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《米大統領暗殺の系譜》トランプだけではない、歴代大統領45人のうち3人に1人が暗殺事件を経験…過去の犯人から浮かび上がる共通項とは

集英社オンライン / 2024年7月14日 20時11分

7月13日(日本時間7月14日)朝に米ペンシルベニア州バトラーで起きたドナルド・トランプ前大統領銃撃事件は世界中に衝撃を与えた。しかし、アメリカでは過去にも大統領やその候補者らを狙った暗殺や未遂事件がたびたび起きている。アメリカ大統領を襲ったテロ事件史をジャーナリストの黒井文太郎氏が解説する。

自殺志願者に民間機でホワイトハウスに突入して殺害計画を立てられたこともある元大統領

米大統領暗殺を企てた犯人に多い共通項

7月13日(日本時間14日)、ペンシルベニア州の小さな町・バトラーでの集会で演説していたトランプ前大統領が銃撃され、軽傷を負いました。流れ弾で集会参加者1人が死亡、2人が重傷を負っています。



犯人は犯行直後に大統領警護担当の狙撃手(おそらく国土安全保障省シークレット・サービス隷下の対襲撃班CATの隊員)が射殺しました。同州のべセルパークに住むトーマス・マシュー・クルックスという20歳の白人男性と報道されています。

ベセルパークとバトラーはわずか60km、自動車で1時間程度しか離れていないので、ほぼ「地元在住の若者」の犯行になります。

本稿執筆時点で彼についてわかっているのは、共和党の有権者登録をしていることと、2021年にバイデン大統領が就任した時に民主党左派系団体に15ドルを寄付したことがあるということぐらいです。

犯人の動機や政治的信条については今後の情報待ちですが、ほぼ地元在住ということから、トランプ氏をつけ狙って外部から来たわけではないことや、少なくとも銃撃は単独で行われたこと、そして20歳という年齢などから、今のところは特に組織的な背景は浮上しておらず、単独暴発型の可能性が大きいという印象です。

じつは米国史を振り返ると、これまで大統領や大統領候補の暗殺・暗殺未遂では、必ずしも政治的な動機によるものばかりではなく、妄想を動機とするような単独犯行が少なくありません。

たとえば、米国ではこれまで計45人の大統領がいましたが、うち4人が暗殺されています。①エイブラハム・リンカーン(1865年) ②ジェームズ・ガーフィールド(1881年) ③ウイリアム・マッキンレー(1901年)、そして⓸ジョン・F・ケネディ(1963年)です。

リンカーン暗殺犯は南部独立派、ガーフィールド暗殺犯は精神的な問題を抱えた人物、マッキンレー暗殺犯はアナーキストでした。

周知のようにケネディ暗殺の真相はまだ謎で、真相がわかっていません。なお、ケネディの実弟のロバート・ケネディ元司法長官も1968年に民主党大統領候補だった時に、ロサンゼルスのホテルでパレスチナ系移民に射殺されています。

暗殺未遂に遭った11人の大統領たち

暗殺「未遂」に目を向けると、歴代の11人の大統領が遭っています(計画だけの容疑は除く)。列記してみます。

⑤アンドリュー・ジャクソン(1835年)
議事堂内で精神的な問題を抱えた人物が銃撃を試みるも不発。

⑥セオドア・ルーズベルト(1912年)
退任後の再選活動中に精神的な問題を抱えた人物に銃撃を受けました。

⑦フランクリン・ルーズベルト(1933年)
就任直前に精神的な問題を抱えた人物が銃撃。本人は無事でしたが、同行していたシカゴ市長が死亡。

⑧ハリー・トルーマン(1950年)
プエルトリコ独立運動過激派が襲撃。本人は無事でしたが警察官1人死亡。

⑨リチャード・ニクソン(1972年)
訪問先のカナダ・オタワで暗殺未遂。犯人は警備が厳しかったため発砲を諦めていますが、翌月、ライバルの大統領候補だったアラバマ州知事を銃撃し、重傷を負わせました。

大統領選を戦っていた双方を狙ったわけですが、動機は不明。ロバート・デ・ニーロの出世作「タクシー・ドライバー」はこの事件を一部参考にしています。

ニクソンについては、他にも自殺志願者が民間機でホワイトハウスに突入して殺害計画を立てたこともありました。この時は離陸できずに未遂に終わりましたが、男は機長と副操縦士を射殺して自殺しています(1974年)。

⑩ジェラルド・フォード(1975年)
カルト集団「チャールズ・マンソン・グループ」の女性信者が実弾なき拳銃を向けたという事件がありました。同年、他にも別の女性にも銃撃されましたが、無事でした。

⑪ジミー・カーター(1975年)
街頭演説中に拳銃所持の男が逮捕されました。男は「メキシコ人スナイパーの陽動の為に雇われた」と謎の供述。意味不明で不起訴に。

⑫ロナルド・レーガン(1981年)
ホテル前で銃撃され、重傷を負いました。同行していた報道官、シークレット・サービス1人、警察官1人も重傷。犯人は女優ジョディ・フォスターの狂信的なストーカーで、「彼女に相手にしてもらうためには大きなことをしないといけない」と思い込んで犯行に及びました。

⑬ジョージ・H・W・ブッシュ(1993年)
クウェート訪問時に殺害しようとイラク情報機関が企てましたが、爆弾をイラクから持ち込もうとして露呈し、未遂に終わりました。

⑭ビル・クリントン(1994年)
自殺志願者が軽飛行機でホワイトハウスに突入。犯人死亡以外、被害はありませんでした。さらに同年、やはり自殺志願者がホワイトハウスに向かって銃を乱射。被害はありませんでした。

⑮ジョージ・W・ブッシュ(2001年)
精神的な問題を抱えた男がホワイトハウスに向かって銃を乱射しましたが、被害はありませんでした。また、訪問先のジョージア(旧ソ連)で演説中に地元の男に手榴弾を投げつけられましたが、不発でした。

以上のように、大統領暗殺を狙った犯行でも、明確に政治的な動機によるものは意外に少なく、個人的な妄想を動機とする単独暴発型の犯行がたいへん多いことがわかります。戦後のケースだけを見ても、それは同様です。

ネットで増幅された個人の妄想の暴発か…

有名なケネディ暗殺で銃撃犯とされているリー・ハーベイ・オズワルド元海兵隊員が、ソ連に亡命したことのある人物だったこともあって、「大統領暗殺」と言えば「政治的な謀略」のイメージが強いですが、実際には女優のストーカーだったレーガン銃撃犯のような妄想型犯行のほうが多いのが現実です。

妄想型の暴発というのは、米国に限らない話ではあるのですが、米国はとにかく銃器の入手が容易なため、個人の暴発でも大きな事件を起こすことが比較的容易ということです。

ただ、近年は米国でのテロ全体で、極右思想を背景にしているパターンが主流になっており、政治家を狙うテロの動機でもそうしたケースが増えています。

たとえば2008年の大統領選では、黒人初の有力大統領候補となったバラク・オバマを狙う計画が3件、明らかになっていて、計5人が逮捕されています。いずれも具体的な行動には出ていませんが、白人至上主義グループに連なる過激な人物たちでした。

大統領あるいは大統領候補以外でも、議会の大物が狙われたのが、民主党の大物議員だったナンシー・ペロシです。2022年10月、Qアノンを信じる陰謀論者のカナダ人が、彼女を拉致する目的でサンフランシスコ市内の自宅に侵入。

彼女は留守でしたが、居合わせた夫の頭部をハンマーで殴打し、頭蓋骨骨折という重傷を与えています。

2021年1月のワシントンでの議事堂襲撃事件でも、襲撃者の一部はペロシ下院議長の執務室を占拠したり、トランプが敗れた大統領選挙の結果を認めたマイク・ペンス副大統領を名指しして「見つけて吊るせ」と叫んだりする人物がいたことがわかっています。

ただ、こうした犯人たちは、政治的な動機とはいっても、Qアノンを信じる特殊な陰謀論信奉者ということになります。

今回のトランプ暗殺未遂犯である20歳のトーマス・マシュー・クルックス容疑者がどうした動機を持っていたかは、FBIの捜査で今後、明らかにされるでしょう。現代のこうした事件の犯人たちの思想や人脈などは、本人のスマホやパソコンに残されたデータやアクセス履歴などで判明することがほとんどです。

政治的犯行の側面があったとしても、特に左右の組織の指示ということでなく、ネット活動で増幅された個人の妄想の暴発の可能性があります。仮にそうした犯人像だった場合は、テロ対策機関としては逆に事前察知が困難で、危険度が高いのが現実です。

文/黒井文太郎

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