〈65歳の平均は約50秒〉片足立ちができないなら、疑うべきサルコペニア肥満、認知症…体の老化状況を把握する、診断の仕方
集英社オンライン / 2024年7月14日 10時0分
〈「2000歩で寝たきり」「5000歩で心疾患や脳卒中」最新研究で判明した病気を予防する歩数の目安。しかし、12000歩は…〉から続く
抗加齢医学研究に長年携わってきた伊賀瀬道也氏は「一生歩けるためには、体のバランスをとることが重要である」という。そこで今回は自宅で簡単にバランス力をチェックできる方法と、バランス力がない場合に疑うべき病気について教えてくれた。
『百歳まで歩ける人の習慣 脚力と血管力を強くする』(PHP新書)より、一部抜粋・再構成してお届けする。
65歳の集団では片足立ちの平均は約50秒
私は、一生歩けるためには、体のバランスをとることが重要であると考えています。体のバランスである平衡機能を医療機関で評価する場合には、多くは重心動揺計を用いた重心動揺測定を行います。
ですが、この検査は、重心動揺計を常備している施設でしか行えないという難点があります。そこで、検査の場所を選ばず、短時間で測定できる検査として「開眼片足立ち診断」があります。
加齢にともない、バランスをとるための「体性感覚」(自分の体がいまどのような状態にあるのかを認識する力)に関与する受容体(レセプター)の数が減少するという報告があります(「エクスペリメンタル・ブレイン・リサーチ」2001年)。
開眼片足立ち診断は、体性感覚の一部をあえて失わせた状態にするテストで、体性感覚に加えて、筋・骨格系、神経系などの低下を評価するための総合的な指標と考えられています。
《開眼片足立ち診断をやってみよう》
①転倒リスクを避けるために、壁から50センチメートル程度離れて立ちます。
②両目を開けて、両手を楽にして、左右どちらかの足を上げます。
③床に着いている足がずれるか、体の一部が床や壁にふれたら終了です。
こうして、2回測定し、時間が長かったほうを記録します。私たちのデータでは、平均年齢65歳の集団では、片足立ち時間の平均は約50秒でした。
大腿筋の断面積がサルコペニアの指標
歩くために重要な筋肉ですが、加齢とともに体の筋肉量は減っていくことが知られています。この現象を「サルコペニア」と呼びます。
私たちは、サルコペニアを評価する筋肉量の指標として、大腿筋の断面積を使っています。
大腿筋の断面積は、鼠径部から膝蓋骨上縁の中点を大腿中部とし、この部位のCT画像をもとに、医用画像ビューアシステム「OsiriX(オザイリクス)」を用いて、CT値0〜100HU(CT値の単位はハンスフィールドユニット)を示す領域を筋肉として計測します。
大腿筋の断面積は、総面積とともに、膝を伸ばすときに働く筋(伸筋)である大腿四頭筋のみの断面積(四頭筋断面積)と、ハムストリングスを代表とする大腿を曲げるときに働く筋(屈筋)群の面積(非四頭筋断面積)を区分した、左右の平均値を測定したものも用いています。
内臓肥満も体のバランスに大いに関係している
サルコペニアに加えて、歩くための体のバランスをとれるかどうかには、内臓肥満も大きく関係しています。
内臓肥満の評価のために現在よく使われるのが、へその高さのレベルでのCT画像をもとに算出される内臓脂肪の面積です。
内臓肥満については、メタボリック症候群の診断基準でも用いられる「内臓脂肪の面積が100平方センチメートル以上」としています。
そこで、大腿筋の断面積と内臓脂肪の面積が、姿勢の不安定性の指標である「重心動揺総軌跡長」(重心点の総移動の距離)と関連するかどうかを多変量解析を用いて解析しました。その結果、大腿筋の断面積と内臓脂肪の面積は、独立して重心動揺総軌跡長との関連がみられました。
このことから、大腿筋の断面積の低下と内臓脂肪の面積の増加は、ともに重心動揺総軌跡長を延長することが示唆されています。
正常群、サルコペニア群、内臓肥満群、サルコペニア肥満(サルコペニアに加えて内臓脂肪の面積が100平方センチメートル以上ある場合)群の四つの群において、それぞれの重心動揺総軌跡長の比較を行った結果、四つの群のあいだに明らかな差が認められました。
さらに、サルコペニア肥満群は、正常群と比較して、明らかな総軌跡長の延長を示したことから、サルコペニア肥満では体のバランスを保つことがむずかしくなり、片足立ちの時間が短くなるものと考えています。
片足立ち時間が短いと骨が衰えている
健康診断では、骨密度が骨粗鬆症の診断のために使われるようになりました。厳密には、DXA法という放射線を使った方法で骨密度を測定します。
若年成人(20〜44歳の健康な人)の骨密度の平均値を100パーセントとした場合に、あなたの骨密度が何パーセントにあたるかの指標を、YAM値(若年成人平均値)といいます。YAM値が70パーセント未満の場合は、骨粗鬆症と診断されます。
私たちの健診では、レントゲンは使用せず、定量的超音波測定法(QUS法)という方法で踵部の超音波伝搬速度を測定します。QUS法の利点は、短時間で行えて、被曝の影響がないことです。データでみると、QUS法と年齢とのあいだには、男女ともに負の相関が認められました。
さらに、片足立ちの時間を20秒ごとに四つの群に分けて、踵骨超音波伝搬速度(SOS)との関係を検討しました。
それによると、片足立ちの時間が60秒未満の三つの群では、60秒間立てる群にくらべて、男女ともSOSが低値で、片足立ちの時間が短いと骨が衰えていると考えられます。
軽度認知症の10パーセントが認知症になる
私たちは、認知機能と片足立ちの時間との関連も検討しています。具体的には、抗加齢ドックを受診した人のなかで、明らかに脳血管疾患の既往がない390人を対象としました。
私たちのドックは健康な人が受診しており、認知症の人はいませんが、正常と認知症の中間と考えられる軽度認知障害と評価される人はいます。軽度認知障害と判定され、何もせずに経過をみると、10パーセントが認知症になるといわれます。
私たちは、正常と判定された人と、軽度認知障害と判定された人とで、片足立ちができる時間を比較しました。その結果、正常なグループでは平均50秒間できていましたが、軽度認知障害のグループでは40秒程度になっていました。
MRI(磁気共鳴画像)で脳の縮み具合(萎縮度)をみると、萎縮度が強い人は片足立ちの時間が短くなっています。そこで、外来を受診中のアルツハイマー病の患者さんに片足立ちの時間を測定してもらうと、平均して20秒未満という結果が出ました。
文/伊賀瀬道也 イラスト:瀬川尚志 写真/Shutterstock
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