殺してやるという気持ちがあった』と話しているみたいですが、警察の方とは日常的にトラブルになっていたので、それが原因なんじゃないかなと思います」
界隈のホームレスたちからも“厄介者”扱い
事件現場となった新宿駅西口の地下1階は、路上生活者が夜間に寝泊まりすることで知られていた。
2ヶ月間にわたって新宿の路上生活者と衣食住をともにした経験のある、「ルポ 路上生活」(KADOKAWA)著者の國友公司氏はこう語る。
「もともと新宿区には路上生活者が多いことで知られていて、今からおよそ10年前までは、都立戸山公園や新宿中央公園にはブルーシートやテントを張って寝泊まりする人たちで溢れていました。
そして現在、路上生活者にもっとも人気のスポットが、都庁の第一庁舎と第二庁舎の間にある『ふれあい通り』。ここでは寝泊まりしても注意されず、定期的にボランティアが差し入れや炊き出しを行なうため、20人近くの路上生活者が『定住型ホームレス』として段ボールの家で暮らしています。
しかし、これ以上の人数は住むことができないため『ふれあい通り』にあぶれてしまった路上生活者が、この付近で寝泊まりしているんです」
新宿西口の地下で寝泊まりしても注意されない時間帯は、夜11時から朝5時まで。気温の高いこの季節でも、およそ20~30人の路上生活者が寝どこを求めてやってくるのだが、その界隈でもこの女は“厄介者”として知られていたようだ。
路上生活歴6年の80代男性は「あの女はみんなから嫌われていたよ」とバッサリ言う。
「オレがあの女を見かけるようになったのは今から4年前くらいかな。この広場(=新宿駅西口の地下)は寝泊まりできる時間が決まってるというのに、あの女だけはルールをいつも無視してたの。
オレたちは昼間は新宿中央公園の方で時間をつぶしてるというのに、あの女だけは一日中この広場にいたから、毎日のようにお巡りさんに注意されてたね。
それでも最初のころは、炊き出しで余ったお弁当とかおにぎりを差し入れてあげてたんだけど、渡しても『ありがとう』の一言もないし、NPOから差し入れされたご飯も気に入らない具材が入ってるとポイっと捨てちゃう。
だからオレたちも数年前からはあの女とは距離を置いてた。今回の事件でここまで寝泊まり禁止にされたら本当に困るよ」
新宿駅西口は、2022年10月から大規模工事に着手。モザイク通りなどを含む、小田急百貨店などの跡地にはおよそ260メートルの超高層ビルが建てられる予定だが、前述の男性は「その影響で、駅前(西口ロータリー)に屋根がある場所が減って寝る場所が少なくなった。今はホームレスも生きづらい時代だよ」と愚痴をこぼす。
一度は福祉に頼るも出戻りしてしまうホームレスたち
実際に、東京都が発表した「路上生活者概数調査」によると、令和6年(2024)6月時点での都内23区の路上生活者数は372人で、令和5年(2023)8月時点の385人よりも13人減少している。
だが、「数字の上下はあれど、路上生活者はいなくならないのが現状です」と語るのは、前出の國友氏だ。
その理由としてあげられるのが、路上生活者の”気質”にあるという。
「路上生活者が生活保護を受ける場合、すぐにアパートなどに入居するのは難しいため、まずは一旦、社団法人などが運営する『無料低額宿泊所』への入所を案内されるケースがほとんど。
こういった施設は相部屋が多く、集団生活を余儀なくされるわけですが、もともと彼らは集団生活を営むことが得意じゃないからこそ社会に馴染めず、ホームレスになっている側面もあります。
関与する行政によっては簡易宿泊所に入る人も少なくありませんが、その場合も同じような元・路上生活者など人付き合いが苦手な人が集まるわけですから、そうした生活に耐えきれずに元の生活に戻ってきてしまう。
また、路上生活者を受け入れる施設のなかには『貧困ビジネス』と呼ばれる、ホームレスから搾取している団体もあります。6人1部屋のタコ部屋に押し込まれ、食事や家賃などは生活保護費から天引きされるため、手元には2万円ほどしか残らない。
そうした話が路上生活者に伝わり、福祉に対する悪いイメージが広がっているのも理由のひとつでしょう」
28日夜、都庁の第一庁舎と第二庁舎の間にある「ふれあい通り」を訪れると、ガード下には段ボールでできた自作の“家”がズラリと立ち並んでいた。
寄付金を集めるためだろうか、通りに腰かける男性は自作の賽銭箱を抱えており、近くを通ったサラリーマン風の男性に「お願いします」と頭を下げている。
なかには、「MONEY BOX」と書かれたカゴをぶら下げている家もあり、その上に「日頃よりご支援感謝します」というメッセージボードまで掲げていた。
通りでタバコをふかしていた路上生活歴3年の60代男性は、「一度は福祉に頼ったけど、耐えきれずにこっちに戻ってきたんだわ」と話す。
「ちょうど1年前くらいかな? 生活保護を受けるってなって四畳一間のアパートに住んだことあるけど、ありゃダメだね。ドアにカギがかからないほどボロかったし、それが原因で何度か空き巣に入られたから。
金はいつも持ち歩いてるから大丈夫だったけど、充電ケーブルとかポットは盗まれた。どうせ犯人は同じアパートのヤツだと思って、それで『盗んだモノ返せ』と言ってもトボけるもんだから、殴り合いのケンカに発展したこともある。
福祉(の担当者)に相談してもカギの件は応じられないとか言うから、それでムカついてこっち(新宿)に戻ってきたんだわ。
やっぱりここが一番ラクだし、誰にも気をつかわなくていいからね。こうやって生活してると、炊き出しとかおにぎりももらえるからメシにも困らないし」
「ふれあい通り」からほど近い東京都庁の壁面には、この日も色鮮やかなプロジェクションマッピングが映し出されていた。
取材・文・撮影/集英社オンライン編集部ニュース班
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