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〈大量繁殖キョンの捕獲現場〉「最初はごめんねと思っていましたが…」おととしは千葉県で8000匹以上を捕獲も「解体は1日5頭が限界」解体作業員に密着

集英社オンライン / 2024年7月15日 11時0分

今年5月、茨城県で特定外来生物「キョン」の目撃情報に報奨金が出されることが発表された。さらに6月28日には、茨城県との県境付近にある埼玉県行田市で初めてとなるキョンの目撃情報が公表された。その分布拡大が加速するなか、キョン被害の“震源地”だった千葉県では、どのように捕獲や駆除を行なっているのか。猟師や精肉解体所を取材した。

〈閲覧注意〉捕獲、止めさし、そして…写真で見る害獣キョンの解体

 

キョンの食肉化は時間との勝負

もともと千葉県勝浦市にあった施設(2001年に閉園)で飼われていた個体が逃げ出し、千葉県南部を中心に定着したとされる特定外来生物「キョン」。

千葉県内の推定生息数は2022年度末時点で約7万1500頭(千葉県自然保護課調べ)にまで上り、過去10年で約3倍という爆発的な増加を見せている。

令和4年度における千葉県内のキョンによる農作物の被害は420万円と少ないものの、その分布が市街地に及んでいるケースが多い。

そのため「家庭菜園が全部やられた」「キョンが庭に侵入しないよう家の外周にバリケードのように網を張り巡らせた。これらはすべて実費」といった人家の被害のほか、「夕方から夜にかけてキョンがギャーギャー鳴く声を聴くと憂鬱になる」などと心的ストレスなどへの影響も大きいことが問題となっている。

なぜここまで繁殖が進んだのか。千葉県環境生活部自然保護課の担当者は、次のように言う。

「キョンは繁殖力が強く、メスは1産1子ですが、早ければ生後半年で妊娠し、約210日の妊娠期間を経て出産します。捕獲方法としては“くくり罠”がもっとも多く、全体の8割を占めています」

「くくり罠」とは、どういったものなのか? 猟師免許を持つだけでなく、捕獲した有害鳥獣を解体・食肉化し、骨や皮などを含めて商品として活用する「猟師工房ドライブイン」代表・原田祐介さんに聞いた。

「キョンは小型で、その体重は5キロから最大13キロほど。なのでイノシシやシカなどを獲る罠は作動しません。そこで、私の会社ではキョンが獲れる『キョンすらトレイル』という罠を2年ほどかけて開発しました。これを地面に埋め、それを踏んだキョンの足をワイヤーでくくって捕獲します」(原田さん)

1つの「キョンすらトレイル」で一度に捕獲できるのは1体までで、だいたい同時に10ヶ所ほど設置するという。設置場所としては、知り合いの民家をはじめ、農家から「このあたりによく出るから罠を仕掛けてほしい」とお願いされた場所などが多いそうだ。

これらの罠を設置するには「わな猟免許」が必要で、原田さんだけでなく、市町村と連携した狩猟者団体・猟友会のメンバーなどがその役割を担っている。

結果として、令和4年度には8864頭の捕獲に成功。だが、捕獲した個体のほとんどが、山中に埋められたり、焼却されたりしているのだ。

原田さんは、国内で初めてキョンを食肉化し、販売を始めた第一人者だ。

「私の考えは『せっかくいただいた命を捨てるの申し訳ない』というもの。キョン1頭を捕獲して申請すれば、県からは5000円、国からは1000円の交付金が出ますが、さらに食肉施設が買い取る仕組みを構築できれば、猟師の収入安定にもつながります」(原田さん)

食肉にする場合は、とにかく早さが大事なのだという。朝に仕掛けた罠は遅くとも翌朝には見回りし、かかっていたら、その場で「止めさし(頸動脈を切り絶命させること)」を行なって血抜きするそうだ。

「食用にする場合は、少しでも腐敗を遅らせるために『止めさし』を行います。また、肉の変色を防ぐために血抜きも行います。そして、遅くとも1時間以内に精肉所に届け、解体し、内臓を取り出す必要があります」(原田さん)

キョン解体の手順

千葉県大多喜町の解体処理施設でキョンやイノシシなどの解体処理に携わる野崎安里さん(35歳)は、「キョンは体が小さいので、解体作業にはかなり繊細な手捌きを必要とします」と言う。

「私は10数名の猟師さんとお付き合いがありますが、猟師さんから『罠にかかったよ』と電話が来たら現場に急行し、止めさし後の個体を引き取ります」(野崎さん)

個体を引き取って施設に戻ったら、できるだけ早く、遅くとも2時間以内に内臓を取り出し、専用の冷蔵庫で2日間熟成。その後、もも肉、ヒレ肉、ロース肉の3種類に精肉する。1体から取れる肉は、わずか2キロほどだという。

手際よく次々と作業する野崎さんに、「解体中は何を考えているのか」と声をかけてみた。すると、「最初のころは『ごめんね、ちゃんとおいしく食べられるようにきれいに解体するよ』と思いながら作業をしていましたが、今ではほとんど無心です」と答えてくれた。

 キョンの小さい体の中から内臓が出てくる中でも、顔色を一切変えず、淡々と作業を続ける野崎さん。内臓に明らかな異常がある場合は廃棄するそうだが、そんなケースは「ほとんどない」という。

解体は1日5頭が限界

野崎さんの1日はなかなかハードで、この日は5キロ台のメスのキョン2体とオスのキョン1体、加えて53キロもの巨大なメスのイノシシ1体の解体を行なった。

「猟師さんは前日に仕掛けた罠を早朝に見回りし、早いときは朝6時半くらいに電話してくるんです。1日の受け入れはだいたい昼までで、午後は解体作業に回す、という流れがほとんどですね。

キョン1頭につき解体時間は30〜40分、イノシシは40分ほどで、解体は1日5頭が限界です。解体作業の合間には、2日間熟成させた個体を精肉する作業に取り掛かります」(野崎さん)

野崎さんは、解体したキョンの心臓で異常のないものは自らの手法で干し、ジャーキーにして飼い犬のシベリアンハスキーに与えているという。「犬に安全なドッグフードを与えたい」という野崎さんは、いずれキョンの肉を使ってドッグフードを開発したいと展望を語っていた。

最後に、千葉県自然保護課の担当者は、今後のキョンの防除計画について次のように述べた。

「千葉県から分布が広がったとされる茨城県とも、キョンの目撃情報などを共有しています。また、千葉県内には現状17市町にキョンが分布していますが、これ以上の市村への広がりを防ぐために、市町の外周に罠を設置しています。

さらに、一般の方を対象とした千葉県有害鳥獣捕獲協力隊を去年から公募し、キョンをはじめとした有害鳥獣捕獲のための隊員を募っています。多角的な取り組みを行うことで、キョン殲滅を目指しています」(千葉県自然保護課担当者)

だが、原田さんは「罠の設置や協力隊の公募以外に、もう一つ大事なことがある」とする。

「イノシシや鹿のように誘引物質が明らかになっていないため、キョンを確実に誘き寄せる方法がありません。そのため、繁殖に対して捕獲率が低く、数が追いついていないのが現状だと思います。

本当に殲滅を目指すならば、罠の設置や人員増量だけでなく、生物学研究者によるキョンの誘引物質の研究にも本腰を入れるべきなのではと思います」(原田さん)

基本的にキョンは1年を通して繁殖するとされており、この猛暑の中でも、お構いなしに増え続けている。千葉県から茨城県、埼玉県にまで分布を広げたキョンの繁殖を、止めることはできるのだろうか。

※「集英社オンライン」では、野生動物のトラブルについて、情報を募集しています。下記のメールアドレスかX(Twitter)まで情報をお寄せ下さい。
メールアドレス:
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取材・文・撮影/河合桃子
集英社オンライン編集部ニュース班

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