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「小麦製品・牛乳・人工甘味料」化学物質過敏症の人が控えるべき3つの食べ物。整えるべきは腸」の驚くべき理由

集英社オンライン / 2024年7月21日 11時0分

いい匂いなのに咳やめまいがする…潜在患者数1000万人の化学物質過敏症の症状例とは? 気づかぬうちに重症化しているケースも…〉から続く

誰でも発症する可能性があり、一度罹患すると日常生活や社会活動に著しく支障をきたしてしまう化学物質過敏症。治療の現場で注目されているのが腸と脳の関係だという。

【画像】脳腸相関を表したイラスト

『化学物質過敏症とは何か』より一部を抜粋・再構成し、小麦・牛乳・人工甘味料が腸に与える悪影響を解説する。

腸内環境を改善する

現在臨床で患者さんにお伝えしている対策をいくつか紹介しましょう。

化学物質過敏症は、外の環境からのさまざまな刺激に対して脳が敏感に関与する「脳過敏」による疾患です。

脳の場合、細胞の一部を採取することが困難であり、血液検査でも異常を検出しにくく「手を出しにくい」臓器であることは確かです。しかも脳には、簡単に異物や病原体が侵入しないようにする「血液脳関門(BBB:Blood-brain barrier)」と言われる関所のようなメカニズムがあり、厳重に守られているのです。

この血液脳関門のバリア機能のため、内服や点滴で投与した薬剤も、他の臓器に比べて脳の実質には基本的に到達しにくくなっています。このようなメカニズムを持つ脳は、どうにかしたくてもなかなか手を出せず、いわば「聖域」のような場所であることが、臨床や研究の難しさを招いているのです。

そこで注目したいのが、腸という臓器の存在です。腸と脳はどう見ても無縁そうですが、「脳腸相関」といった言葉で表現されるように、とても密接な関係にあります。

例えば、緊張するとおなかが痛くなるといった症状も、脳腸相関の一例です。消化管の情報は神経系を介して大脳に伝わり、腹痛・腹部不快感とともに、抑うつや不安などの情動変化も引き起こします。

これらの情動変化が副腎皮質刺激ホルモン放出因子(前出・CRF)や自律神経を介して消化管へ伝達され、さらに消化管の運動異常を悪化させることになります*1。

つまり、治療にあたっては、脳そのものではなく、腸から脳にアプローチすることが1つのコツになるのです。便秘症、下痢や便秘を繰り返す患者さんには、ここがより重要となるポイントです。

腸の環境を改善するには、具体的にどうしたらいいか。それは、腸の環境を悪くするものを控えることと、腸の環境を良くするものを積極的に摂取することに尽きます。

腸の環境を悪くする主な食品3つとは?

すべての人の腸に対して悪さをするものなのかどうかを科学的に判断するのは難しいのですが、腸内環境にとってあまり良くないものが何であるかは分かっています。

例えば、小麦製品(パン、ピザ、パスタ、うどんなど、見た目として小麦由来の食べ物と認識できるもの)、牛乳、人工甘味料です。このように言ってしまうと、「フードファディズム(food faddism)」のように感じられる方がいらっしゃるかもしれません。フードファディズムとは、食品や栄養が健康や疾患に与える影響を過大に評価したり信じたりすることです。

ところが、実際の診療において、小麦製品そのものや牛乳を控えると、便秘や軟便といったおなかの症状が改善される患者さんがいます。

小麦製品、牛乳、人工甘味料を摂取していても、何も身体的な異常が起こらない方が多いのですが、一部の人にとっては「合わない」ということがあるという現実は、いくつかのデータによって示されています。

小麦製品の場合

なぜ一部の人にとって小麦製品は腸にあまり良くないのでしょうか。

小麦製品には、グルテニンやグリアジンといったさまざまなタンパク質が含まれていますが、消化管に対して悪さをするタンパク質としてはグルテンが注目されています。小麦製品がダメという疾患の1つに、グルテンに対して異常な免疫反応(腸の炎症)が生じる「セリアック病」があります。

また、セリアック病の基準は満たさなくても、グルテンが消化管に対して悪さをする場合もあります。これを「グルテン不耐性」といいます。血液検査でグルテンに対する特異的IgE抗体を測定しても陰性、つまり、アレルギーではないため、実際に小麦製品を除去してどう反応するかを確かめるしかありません。

ここで、少し横道にそれますが、IgE抗体とは何かについて説明しましょう。

アレルギーの原因となる食物に含まれていて、生体にアレルギー反応を引き起こす物質を「アレルゲン」といいます。このアレルゲンが体内に入ると、それを排除しようとアミノ酸配列による「抗体」が作り出されます。それが、「免疫グロブリン(Immunoglobulin略称Ig)」と呼ばれるタンパク質の一種で、働き方によってIgA抗体、IgD抗体、IgE抗体、IgG抗体、IgM抗体の5種類に分けられます。

このうち、アレルギー症状を引き起こすのがIgE抗体で、ダニがアレルゲンであればそれにくっつくのはダニ特異的IgE抗体、そばがアレルゲンであればそば特異的IgE抗体と呼ばれます。

一方、患者さんからは時々、血液中のIgG抗体検査についての相談を受けることがあります。免疫ブログリンの約8割がIgG抗体で、食物アレルギーの原因食品を特定するために、施設によってはこの検査が網羅的に行われることがあります*2。

IgG抗体は食物アレルギーではない人にも存在し、IgG抗体価(レベル)は単に食物の摂取量に比例しているだけなので、検査結果が陽性だったことを根拠としてその食物を除去しても、無関係の食物まで除去してしまう恐れがあります。

そのために、日本アレルギー学会は、食物アレルギーの原因食品の診断法としてIgG抗体検査は推奨しないことを学会のホームページで発表し、私も診療の補助としては使用していません。

牛乳の場合

次に、なぜ一部の人にとって牛乳は腸にあまり良くないのでしょうか。

牛乳には、カゼインというタンパク質や乳糖という糖分が含まれています。さらに牛乳には、水に溶けにくい成分を溶けやすくする乳化(界面活性)作用があります。これも、牛乳のカゼインに対するアレルギーではなく「カゼイン不耐症」なので、血液検査でカゼインに対する特異的IgE抗体検査をしても陰性となります。実際に牛乳を除去してどう反応するかを確かめるしかありません。

腸の壁の結合が弱く、さまざまなタンパク質が内腔から粘膜側に通りやすくなってしまう「リーキーガット(leaky gut)症候群」という疾患があります。「リーキー」は「漏れやすい」、「ガット」は「腸」という意味で、「腸漏れ症候群」ともいわれます。下痢、便秘、腹部膨満、胸やけなどの胃腸症状を引き起こします。

この疾患の人は、牛乳の摂取でさらに粘膜透過性が上昇し、消化途中の食物のタンパク質が通過しやすくなってしまうので、特に乳化作用のあるものの摂取には注意が必要です。

また、牛乳に含まれる乳糖は、グルコースとガラクトースが結合してできた二糖類です。小腸で乳糖分解酵素により分解・吸収されてエネルギー源となる場合や、分解されずに腸内細菌によって代謝される場合があります。

乳糖は、悪い作用ばかりではありません。腸内細菌が乳糖を乳酸や酢酸に分解し、腸内が酸性になることで悪玉菌を抑えるといった作用がありますし、カルシウムやマグネシウム、鉄の吸収を高める作用もあります。

しかしながら、乳糖を分解する小腸内の酵素は年齢とともに少なくなるので、牛乳で下痢をする人の割合が増えるのですが、下痢にとどまらず、腸管内に消化されず残った乳糖が腸内細菌叢の異常を引き起こし、炎症性腸疾患に関与する場合があります。

乳糖不耐症かどうかは、乳糖を摂取して経時的に血糖値を測定することで診断は可能ですが、乳糖が腸に悪さをしているかどうかを客観的に調べる方法は確立されていません。そのため、乳糖が含まれる牛乳などの摂取を控えて、体調がどう変化するかを経過観察するしかありません。

人工甘味料の場合

人工甘味料は、もともと自然界にはない甘味成分を化学的に合成して作ったもので、糖質ゼロやカロリーオフにするための代替甘味料として使われています。

現在日本で使用が認められているのは、サッカリン、アスパルテーム、アセスルファムK(カリウム)、スクラロース、ネオテーム、アドバンテームの6種類です。

人工甘味料は、低カロリー、血糖値が上がりにくいといったメリットもあります。その反面、発がん性のみならず腸内細菌叢の働きを妨げ、食後の血糖値を下げにくくし、糖尿病、心血管疾患、慢性腎臓病などのリスクを高めるといったデメリットにつながる可能性があるという研究結果が、学術誌『Cell』に発表されました(2022年8月19日付)。

人工甘味料という人間にとっては非栄養性の甘味料も、栄養となって一部の腸内細菌を増殖させ、腸内のバランスを崩してしまうことで慢性的な腸の炎症などにつながるというものです*3。

腸内細菌叢を乱す人工甘味料が使われた食品や飲料は、可能な限り控えたほうがよいでしょう。


*1 公益財団法人腸内細菌学会公式サイト
(https://bifidus-fund.jp/keyword/kw033.shtml)
*2 American Academy of Allergy, Asthma & Immunology. The Myth of IgG Food Panel Testing, 2024. https://www.aaaai.org/tools-for-the-public/conditions-library/allergies/igg-food-test
*3 「人工甘味料が腸内細菌を乱すと判明、健康に悪影響の恐れも、研究」『NATIONAL GEOGRAPHIC』日本版サイト2022年9月14日ニュース記事(https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/22/091300423/)

写真/Shutterstock

化学物質過敏症とは何か

渡井 健太郎
化学物質過敏症とは何か
2024年6月17日発売
990円(税込)
新書判/176ページ
ISBN: 978-4-08-721321-8

潜在患者は1000万人以上。
それは、「●●●」な疾患!
(答えは本書に)

アレルギーだと誤診、喘息だと過剰治療、気にしすぎだと放置……。
社会に誤解され、医療から無視されがちな“ナゾの病”がよく分かる!

近年、全世界的に患者数が急増している「化学物質過敏症」。
現在の患者数は約120万人で、潜在患者は1000万人以上とも言われています。
誰にでも発症の可能性があり、一度罹患すると日常生活や社会活動に著しく支障をきたすにもかかわらず、症状が多岐にわたるためアレルギーと誤診されたり、気にしすぎだと放置されたりしがちなのが実情です。

本書では、この疾患の臨床および研究に第一線で携わる医師が、医学的エビデンスに基づいた最新の知見や治療法を解説。
この“よく分からない疾患”の正しい理解、正しい受診、正しい解決へとつなげます!

【目次】
はじめに
第1章 誤診・過剰治療の現実
第2章 化学物質過敏症ってどんな疾患?
第3章 合併しやすいアレルギー以外の疾患
第4章 診断と対策
第5章 診療現場の現状と問題点
第6章 最新の研究事情とこれから
おわりに

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