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〈都内最安級〉1杯200円にこだわる“そば屋”が成り立つ理由。店主が明かす月収100万円超えから転身「値上げをしない理由の一つは…」

集英社オンライン / 2024年7月6日 11時0分

物価高騰による値上げラッシュが止まらない。マクドナルドや吉野家など大手飲食チェーンも値上げを繰り返し、消費者から悲鳴があがっている。そんな中、東京23区内で驚きの安さで経営しているそば屋を発見した。

【画像】50円メニューがズラり… ありえないほど安いトッピングの数々

1杯200円 激安のそば屋を直撃取材

東京都江東区のJR潮見駅から歩いて5分ほどの場所に店を構えているのが、「立喰そば 大むら」。看板を見てビックリ、なんと、そば・うどんを1杯200円で提供している。店内はまだ新しく清潔感があって、とても激安価格でそばを出す店とは思えない。

しかし店の壁に貼ってあるメニュー表を見ると、「ひとくちカツ 50円」「コロッケ 50円」「白身魚フライ 50円」「きつね 50円」「かきあげ 100円」「かき氷 200円」「缶ビール 250円」などなど、まるで10年、20年前にタイムスリップしたかのようなラインナップだ。

いったいなぜ、ここまで安い価格で店を開いているのか、そもそもこれでやっていけるのだろうか、店主の大村好圭さんに店の成り立ちを聞いた。

「18歳から65歳くらいまでトラック運転手をしていまして、7年前にこの店を開きました。20年くらい前からそば屋をやりたいと思っていたのですが、その時は家族に大反対されてしまって……。

そして8年前、トラックが壊れてしまったのを機に、ドライバーを引退して夢だったそば屋を開く決心をしました。しかし店をオープンするまでは女房にだけ話していて、親や息子らには一切話をしていませんでしたね」(大村さん、以下同)

全国各地をトラックで走り回っていた大村さんは、道中で出会うそば屋に惹かれ、「自分の家の近所にもこんな店があればいいな……」と思い立ったという。しかし店を開くまでの道のりは険しかった。

「店の準備をしていた8年前頃、身体を悪くしていたうえ、体重も95キロくらいあって杖をついて歩いていました。そこから手術をして、プールで歩くなどの運動をして、4カ月で22キロ落としたところ、身体もよくなったのでようやく店を開くことにしました。オープン初日はなんの宣伝もしていなかったこともあってそれなりの客入りだったのですが、驚いたのが二日目です」

どこから評判を聞きつけたのか、なんと店の前まで列ができていたというのだ。

材料高騰で、売れば売るほど赤字になったメニューも

「この時はゾッとしてしまいましたね。まだ評判が出回るどころか味すら知らないはずなのに……。14時に店を閉めてからも人が来ていたようですが、当時は看板すら出していなかったので、お客さんは営業が終了したことすら知らず、あちこちを歩き回ってしまったようです。そこでその日の晩、急遽、看板を作ることにしたのです」

こうして無事(?)、ロケットスタートを切ることに成功した「大むら」だが、営業から7年、何度も繰り返される物価高騰が店を襲った。ワカメや油は、開店してから間もなく、仕入れ値が2倍になり、長らく値段の変動がなかった卵や米も、この数年で一気にあがってしまった。

「卵と米は優等生だったんですけどね……」と大村さんは肩を落とすが、それでも値上げを検討することはなく、開店当初からの“1杯200円”を貫いている。

「最初、そばを卸してくれている世田谷の製麺所の方が店を視察に来たのですが、『大村さん、これはできませんよ』とあまりの安さに驚いていました。それでも、そば屋を開くきっかけとなった、“近所にこんなそば屋があればいい”という思いから、値段は変えませんでした。

もちろん、客の立場として考えても、『安ければ行く』と思ったのもあります。まあ、10円、20円くらいの値上げをすればいいのかもしれませんが、計算がめんどくさいので、50円単位の値段設定にしているというのも、値上げをしない理由の一つですかね」

店の名物である100円の春菊天は、12枚作るのに1時間もかかっている。これによって、他の店では味わえないフワフワ感を実現しているが、あまりにも時間がかかるために、首を痛めてしまい、今では春菊天を作る際はコルセットが必須。さらに休み休みで、なんとかできている状態だ。

だが昨年夏、一時期この春菊天を販売中止していた。理由は身体ではなく、こちらも値段が高騰し、原価が1枚130円ほどになってしまったのだ。時間がかかるうえに、売れば売るほど赤字とあれば、中止も当然だ。

 代わりのメニューとして、山菜やメンチカツを販売したが、これも決して原価が安いわけではない。最近では、お客からすら「値上げをすれば?」とすすめられるが、大村さんは「値上げをしたら文句を言うでしょ?(笑)」と返し、頑なに値段をあげようとしない。

月収100万円を稼いでいたことも……

「最近は仕入れにいく度に怖いですよ(笑)。利益に関してはまあ、家のローンがあるわけでもないので、『1日5000円稼げればいいや』という気持ちでやってますね。仕事をしていれば貯金は減っていかないし、孫になんか買ってあげることもできます。

さらに飲食店をやっているメリットとして、息子・娘家族にご飯を食べさせてあげることもできる。この前も孫がやってきたので、大きいトンカツを5枚あげました(笑)。そういうのが楽しいんですよ」

大村さんが目指すのは自分の理想とする立ち食いそば屋。営業時間は妻に手伝ってもらっているが、それでも日々、休む暇がないほど忙しく、原価率が高いので儲けはそれほどでない。トラック運転手をやっていた頃は、月に100万円以上稼いでいたが、そば屋は“売り上げ”だけとっても、月に100万円もとどかない。

なぜここまで大変な思いをしてまで、店を続けられるのだろうか。

「自分がやりたくてやったことですからね。あと店をもっていると、息子や娘家族に“場所”を提供することができます。店が休みの日は、自由に店を使ってもらい、そこで焼肉などバーベキューをしたりしてますね。

飲み物やアイスなどは自由に店のものを食べさせてあげています。家族で焼肉にいくとお金がかかるけど、ここなら安上がりになるでしょ? 後片付けも楽です。最近は私の弟や、弟の息子家族なんかも来たりします。私が元気なうちは、ここにみんなが集まってくれる。それが1つのモチベーションになっていますね」

今年は、妻とのバスツアー旅行や、息子家族との旅行など、楽しみが盛りだくさんだという大村さん。都内最安クラスのそば屋の裏には、都内最高クラスの家族の温かみがあった。

取材・文・撮影/集英社オンライン編集部 

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