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《休職・無職はキャリアの汚点になるのか》空白期間を肯定的に捉える「キャリアブレイク」という第3の選択肢とは

集英社オンライン / 2024年7月20日 10時0分

休職や無職といった雇用から離れることを肯定的に捉える「キャリアブレイク」という文化が欧米では一般的になっている。日本では未だに無職=悪のイメージが根強く残るが、雇用から離れることで効能もある。「キャリアブレイク研究所」代表の北野貴大さんに聞いた。

居酒屋に展示された情報誌「月刊無職」

休職・無職を肯定的に捉える「キャリアブレイク」という価値観

働き続けることが当たり前のような世の中で、立ち止まることは悪いことなのか。

キャリアの空白が転職活動に不利益になったり、休職・無職者に対する偏見が未だに根強く残る日本社会。

そんな状況を打破しようと、一時的に雇用から離れることを肯定的に捉える価値観「キャリアブレイク」を提唱するのは一般社団法人「キャリアブレイク研究所」代表の北野貴大さんだ。

北野さんが研究所を立ち上げたきっかけは、妻のこんな一言から始まった。

 「1年間無職をしてみたい」

当時はキャリアブレイクという言葉も知らなければ、無職に対してあまりいい印象をもっていなかった北野さん。

妻に事情を聞くと、「今まで忙しすぎたから、会いたい人に会ったり、行きたいところに行ったりして、次の人生を選択するための感性を充電したい」と言われた。こうして妻の無職ライフが幕を開けた。

無職になってからというもの、妻は日本各地を旅行に行ったり、旧友との時間を過ごしたりと活き活きと充実した日々を送っていた。

無職ライフが半年を過ぎた頃には新たなITの世界に興味を示し、学校にも通うように。その後、I T会社に転職を決めた。

北野さんがそんな妻の様子をユーモアたっぷりにブログで綴り始めると、無職や休職経験者の読者を中心に大きな反響を呼んだ。

「キャリアブレイク」という文化があることも知り、無職・休職中の人らが語り合う宿「おかゆホテル」を自宅2階に開業した。

訪れるのは、仕事を頑張りすぎて休職してしまった人や、世界一周をしたくて会社を辞めようか迷っている人など、一般的な人たちばかり。

雇用から離れた期間を「いい転機になった」と振り返る人が多かったことなどから、「文化として立ち上がったら面白いのではないか」と2022年10月、兵庫県神戸市で一般社団法人「キャリアブレイク研究所」を立ち上げた。

研究所では、キャリアブレイク中の人が学び合える「むしょく大学」を運営したり、当事者や経験者の声を綴った情報誌「月刊無職」を発行。無職の人が無料で参加できる「無職酒場」などのイベントも開催している。

「キャリアブレイクを決めた先には少なからず葛藤や苦しみもあるからこそ、第三の選択肢として選びたい人が選べる文化を育んでいきたいと思ったからです」

北野さんのその思いは1つの研究結果に結びつくことになる。

キャリアブレイク中の5段階…〝いい転機〟に変えた人も

研究所が500人以上の体験者に聞き取りを行った結果、キャリアブレイク中の時間は5段階の傾向に分けられることが明らかとなった。

・休めた解放感を味わう「解放期」
・所属がないことへの不安感が襲う「虚無期」 
・心の奥底に眠っていた自分の声を聴きはじめる「実は期」
・再び社会との距離を探る「現実期」
・社会に接続し直す「接続期」


一方、今年4月に全国初となる人事のための図書館「人事図書館」(東京都中央区)を開設した館長の吉田洋介さん(42)も「キャリアブレイク」の5段階を経た後、次のキャリアに繋げた人の一人だ。

吉田さんは14年間大手人事コンサルティング会社に勤務。コロナ禍の2020年に新部署の事業責任者となったが、慣れない業務と激務が重なった。心身の不調に陥り、4か月間の休職に入った。

休職した直後は、休めたという解放感に満たされたが、同時に残してしまった社員に対する申し訳なさと、仕事がしたくてもできない虚無感に襲われた。

しかし、しばらく経つと、元同僚の会社で人事の助言などを行う副業を再開してみたり、ユーチューブの動画を撮影してみたりと興味の赴くままに行動し、さまざまなことにチャレンジしていった。

「このまま副業の延長で、会社を辞めても収入を下げずに生きていけるのでは…」

そう考え始めた吉田さんはこれまでの働き方を見直し、休職を経て退職。3年間フリーランスとして活動する中で、人事担当者がリアルに話し合える場所を作ろうと「人事図書館」を開設した。

図書館には人事関連の書籍約2千冊が並ぶほか、人事担当者同士が悩みを共有できるワークスペースなども設けた。

「休職中、自分が出来ることは何か、今後の働き方とゆっくり向き合うきっかけになりました。休職・離職に対し、周りがどうこう意見するものではなく、その期間に意味を見出すのはその人次第だと思います。

必要な人が後ろめたさを感じずに当たり前に取れる世の中になってほしいですね」(吉田さん)

キャリアブレイクの意義や魅力は一体なんなのか。北野さんに改めて聞いてみた。

「パワフルな現象を信じて待ちたい」キャリアブレイクの効能とは

「休職・離職することは会社員の場合、これまで指定された居住地や人間関係や会社の当たり前だと思っていた常識から離れ、人生の主導権が自らの手に戻ってきます。主導権が戻ってくることは、ルールが自分だけのものになる。いわゆる創造的孤立ですよね。

自分で考えて行動して決断していかなくてはいけない。それはとても責任が生じることだけど、とてもパワフルな現象だし、人生の転機を過ごすって意味ではとてもいい効能を生み出す」(北野さん)

 厚生労働省が2020年に転職者約5千人を対象に行った調査によると、「離職期間なし」と「1カ月未満」が全体の53・7%で、残り46・3%は最低でも1カ月以上の離職期間を経験している。

とはいえ、これまで築いてきたキャリアを中断し、休職離職を決断するのは勇気もいるし、リスクもあるのは確かだ。

人事に詳しい専門家によると、近年は都市部やベンチャー企業などを中心に、キャリアの空白を悪と捉える価値観は薄らいでいるとはいえ、かつてのように「働いていない期間=欠陥がある」「空白期間があるのは辞める前に次の道を決めていない見通しが甘い人材」という見方をする企業もあり、選べるなら空白期間がない人を選ぶ傾向もある。

キャリアブレイクを選ぶ人の中には自ら望んで選択する人もいれば、職場の人間関係や激務などのストレスにより図らずしもキャリアブレイクに入る人たちも多い。そんな現状を踏まえつつも、北野さんは笑顔でいう。

 「頑張ってきた人がキャリアを中断することは罪悪感や葛藤は必ず発生するし、離職休職の入口はだいたい苦境ですよ。だけど、受け入れられない事態や罪悪感を自分の中で供養して、『せっかくだしいい転機にしよう』とエネルギーに変えていく瞬間があります。

このパワフルな現象を信じて待つことは社会にとってもメリットが大きい。そういう社会に変わっても面白いんじゃないかな」

働き方改革やコロナ禍を経た働き方の多様化は、若者を中心に大きく社会を変えた。一歩進めて、「キャリアブレイク」という考え方が社会に定着する日が近いかもしれない。

取材・文/集英社オンライン編集部

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