世界で1年間に犠牲になる子どもの数より多くの子どもが殺されたガザ侵攻…全人口約220万人のガザ市民を虐殺する以外にイスラエルは止まれないのか
集英社オンライン / 2024年7月25日 9時0分
イスラエル軍の攻撃により、子どもを含めた多くのガザ市民が犠牲になっている。中東情勢に詳しい、同志社大学大学院教授・内藤正典氏と、同志社大学大学院准教授・三牧聖子氏によると、イスラエルにとっての勝利は「大量虐殺」しかありえないという。
【写真】空爆で破壊された建物
『自壊する欧米 ガザ危機が問うダブルスタンダード』より一部を抜粋・再構成し、熾烈を極める混沌のガザの様子をレポートする。
※2023年12月22日時点に収録された対談です
イスラエルはパレスチナに勝てるのか?
内藤正典(以下、内藤) 今イスラエルは、ガザに対して病院だろうと、UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)の学校だろうと、ジャーナリストだろうと、子どもたちだろうと無差別な攻撃を続けています。
つまり「病院だから攻撃しないだろう、民間人だから殺さないだろう、殺してはいけない」といった国際人道法にも根拠を持つこれらの道理は、完全に否定されてしまったようです。
イスラエルがガザのシファ病院を攻撃した件は、大きな批判にさらされました。イスラエルは、「病院の地下にハマスの拠点がある」と言って批判をはねつけたわけです。実際には報道されたとおりそんなものはなかったのですが、当時「あるのだから病院ごと吹き飛ばしてかまわない」と強弁していました。
また、UNRWAの学校も同様ですけど、学校にはガザの多くの市民が避難しています。しかしイスラエルは、その中にハマスがいると言ってこれも攻撃した。そのようなことを際限なく拡大していったら、結局、ガザ全部を吹き飛ばしてもかまわないということになってしまいます。
イスラエルの攻撃は、文民であるか、戦闘員であるかを区別しているように見せて、実は完全に絶滅させてしまうものです。それはジェノサイドですし、エスニック・クレンジング(民族浄化)にあたるようなことを、最初から意図した上で理屈をつけているように見えます。
ですから、最初のうちは、ジャーナリズムも含めて、「病院が攻撃されてこれだけの犠牲が出た」とか、「UNRWAの学校が攻撃されてこれだけの犠牲が出た」という報道の中で批判をしてきた。
あるいは、「『ガザの北部から避難しろ、南部へ向かえ』との通告があったから、南へ行ったらその最中に攻撃された、さらに南部で攻撃が始まった」というように。でも実際には、北部の戦闘も終わっていなかったんですよね。2023年12月現在も、北で戦闘を継続している。
ガザの人とやり取りをしていると、これはもう完全にジェノサイドであって、他に何にも表現する言葉がない。このような状況にもかかわらず、三牧先生はよくご存じだと思いますが、アメリカをはじめ、欧米諸国の大多数がイスラエルの攻撃を是認してしまっている。スペインやアイルランドなど少数の例外を除いて。
イスラエルはガザの全市民を虐殺しない限り勝てない
内藤 ようやく今(※2023年12月時点)になって、「民間人への犠牲を最小にするような攻撃をしてほしい」ということは言っていますけれども、止めろとは言わない。
停戦させようとして国連の安全保障理事会で協議したときも、シーズファイア(ceasefire:停戦)とは言わないわけですよね。「シーズファイアはダメだ」と。意味がわからないですよね、あの理屈は。ヒューマニタリアン・ポーズ(humanitarian pause:人道的一時停戦)ならいいと。
「pause」なら良くて、「ceasefire」はなぜダメなのか、世界に向かってちゃんと説明できるのか。そのような馬鹿げた理屈の中で、「いや、シーズファイアと言ったらハマスを利することになる」と言うわけです。そんなまったく論理として成り立たないことが主張されて、殺戮が進行中というのが現状です。
もう一点お話しさせていただくと、ではガザ側は、この状況をどう見ているのか。
当初、戦争が始まる前の段階では、ガザ市民は必ずしもハマスを支持していなかった。しかし、戦争が始まって日が経つにつれて、ガザの人は、これ以上失うものがないところまで追いつめられてしまいました。
この状況下で、イスラエルに対して何らかの妥協をする、あるいは、ハマスに降伏してほしいとかいうことは、まったく考えてないだろうと思うのです。今、降伏しても、何も得られないわけですから。
10月7日、攻撃の当初の段階では、「ハマス」という単語がガサの人が発信する文章の中でも主に使われていたんですけど、その後、変わってきました。現在は「ハマス」と呼ばず総称で「パレスティニアン・ファイター(パレスチナの戦士)」、あるいは、「レジスタンス・ファイター(抵抗の戦士)」と表現するようになった。
もちろん、戦士の中にはいろんなグループがあり、ハマスもその中の一つなのですが、身を挺してイスラエルと戦っているハマスを支持しないとか、批判するとかいうことは、現状ではありえないということです。
こういう意見は、私がコンタクトしている範囲の人ですから、総意だとは言いませんけれども、多分、今の状況からすると、ガザ市民が妥協して、ハマスから離れる、あるいは、戦後はハマス抜きの統治というものを考えるなどという欧米の思惑は、まったく通用しない。
10・7以前は、ガザ市民の中にも、ハマスのイデオロギーを嫌っている人はいました。しかし、本人がハマスでなくても家族の中にハマスのメンバーがいることは珍しくない。親族の中に、近所の人の中にいるわけです。
その人たちが戦っている現状で、今さら彼らを裏切って、たとえば「PA(パレスチナ暫定自治政府)が表に出るべきだ」とか、「ハマスのような暴力的な路線は捨てるべきだ」とか、ガザの人が思うかといえば、それはありえないですね。そうなると、イスラエル側はますますエキサイトしていきますから、さらに攻撃を強めることになる。
結論を言うと、イスラエルは勝てません。ガザの全人口、約220万人の市民を、本当に虐殺する気なら話は別ですけれども、そんなことはできるわけがないですし、市民、特に子どもや女性を犠牲にすればするほど、ガザの一般市民の男性はすべてがジハードの戦士となってしまう。
人口の半分が男性として、イスラエルは100万人以上も殺さないと勝てない。それは不可能です。ですから、イスラエルはどこかで、ハマス、過激派抜きのガザができるなら停戦してやろうと言い出すでしょう。
しかし、無駄なことです。2023年末のハマス戦闘員を皆殺しにしても、2024年には新しい戦士(それがハマスであろうとなかろうと)が誕生するだけです。
繰り返される攻撃と、口実のための嘘
三牧聖子(以下、三牧) 今、重要な論点がたくさん出ました。このお話をしている本日、2023年12月22日の時点でガザ市民の犠牲は2万人超、さらには220万人のうちほとんどの住民が強制移住(国内避難民の)状態にあります。ただ、瓦礫の下にも相当な数の方が亡くなっているだろうということで、犠牲者の数は、2万人でも少な過ぎるのではないかというような見方もあります。
イスラエルのガザにおける軍事作戦は、現代史における最短のペースで最悪の破壊をもたらしつつあります。
AP通信によれば、ガザでは戦闘開始から2カ月あまりで、2012年から2016年にかけてシリアのアレッポで行なわれた破壊、2022年にウクライナに侵攻したロシア軍によって包囲されたマリウポリの破壊、第二次世界大戦中の連合国によるドイツ空爆以上の烈度の破壊がもたらされたといいます。
また、2014年から2017年にかけ、イラクでアメリカ主導で行なわれたテロ組織「イスラム国」討伐作戦は、歴史上でもっとも激しい都市空爆の一つと考えられていますが、この時、アメリカ主導の連合軍がイラク全土で約1万4000回の空爆を行なったのに対し、ガザでは2カ月あまりで2万9000回以上の空爆が行なわれました。
特筆すべきは子どもの犠牲の多さです。2023年11月上旬の時点で、4500人を超えました。国連の調査によれば、過去数年、世界各地の紛争で1年間に犠牲となる子どもの数は2000人超から4000人超とされています。つまりガザでは1カ月あまりで、世界で1年間に犠牲になる数より多くの子どもの犠牲者が生まれてしまったことになります。
これらのガザ保健省が出す犠牲者数については、世界保健機関(WHO)などによっても信頼に足るものと認められています。ヨーロッパの人権団体が出している数字も、ガザの保健省が出している数字と、おおむね合致しています。
しかしバイデン大統領は「パレスチナ側が出してきた数字は信用できない」と、これまでに複数回、ガザ保健省が出した犠牲者数に疑いを投げかけてきました。これがユダヤ人の死者であった場合、死者の数に疑問を呈することなど許されないはずでしょう。
ホロコーストを否定することになってしまいかねない。でもパレスチナ人に対してはそれを平気でやってしまうわけです。2023年10月下旬、バイデン大統領が「ガザ保健省が発表する犠牲者数は信用できない」と発言した際には、ガザ保健省が抗議の意味を込めて、数千人の犠牲者の氏名一覧を公表したこともありました。
バイデン大統領は重要な局面で、本来、慎重に事実確認を行なわなければならないことについて、パレスチナ側の情報は信頼できないとして、イスラエル側の発表へ即座に支持を与えてきました。
10月17日、バイデン大統領がイスラエルを訪問しようとした際、ガザ北部のアルアハリ病院が爆破され、ガザの保健省は死者が471人にのぼったと発表しました。翌日、イスラエルを訪問し、ネタニヤフ首相と会談したバイデン大統領は、爆発への関与を否定するイスラエルの主張について、すぐさま支持を表明しました。
確かにその後、調査が進み、ヒューマン・ライツ・ウォッチなどの人権団体も、病院の爆破はパレスチナの過激派のロケット弾の誤射が原因である可能性が高いとの見立てを示しています。しかしそれは、爆破直後にすぐ判断できることではなかったはずです。
内藤 そうですね。
シファ病院への攻撃は本当に正当性があるのか?
三牧 イスラエルが主張する、不確かな情報とそれに基づく攻撃にアメリカが全幅の支持を与える。この構図が繰り返されたのが、ガザ最大の病院、シファ病院への攻撃でした。イスラエル軍は「地下にハマスの司令部が存在している」と断定し、病院の封鎖と攻撃を続け、多くの医療従事者や患者、新生児を死に追いやりました。
しかし、現在に至るまでイスラエル軍が提示してきたのは、複数のカラシニコフ・ライフル、ガザ地区ではありふれているトンネルの入り口くらいで、シファ病院にハマスの司令部が存在することを示す確固たる証拠を提示できていません。
戦時の文民保護について定めたジュネーヴ条約(1949年)は、「病院がその人道的任務から逸脱して敵に有害な行為を行なうために使用された場合」を除き、病院への軍事作戦を禁じています。
同条約は、「傷者若しくは病者たる軍隊の構成員がそれらの文民病院で看護を受けている事実又はそれらの戦闘員から取り上げられたがまだ正当な機関に引き渡されていない小武器及び弾薬の存在は、敵に有害な行為と認めてはならない」とも定めています。
イスラエルのシファ病院への軍事行動が、これらの要件を満たしていないことは明白です。攻撃する前に民間人を避難させる努力もまったく不十分でした。イスラエルはジュネーヴ条約には加入、その追加議定書(1977年)には不加入ですが、これらは慣習法であり、遵守するという立場を打ち出してきました。今回の病院攻撃も、国際法違反ではないと主張しています。
アメリカは一貫して、シファ病院はハマスによって軍事利用されているというイスラエルの主張を支持してきました。国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は、「アメリカは病院を空から攻撃することは支持しない」と留保した上で、「ハマスがシファ病院を軍事作戦の拠点として利用している事実を裏づける情報を確保している」と述べました。
しかし、それがどのような情報なのか。本当に、病院を攻撃するという例外的な事態を正当化しうるほどに確かなものか。今に至るまでアメリカ政府も示していません。
写真/Shutterstock
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