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〈新宿大ガード下〉「ツバを吐かれたり通報されることも」“ママ”と呼ばれるホームレス女性が語る路上生活の実態。それでもトー横キッズからは「私は救われた」「懐かしい気持ちになる」と慕われて

集英社オンライン / 2024年7月12日 17時0分

新宿・歌舞伎町からほど近い新宿大ガード下に、一人の中年女性が住んでいる。本間弥和さん、59歳。ここで4年間にわたって寝泊まりし続けている路上生活者だ。ガード下を歩く人びとから冷たい目線が向けられるいっぽうで、彼女のもとには”歌舞伎町の住民たち”の訪問があとを絶たない。「ママ(本間さんの愛称)に会いたいからここに来ている」と話すトー横キッズまでいるほどだ。果たして彼女は”新宿の聖母”なのか、それともただの”社会のはぐれ者”なのか。集英社オンライン記者がその素顔に迫った。

“新宿大ガード下の主”本間弥和さんの元へやってくる界隈民たち

 

新宿大ガード下の有名人

東京都が発表した路上生活者概数調査によると、令和6年(2024)1月時点での都内23区の路上生活者は372人にのぼり、そのうちの20%にあたる75人が新宿区で生活している。これは都内でもっとも多い数字で、いまだに新宿駅周辺で寝泊まりする路上生活者はあとを絶たない。

そんななか、6月27日には新宿駅西口地下1階にて、路上生活者の女(51)が警察官をハサミで刺すという殺人未遂事件が発生。集英社オンラインは過去記事にて事件を報じており、そこでは「西口の再開発の影響で、駅前の屋根がなくなって寝泊まりする場所が減った」「福祉(生活保護)には一度頼ったけど、耐えきれずに戻ってきた」など、路上生活者たちの悲痛な声を紹介した。

しかし、この女性に限っては状況が違うようだ。本間弥和さん、59歳。新宿・歌舞伎町からほど近い新宿大ガード下でおよそ4年間にわたって寝泊まりを続けているベテラン路上生活者だ。

今年初の猛暑日を記録した7月4日の夕方4時ごろ。複数のJR線が走る高架下、およそ40メートルほどの路地には段ボールでできた自作の寝床が並んでいて、その一角に彼女はポツンとたたずんでいた。

無造作に伸びきった白髪を後ろでまとめ上げ、昼間から缶チューハイを飲んでいる。その姿を見た歩行者のなかには、足早にその場を通り過ぎようとする者もいた。記者が取材を申し込むと、「ここ(新宿大ガード下)の現状を報じてくれるなら」と快く応じてくれた。

「まず勘違いされがちなんだけど、ここには私のようなホームレスばかりがいるわけじゃないの。家がある人が大半だし、トー横キッズの子とか、トー横でお酒を飲む『界隈民』が集まる感じかな。

年齢とかは関係なく、そこらへんの界隈で私と知り合った人がここにふらっとやってきてダベりながらお酒を飲む。そのなかには私にいろいろと悩みを相談してくる人もいるし、私がつくったご飯を楽しみにしている人もいるよ」

若者に慕われる本間さん

現在、新宿大ガード下で寝泊まりしている路上生活者は、本間さんを含めて2人のみ。そのほかにここを訪れるのは、いわゆる”歌舞伎町の住民”のほか、NPO団体や新宿区の職員になるが、そのたびにいろいろなモノを差し入れしてくれるという。

「そりゃ大ガード下は、サラリーマンから歌舞伎町に出勤する人までいろんな人がつかう“通勤路”になってるから、私の存在は広く知られてるの。だからパチンコの余り玉で交換したお菓子をくれたり、ノンデリバリー(=配達中止)になった食べ物をくれる出前サービスのお兄さんもいる。

宴会シーズンになると、余ったお寿司や肉を居酒屋のスタッフがもってきて『もしよかったらこれいりますか? 捨てるよりはマシなんで』と言ってくることもあるよ。おかげさまで、ここに住んでからはあっち(=新宿中央公園)の炊き出しには行ったことないし、西口のホームレスとは直接的な関わりもほとんどないの」

そう語る本間さんの元には、この日も多くの少年少女が訪れてきては「ママー、元気してる?」「ママー、今日○○(人の名前)見た?」などと楽しげに話しかけてくる。そのなかにいた金髪の少女は現役のトー横キッズで、「広場(=トー横)に行く前のヒマつぶしのような感覚でここに来てる。

いろんな人と話せるから楽しい」と言う。小麦色に日焼けした19歳の少年も元トー横キッズで、現在は現場仕事で汗を流す日々を送っているというが、「たまにここに来ると懐かしい気持ちになるんです」と頬をゆるませる。

「ここには僕のような元トー横キッズの子が集まることもあって、同窓会のような気分になるんですよね。トー横に通っていたころは、リーダーの指示で広場の掃除や炊き出しを手伝ったりもしましたけど、まあお酒のイッキ飲みをしたりOD(=過剰摂取)したりと遊んでました。

でも、そろそろちゃんとしなきゃなという思いが強くなって、数ヶ月前にトー横を抜けたんです。今は現場系の仕事で会社の寮にも入って早朝から働いてますけど、『やっぱりトー横に戻りたいな~』って思うときもあります(笑)」

そのいっぽうで、本間さんの元にはトー横キッズだけではなく大人も訪れる。およそ1年前からここに通っているという30代女性は、缶チューハイを飲みながら「私はママに救われたんです」と話す。

「もともと私は、酒とラムネしか口にしないような生活を送っていて、しょっちゅう市販薬のODもしてました。でも、ママと知り合って界隈(=トー横界隈)に顔を出すようになってからは、わざわざ約束しなくてもそこに行けば誰かしらいるし、界隈民に悩みも聞いてもらえる。

ほかの人が作った料理も苦手だったんですけど、ママの手料理ならおいしくてなんでも食べれたので、この1年間で8キロくらい太って健康になりました(笑)」

通行人にツバを吐きかけられることも

本間さんを含めた界隈民たちは、通称「トー横ミドル」とも呼ばれており、夜8時ごろになると新宿大ガード下からトー横広場に移動して“宴会”を始めるという。ただ、前出の女性は「キッズもミドルも、そこまで明確にグループが分かれているわけではない」と話す。

「終電が近くなって人数が減ってきたら、みんなで一緒に飲んだりするし、最近は観光で来た外国人も飲みにきたりしますね。

それこそキッズがリストカットとかOD、急性アルコール中毒になったら大人が『水飲ませておけ』とか『早く止血しろ』とか助言したりもする。年齢とかは関係なく、この界隈の人たちはみんな助け合いの精神でやってますね」

だが、周囲からの視線は冷ややかだ。記者が新宿大ガード下で取材をしている間にも、歩行者のなかには眉間にシワを寄せてこちらを見てくる男性や、鼻をつまむようにして通りすぎる女性の姿もあった。このような状況について本間さんはどう思っているのか。

「こんなの当たり前のようにあることだし、さすがに慣れたよ。舌打ちされたりツバを吐かれるのは日常で、通報されることもある。なかには『真面目に働け!』とか怒鳴ってきたり、勝手に写真を撮ってくる連中までいるからね。

それと厄介なのが、売春をもちかけてくるオッサン。酒をもって近づいてきて、キッズとかに耳元で『2万円でドウ?』なんて話しかけてくる。もちろん界隈民はみんな断ってるし『そういうのは大久保公園でやれ』と注意してるよ」

そうしたトラブルに見舞われながらも、なぜ本間さんは路上生活を続けるのか。後編では、彼女の生い立ちとともに、行き場のない少年少女(トー横キッズ)たちへの想いを聞いた。

取材・文/神保英二

〈2度の結婚、出産、生活保護…〉“ママ”と呼ばれるホームレス女性が新宿大ガード下に至るまで。「死にたい」と相談にくるトー横キッズに彼女がかける言葉とは。「人の支えになるのは天職なのかな」〉へ続く

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