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インバウンドへの「二重価格」導入がもたらす思わぬデメリット。「制度浸透で物価上昇が加速する」は本当か?

集英社オンライン / 2024年7月10日 8時0分

円安が続く日本で、訪日外国人と日本人・在留資格を持つ外国人の間で異なる価格設定をする「二重価格制度」の議論が盛り上がっている。二重価格が今後導入されるとしたら私たちの生活はどう変化するのか。日本の消費者に関わる法律にくわしい日本女子大学名誉教授の細川幸一氏に話を聞いた。

【画像】入場者の約30%が外国人だといわれている日本の名城

円安による観光客急増で「二重価格」についての是非が問われる

円安が続き、外国人観光客が増加し、オーバーツーリズムが問題化している日本。そんななか昨今議論されているのが「二重価格」の是非だ。

「二重価格」とは1つの商品に2つ以上の異なる価格を設定することで、現在日本で注目されているのが、日本人よりも外国人観光客の価格を高く設定するという「外国人観光客向けの二重価格」の導入だ。

例えば兵庫県の姫路市にある観光名所「姫路城」の入場料をめぐって、姫路市の清元秀康市長は、外国人観光客と日本人の間で価格に差をつける考えを示し、入場料の見直しを検討すると発表した。

入場者の約30%が外国人観光客だという姫路城は、オーバーツーリズム(観光公害)の影響が顕著であるため、観光客からの収益を城の維持や修繕費用として充てると市長は説明している。

二重価格についてネットでは〈導入してもいいのでは。世界を見渡しても、外国人料金の設定があるのは珍しくはないですよね。交通費や入場料やら〉と賛成の声がある一方、〈これって外国人差別にならないの?〉と問題視する声も見られている。

一方、海外の文化財や公共施設では二重価格が導入されているケースは多々ある。

例えば、カンボジアの名所であるアンコールワットは、外国人観光客の1日入場券が37ドル(約6000円)で、カンボジア国民は入場無料となっている。この背景には観光客による混雑を抑える目的や、観光サービスの財源確保などがあるようだ。

では日本における二重価格の導入はどこまで可能なのだろうか。今回は二重価格による影響について考えていきたい。

厳密な“二重価格”は足踏み、しかしサービス料として…

日本における二重価格はどれほど進んでいるのか、その現状について細川氏が説明する。

「現在の日本において二重価格を厳密に実施しているところは少ないでしょう。実施しているとしても、“接客の手間がかかるからサービス料として徴収する”など、外国人というだけで差別的に価格を設定しているわけではないことを前提とした理由付けをしている場合がほとんどです。

やはり“外国人だから高くする”というシンプルな理由で実施することは、世間から批判されるリスクをはらんでいるため、設定に踏み切れない店や施設が多いのではないでしょうか」

東京・渋谷区にある海鮮食べ放題の店「玉手箱」では、通常価格を7,678円とし、日本人と在日外国人の場合はそこから1,100円割引の6,578円で食べられるのだ。

店長によると、観光客に対して食べ方の説明などで接客に時間がかかることを理由に異なる値段設定をしたという。しかしこうした外国人価格を設定する店舗は国内でも珍しく、観光地の多くの店では完全な二重価格には踏み切れていない状態なのだ。

観光国として魅力を失いかねないデメリットあり

「日本人は安く買えて、店の利益も上がって一石二鳥」というように、日本国民にとってメリットが多いように思えてしまう二重価格だが、なぜ今議論が活発になっているのだろうか。

「二重価格について、自国民が安く買えたり、店の利益が上がったりするというようなメリットから二重価格を導入すべきだという日本人の方も多いですが、実はこれは一時的なメリットにすぎません。

現在SNSなどが発達している関係で、店の評判などはネット上で言語の壁を越えて瞬く間に拡散されます。“外国人だけに高く売る店”という悪いクチコミが広がれば、観光客が来なくなってしまうというデメリットもあるんです。二重価格は一見メリットが多いように思えても、長期的に見ればむしろ観光立国としての集客力を失いかねないものなのです」

続けて細川氏は二重価格導入の難しさについてこう語る。

「例えば、外国人に人気の日本カルチャーをコンセプトにした商品やサービスを開発し、観光客向けに値段を高く設定するようなお店ができたとします。

こうした“いかにも日本らしい”要素を集めた観光地を楽しむ観光客ももちろんいますが、旅の醍醐味として、現地の日本人が通うような“(意図的に作られた空間ではない)ローカルな場所”を求めて来る観光客もたくさんいるのです。

現地の暮らしぶりを肌で感じたい観光客にとっては外国人向けサービスに魅力を感じないこともあるため、需要がそこまで見込めないという可能性も出てきます。外国人向けに価格設定をするということはそう簡単なことではなく、需要や流行など考慮すべき要素が多くあるのです」

もし二重価格を導入したら…私たちの暮らしはどうなる?

二重価格の導入は簡単にはいかなそうだが、そうは言っても外国人観光客が急増する今、需要に合わせた経営で利益を上げたい店も多いはず。今後二重価格が浸透した場合、観光地に暮らす人々の暮らしはどう変化するのか。

「もし二重価格が定着し、それでも外国人客が押し寄せる状況になれば、店側としては安い価格でしか買ってくれない日本人を排除する動きが出てくるかもしれません。

そうなると観光地の物価は外国人ベースのものになり、物価上昇が加速するなど、日本人の生活を脅かす状況にもなり得るでしょう」

――年々、外国人観光客が増えるとともに議論され続けている二重価格。「日本人は安く買えて、店の利益も上がる」というメリットだけではなく、その裏には外国人観光客からの反発や日本のイメージ低下、さらなる物価上昇など、さまざまなリスクが潜んでいた。

短期的なメリットを追い求めるのか、長期的なデメリットも加味して対策していくのか、二重価格の今後に注目したい。

取材・文/瑠璃光丸凪/A4studio 写真/Shutterstock

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